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コンビニの制服に着替え終わるとレジにいる店長のところへ向かい声をかける。
「店長、お疲れ様です。」
「ああ、弓取くん、お疲れ様。もう鳳さんには会ったかな。急にシフトが変わってね。」
店長はこちらに気がつき、シフトが変わったことを伝えてくる。高校生のみゆちゃんはさすがに深夜のバイトは対応できないため、店長に今日の深夜のシフトの確認をする。
「みゆちゃんから、鷺ノ宮さんが休みになったと聞いたのですが、深夜は僕と店長で対応するんですか?」
「それは、この老体にはさすがにきついよ。代わりに霧島さんに来てもらえるようお願いしたよ。」
そう言って店長は白髪の混じった頭を横にふり答える。急に休みになった鷺ノ宮茉莉さんの代わりに深夜のシフトでやって来る霧島エリザさんは、このコンビニの近くに住んでいる20代のお姉さんで、母がノルウェー人だとかできれいな銀髪をしている。ただ、何故かみゆちゃんとは仲が良くはなく、合う度に言いあいを繰り返している(どちらかといえば、エリザさんがみゆちゃんをからかっているのだけれど)。みゆちゃん曰く、これは宿命でどうしようもないのだとか。
エリザさんが来てくれるのなら安心ですね、そういうと僕はもうすっかり手慣れた仕事を始めるのだった。
◇◇◇
僕がこのコンビニでバイトをはじめてから、もう1年以上が経っていた。
1年程前、当時、高校一年生になって半年が過ぎた頃の学校からの帰り道にそれは起こった。突然足元が光出し、気がつくと周りの景色が変わっていた。
「勇者様、ようこそお越しくださいました。お願いがあります。どうか、この国、そしてこの世界をお救いください。」
声がした方向を見ると、映画で見るような中世のような鎧を纏った男女、魔法使いのようなローブを来た老人たちとともに豪華な服を着た少女が立っていた。
それは小説のなかでよく見るような今ではもう使い古された類いの話だった。曰く魔王に世界が滅ぼされようとしている。異世界から勇者の素質がある者を召喚した。世界を救ってほしい。そういった類いのよくある物語。
当時はまだ比較的好奇心が旺盛だった僕は快諾するのだった。それからいろいろあって、数年にも及ぶ、小説であれば文庫本10冊は越えるであろう冒険の末に仲間とともに無事に魔王を倒した。
どうもその召喚は、目的が達成されると自動的に元の世界に返されるようで、魔王を倒すと別れの挨拶も充分にできないままにこの世界に帰ってくることになったのだった。
さらに不親切なことに、召喚された時間に戻してくれる訳でもなく、かといって数年後たっているわけでもなく、中途半端に数ヶ月経った後に帰ってくることになったのだった。まあ、年齢は元に戻してくれたみたいなので、突然大人になるといった事態にはならず、まだ良かったのだけれど。
ただ、僕がいなくなった期間は、そのままいなくなっていたことになっていたようで、突然の家出だとか誘拐だとか、この界隈でかなり問題になっていたらしい。
それから、帰って来た僕はそんなことに気づかずに家に帰り、両親に連れられて警察に事情聴取を受けるも本当のことを言えるわけもなく(言っても変人扱いされるだろうとも思い)なんとか言い繕い、高校にまた通い始めるもなかなか馴染めず、両親をなんとか説得して中退し、無理を言って少し離れた町で一人暮らしを始めたのだった。まあ、中学生になったばかりの妹は最後まで僕の一人暮らしに反対していたけれど。