12
少し遅刻ですが、お待ちいただけた方がいればごめんなさい。
それでは12話目、よろしくお願いします。
少しして、榊はこちらにゆっくりと近づいてくる。警戒しているのか、手には抜き身の刀を持ったまま。
「さて、先輩、説明してもらえますよね。事と次第によっては……。」
いつものコンビニで会うのとは違う真面目な雰囲気でそう言うと、無表情なままで刀の歯を僕に向けた。
(それでどうするの? アキラ。この娘、すごく警戒しているみたいだけど。)
(それはあたり前だろ! おまえがあんなに張り切って光撒き散らしたりなんかしたから。あんなことすれば誰だって警戒する! )
こっちの世界じゃ魔法なんてないんだし、と言い返す。
(な、人のせいだって言うの! 危なそうだっから助けてあげたって言うのに。この恩知らず!)
彼女は僕の心の中で負けじと言い返してくる。彼女はそれに、と続ける。
(この世界に魔法がないっていうけど、あの娘だって魔法を使ってるじゃない。まあ、私がいたあの世界ではあまり見かけない使い方だけど。)
身体を強化の部類かしら、いや、それにしては、と何やら一人で考え込み始めた。
僕はさらっと告げられた内容に、なっ、と驚き絶句する。
一方、心の中に響く彼女の声が聞こえない周りからは、僕が一人で顔を百面相のように変えているようにしか見えないので、その様子を見ている榊は怪訝そう顔をしかめた。
少しして、榊は黙ったままの僕に堪えきれなくなったのか苛立った様子を隠さないままで聞いてくる。
「先輩、黙ってたら分からないんですが。それとも……、言えない事情でもあるんですか。」
なんなら話しやすいように少し痛い目にあってもらいましょうか、そう言って榊は無表情のままニヤリと笑いを浮かべた。
僕は榊の緊迫した雰囲気を変えようと、少し考える素振りを見せた後、できるだけ普段通りに見えるようにして話しかける。
「えーと、そうそう。榊は夜遅くにこんなところでなにをしてたの? それに、手にそんな危なそうなものを持ってどうしたの。」
(……。)
少し (いや、かなり) 無理のある話題の変え方に、心の中から何か言いたそうな雰囲気をひしひしと感じたけれど、無視して続ける。
「それにほら、さっき、取引するって言ったじゃない、ね? それにもう夜も遅いから今日はもう解散ということで。」
「……。」
それじゃ、お疲れ様ー、と何事もなかったように帰ろうと背を向ける僕を榊は無言で睨み付けてくる。
そして、背中から嫌な気配を感じ、咄嗟に身体を横に反らすようにして跳んだ。
シュっという音がもといた芭蕉から聞こえ、刀を振り下ろす榊の姿が目端に映る。
「……へぇー、少し手を抜いたとはいえ、今のを避けるんですか、先輩。たしか、武道もなにもされてませんでしたよね。」
「な、当たってたらどうするんだ! 怪我ではすまなかったぞ!」
焦る僕に容赦なく刀を振り下ろした彼女は、手に持つ刀の先を地面に向けて立つと、まったく気にした様子もなく、いやいやギリギリ止めるつもりでしたよ、などと本気か嘘かも分からないことを返してくる。
「先輩、それに取引に応じるとは、言ってませんでしたよね、私は。」
うっと、詰まる僕をそのままに榊は続ける。
「そうそう、ここで何を、でしたっけ。そこの男を始末しようとしていたんですよ。まあ、代わりに先輩がやってくれたのですが。」
それで先輩は?と、またこちらを見て、僕に答えるよう促す。
無言のまま、じっと見てくる彼女に堪えきれず、僕は少し目をそらす。
「はあ。」
榊の様子に逃がしてくれそうにないと諦めた僕は、ため息の後、彼女にこの場所に来た経緯などを説明し始めた。
次回は明日の同じ時間に更新します。




