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よろしくお願いいたします。

「魔王、これが最後の闘いだ。」


僕は手に持ったまばゆく金色に輝く弓と矢を構えながら魔王にそう叫ぶ。



これは今となっては遠い昔に思える、ここではないどこかであった物語。これは夢を見ているのだと分かっていながら、覚めることもなく映画のスクリーンに写された映像のように流され続け、場面は次々に切り替わる。


白銀に輝く剣と虹色に輝く盾を持った若くそして屈強な戦士が僕の前方から声をかけてくる。


「アキラ、前衛は任せろ。しっかり魔王を抑えてやるからな。」


膨大な魔力を迸らせた玉を先端に抱き捻れた杖を掲げながら魔女のような格好をした勝ち気な少女が横から話しかけてくる。


「アキラ、魔王をギッタギタにしてやるわよ。」


そして、聖なる気配を持つローブを身に纏い清楚な少女が隣から微笑みかけてくる。


「勇者様、世界を救いましょう。」


ああ、もう少しで終わりだと思いながら、あれからもう何度も繰り返し見た物語を終わりまで見続ける。



◇◇◇



空を照らしていた太陽が少しずつ傾き始めた頃、地方の街とは言い難く、しかし、片田舎よりはまだ都会的な古いしきたりが数多く残る町にある安アパートの一室で、


「ピピピ、ピピピ」


と鳴り響くスマートフォンの横に敷いてある布団の中が芋虫のようにモソモソと動く。


「うー、もう少し寝させて。」


「ピピピ、ピピピ、ピピピ」


「あー、もう分かったから、起きるよ。」


10代後半に差し掛かるかどうかといった、少し幼さの残る男子がのそりと布団から顔を覗かせると、スマートフォンの画面を操作して鳴り続けていた目覚ましの音を消す。


「懐かしい夢を見たな。ここ最近は見なくなってたのに。」


眠そうな目を擦りつつスマートフォンの画面の時計をみて、思ったより時間が過ぎているのに気づき驚く。


「やべ、もうこんな時間か。急いでバイトに行く準備をしないと。遅れるとまた店長に怒られるよ。」


あわてて布団から起き上がると、バイトに向かう準備をするために洗面所に向かう。



◇◇◇



準備が終わりドアを開けてアパートの部屋から出ると、外はもう赤く染まり夕方に差し掛かろうとしていた。


「さて、行くか。」


彼は軽く伸びをしたあと階段を降りて、アパートを後にすると、バイト先のコンビニに向かう道なりに歩いて行く。


「まだまだ外は暑いな。」


もう日が暮れはじめ、また暦の上では秋になろうかというのに外はまだまだ暑く、少し歩くだけで汗ばんでくる。


周りをすれ違う学校帰りの高校生や夕飯の買い物帰りの人たちを横目で見ながら少し急ぎぎみに進み、住んでいるアパートから40分ほど歩くとようやくバイト先である目的地が見えてきた。自動車で1時間ほど進むと街に続く、この辺りでは比較的大きな道路に面した一画にバイト先であるそのコンビニはあった。



スマホの時計を見ると遅刻はしていないものの、どちらかというと少し遅い。急いでコンビニの裏口かのドアを開けると、中にいるであろう人にお詫びの声をかける。


「すいません、少し遅くなりました。」


そう言って中に入った。


「あ、あきらさん。お疲れさまです。」


中にいた髪をサイドテールにした女の子は声に気がつくとこちらを見て笑いかけていた。


「あれ、みゆちゃん。今日、シフトの日だったっけ?」


「いいえ。元々は明後日だったんですけど、まりさんが急に用事が入ったとかでヘルプなんです。あきらさんも来なかったらどうしようかと思いましたよ。」


もー遅いですよと言って彼女はほっぺたを膨らました。

彼女は 鳳魅幽(おおとりみゆう)。僕より一つ下の近くの進学校に通う高校1年生である。本人いわく、なんでもこの地域に古くからある由緒正しい家の一つで、お嬢様らしい。

なんでそんな進学校に通うお嬢様がコンビニでバイト?と思わなくもないが、店長が彼女の父親と知り合いで、社会勉強の一環でここで時々働いているのだとか。


僕はごめんごめん、そう言いながら奥の着替えスペースに向かい、急いで準備をすることにした。

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