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よろしくお願いします。
「あっ。」
という声の後、榊は何が起こったか分からないような顔をしながら、地面に倒れ、地面に染みが広がる。
「榊!」
彼女を呼び、鉈というには大きなそれを振り下ろし、彼女を見下ろしニヤニヤ笑っていたその男に矢を数回放つ。
男は一跳びで矢を避けて、後ろに大きく間をあけた。
僕は慌てて彼女に近づき、抱き起こす。
(傷がかなり奥まで達しているわね。おそらく臓器に達しているわ。)
そんな相棒の声を聞きながら、榊に呼び掛ける。
「榊、しっかりしろ!」
「……あっ、せ、先輩……、ち、力が入らないんです……。」
彼女は先ほどまでと違い、弱々しい表情で、こちらを見る。血を流しすぎたのか意識も薄れているようだった。
離れたところで見ていた男が話しかけてくる。
「くっくっくっ。そいつを始末する機会をずっと狙っていたが、まさか、こんなに早く巡ってくるとはな。まあ、鬼の姫も人の子だったということか。これほど意識が逸れることなどそうあるまい。」
「な、なにを言っているんだ?」
「いやいや、誰かは知らないがお前には感謝している。そいつがこれ程に隙を見せることなどそうないからな。」
榊を切り裂いたことがよほど嬉しいのか、饒舌にしゃべる。一方的、僕は、止まらない榊の血に焦りを感じていた。
「くそ! どうすれば。このままじゃ、榊が。」
その時、手に持つ弓を見て、忘れていた異世界での記憶を思い出す。
この神弓には幾つかの特性があり、その内の一つに持ち主の治癒能力を引き上げる、というものがある。これは、使用する魔力に左右され、最大限に発揮されたときには、致命傷すら即時に癒す。
ただ、持ち主と認められた者のみがその恩恵を受けるため、榊を癒すには、相棒である彼女を説得する必要があるが。
「頼む、榊を助けてくれ!」
(いやよ。何で私がアキラ以外を助けないといけないの。それにこの世界は魔力も少ないし、無駄に使いたくはないのよね。)
「頼む!」
必死で頼み込む。一方、手に抱く榊の体温がだんだん下がっていくのを感じていた。
(……はあ、わかったわ、アキラ。但し、これは貸しよ。)
それを聞いて感謝を彼女に伝えると、持っていた弓を急いで榊の手で握らせる。
榊はもう意識も保てないのか、視点の合わない表情をしていた。
「あっ、……せ、先輩、なにを……?」
「いいから、これを握ってろ!」
もう力が入らない彼女の手から弓が落ちそうになるのを、上から手を添えて防ぎ、握ったのを確かめるとあとは相棒に任す。
僕は、榊の持っていた刀を拾うと、男に向き合った。




