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よろしくお願いします。

「それで先輩、どこに連れていってくれるんですか?」


「へっ?」


思わず漏れた言葉に榊は呆れる。

彼女は、やれやれとでも言いたい風に手の平を上に向け、ため息をついた。


「はぁ、これだから先輩は。休日に女子高生に誘われて何もプランを考えてないなんて。美幽にも呆れられるわけです。」


「いやいや、だって、こんなことなんて思ってなかったから。」


「では、どういうつもりで?」


さっきとは一転無表情で見つめられる。

うっと詰まり答えることができない僕を、ジーっと見つめた後に、さらに一転にこりと笑うと、


「まあいいです、こうなるだろうと思い、私が考えてきましたから。さあ、行きますよ、先輩。」


僕は頷くと、なるようになれと思い彼女の後についていった。


◇◇◇


榊は少し前を歩き、迷うことなく人混みの中を進む。


時々、僕がちゃんとついてきているのを確認しているのか、チラリとこちらを見ながら歩く。ある時、立ち止まるとこちらに寄ってきた。


「先輩、ストーカーみたいに何を後ろを歩いてるんですか。ちゃんと横を歩いてください。」


「へっ? 横を? 」


思わず聞き直す。


「そうです。横を、です。」


その有無を言わさない口調に圧倒され素直に頷く。

再度、歩き始めた彼女の横に並ぶ。


ふと横から彼女を見ると、目が合う。


「何ですか。」


「あ、いや、どこにいくのかなと思って?」


「……そうですね。もうお昼ですし、何も考えてこなかった先輩と違って、私が調べてきたカフェにいきましょう。」


◇◇◇


そこは自分一人では入ることはない、雑居ビルの2階にある、少し大人びたカフェだった。


「さあ、突っ立ってないで入りますよ。」


そう言われ、榊に慌ててついていく。


中に入るとポツリポツリと席が空いているのみで、多くの人が食事やおしゃべりなど思い思いに楽しんでいた。


店員に案内され、二人向い合わせで席につく。


「先輩、まずはご飯を食べましょう。何にしますか?」


メニューを見せられ、食べ物を選択するよう促される。


ふと周りを見ると、ほとんどの客が男女2人で来ており、カップルばかりだった。


榊も周りに気付く。


「この店、雑誌で見てから来たかったんですよね。高校生一人だと雰囲気的に浮きそうなので来たことはなかったんです。」


そう言って榊は嬉しそうに笑う。

僕は、この場の空気にも流されているのか、いつもとは違う雰囲気の彼女に一瞬見とれた。


◇◇◇


時間がたつにつれ、僕も楽しむようになり、いつの間にか夕方に近くなっていた。


「榊、そろそろ帰る時間じゃないかな。」


「もうですか、まだ大丈夫ですよ。」


「いやいや、今から帰ると家に着く頃には日も暮れてるよ。」


「はあ、先輩は仕方ないですね。それでもちろん送ってくれるんですよね?」


「えっ?」


「えって何ですか! 美幽は送るのに私は送ってもらえないんですか?」


そう言ってむすっとする彼女を宥め、送ることにする。


二人で電車に乗り、駅に着く頃には日も沈みかけ黄昏時になっていた。


先に歩く榊の後についていく。


「先輩、今日はありがとうございます。とても楽しかったです。」


「僕も楽しかったよ。また、榊と遊びに行きたいな。」


「ふふ、それは良かったです……。」


彼女は立ち止まると前を向き、顔の見えないまま言う。


「また、遊びに行けるといいですね……、ほんとうに……。でも、行けるかどうかは先輩しだいです。」


そう言って、背を向けたまま、手に持っていた刀を袋に入った鞘から抜きさった。


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