29
すいません、すこし遅刻しました。
引き続き榊視点です。
増えた矢は男の周りを回り、方向を変えて次々と襲いかかる。
男は、幾つかの矢はその身体能力の高さで避けるが、その多さに避けきれないものが出始め、やがて男に残りの矢が殺到した。
(ほら、こういう風にやるのよ。)
そう言ってノーツさんは軽く言う。
以前、先輩が放った矢は一撃で相手を貫いていたが、今回は相手に手傷を負わせるのみだった。
疑問に思い、聞いてみる。
(以前見たときより、威力が小さいように思うのですが……。)
(以前? ああ、アキラと一緒の時ね。あの時は私の持つ魔力を使っていたんだけど、普段は使い手の魔力を使うわ。矢の威力は使うものの魔力の量に依るの。)
(えと、つまり私の魔力が少ない、ということですか?)
(端的に言えば、その通りよ。 ただ、あいつの体が思った以上に硬いとか、私への伝達効率が悪いとかいろいろあるけどね。)
(伝達効率……? ですか。)
(そうよ、使われた魔力がすべて私に伝わるわけではないわ。仮契約のあなたであればせいぜい40%ね。とはいえ、それでも相性は良い方なんだけれども。)
褒められてるのかどうか分からない言葉を聞き、苦笑いする。
(あら? 褒めているのよ。私とそこそこ相性が良くて、アキラ以外に力を貸してもいいと思った人間は久々だからね。どこか似ているのかもね、アキラと。)
ノーツさんの先輩と似ているところがあるという言葉を聞き、私は少しに頬が緩む。
(どこににやけるところがあったのか分からないけれど、早く準備しなさい! さっさと片付けるわよ。)
言われて気を取り直し男の方を見ると、こちらを警戒するように睨み付けていた。
「その弓はなんだ? 榊の家にはそのようなものは無かったはずだ。他の家が隠していた切り札か? いや、そのようなものがあれば少しは話に上がるはずだ……。」
私は答えるつもりなどさらさら無く、無言で弓を構える。やり方はノーツさんに見せてもらった。
さっさと終わらせて、先輩にお礼を言わないと。まあ、命を救ってもらったんだから、それ相応のお礼をしないと。ここはやっぱり体かしら、先輩も喜ぶはずよ、うんうん。
(いいから早くやりなさい。あなた、本当に中身は面白いわね……。)
ノーツさんの呆れたような言葉を無視して、矢を放つ。放たれた矢はこれまでより格段に速い速度で進むと、身構える男の手前で八つに別れる。
「くっ! 」
男はとっさに後ろに跳びなんとか距離をとろうとした。
(あはは、今まで一番の魔力量よ! ほら行きなさい!)
ノーツさんの声に合わせるように、別れた矢はまるで竜の顎のように周囲から襲いかかると、男に食らいつく。
ザシュっという音と血が舞い、男はその場に膝をついたのだった。
次回から主人公視点に戻ります。




