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続きになります。
店長への挨拶と引き継ぎといったバイトの準備を終え、僕はみゆちゃんに話かける。
「それにしても、あきらさんがこんなに早く来てるの、わたし、初めて見たかも。店長も誉めてましたよ。」
「それは僕だってたまには早く来るときだってあるよ。」
そんか他愛もない話をする。そういえば、と話を無理矢理に変えて気になっていた榊のことを聞いてみる。
「今日は榊に会った?」
「えっ、るりちゃんですか? それは学校で会いますよ。」
「いつもと同じだった?なにか変わった様子とかあったりしなかった?」
「うーん、とくに変わった様子ですか……。とくにはなかったかなぁ。 あっ、そういえば、いつもより少し楽しそうだったかも。えっと、るりちゃんと何かあったんですか?」
「いやいや、何があると言うわけでは無いんだけど。ほら、昨日、たまたま家の近くで榊と会ってね、いろいろ話してたから。」
榊を気にする理由をまだ聞きたそうなみゆちゃんに、ほら、仕事を始めないと、と話をなんとか終わらせる。
僕は、榊の楽しそうとの様子に、昨日見た無表情の彼女からは楽しそうなことになる想像がつかず、嫌な予感を覚えた。
◇◇◇
それから時間がたち、客層にはちらほらと部活帰りの高校生が混じり始めた。
僕はいつ榊が入ってくるのか気が気でもなく、ちらちらと入口の自動ドアの方を見る。
「ドアの方を気にしすぎですよ、あきらさん。今日は変ですよ。」
端から見るとあまりにもドアの方を気にしていたようで、みゆちゃんから話しかけられる。
なんでもないよ、大丈夫とみゆちゃんに返し、気にしないように仕事に専念する。
◇◇◇
ふと自動ドアの方に目をやると、ガラス越しに見える外は暗くなり、店内にいた客層も高校生から仕事帰りのサラリーマンが増えていたが、いっこうに、榊は姿を見せることはなかった。
みゆちゃんが帰る時間となり、いつのまにか、引き継ぎの準備を終え、レジの対応をしていたエリザさんがこちらを見て、みゆちゃんを送っていくように促される。
僕が迷っているとエリザさんに何もたもたしてるのといった目で睨み付けられたので、慌ててみゆちゃんを送っていくための準備をするため、店の裏側に向かった。
裏に入ると彼女は帰る準備を終えて、いままさに出ていくところだった。
「みゆちゃん、ちょっと待ってて。今日も送っていくよ。」
「あきらさん、ありがとうございます。また、エリザさんに言われたんですか?」
「そうだよ。」
と僕が返すと、
「まったく、あの人はいつまでも子供扱いするんだから。」
そう言った後、裏口を開けるのを一先ず止めて僕の準備が終わるのを待ってくれたのだった。
◇◇◇
先に歩くみゆちゃんに続き、先日歩いた道を同じように進む。
「るりちゃん、今日は来なかったですね。」
「榊も毎日コンビニに寄る訳でもないだろうし、何か他に用事でもあったんじゃないの。」
みゆちゃんにそう返す。
その後も世間話をしながら歩いていると、以前みゆちゃんと別れた、家に近い場所に到着した。
「あきらさん、ここで良いですよ。ありがとうございました。」
「うん、それじゃあ。」
そう言って別れ、みゆちゃんは家の方へ帰って行く。
それを見届けた後、僕は帰るために来た道を引き返し、少し歩いた先で、道の真ん中に人影が立っていた。
「先輩、遅いですよ。待ちくたびれました。」
その人影、榊はそう声をかけてきたのだった。
◇◇◇
榊は手に布で覆われた、確実の刀と思われるものを持ち、無表情で立っていた。
そんな榊と向かい合い、僕は思っていたことを口に出す。
「ここらで、なんとなく榊が待っているような気がしたよ。」
「へえ、それはうれしいですね。先輩と私は通じあった仲というやつでしょうか。それでは私の考えていることも分かりますか?」
「いやいや、通じあった仲じゃないし。それに榊が考えていることはわからないよ。」
「それは残念です。」
彼女はちっとも残念そうにはない風にそんなことを言う。
「まあ、今日は別に先日のことを問いただそうと待っていたわけではないんですよ。ちょっとお誘いに来たんです。」
「誘い?」
問いただされるものだと思っていた僕は怪訝そうに確認する。
「はい、先輩。今度のバイトの休みの日に会いませんか? 今日、動向ご気になってた女子高生とデートできるんですよ、喜んでください。」
ほんの少し、ふだん、僕をからかう時の調子でそんなことを言う。
「えーと、それは拒否権とかあったり、」
そう問い返そうとしたとき、彼女の手に持ったものから、カチャリっと刀を少し抜くような音がして、
「先輩、痛いのはお好きですか?」
と真顔で言ってきた。
思わず僕は、今度の休みに会う約束を取り付ける。
「それでは、楽しみにしていますね。」
榊はそう言うと、そのまま僕の横を通りすぎていった。




