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4章 再別

山場を越えてまた山場

そして決着

4章 再別


 私が誘拐?される事件からしばらく経った。

 その間に変わったことがある。私の立ち位置だ。

 奴隷をという一番低い立場からラルフの恋人というかなり高位置に立った。レイアにも認められての恋仲となり全員から祝福された。

 結婚についてはこの世界の人間の法と私の世界の法を採用して16歳になってからということになった。こんな無法地帯で関係のない法に従う必要なんてあるのかと思ったけどレイア曰く子づくりに必要な体ができていないとのことなので納得した。

 他にも変わったことがある、私の体調だ。

 どうもここ最近風邪のような症状が出る。ひどいときになると本当に体が動かなくなる。

 重大な病気かもしれないとラルフが医者を探して連れてきてくれたが特に異常はないらしい。

 だがこう頻繁に症状が出るのは何かがおかしい。

 ラルフたち全員で原因を調べてくれている。

 そして今日も私は動けなくなっていた。ひどい熱で汗が出る。リリーが看病してくれているけど辛い。

「大丈夫ですか、ミノリさん」


「…うん……水……頂戴」

 コップすら持てない状況なのでリリーに直接口に水を入れてもらっている。何とも不甲斐ない。

「……ミノリ」

 真剣な顔でラルフが部屋に入ってきた。

「どうしたの?」


「えっと、だな、お前の症状の原因が分かった、対策も、な……」

 喜ばしい報告だというのに歯切れが悪い。何か裏がある。

「どうしたの、はっきり言って、言いなさいよ」


「あ、ああ、お前のその症状、原因はな、この世界にいる事なんだ」


「えっ……」

 この世界にいることが原因。だったら対策というのは……

「元の世界に帰るのが、対策?」


「そうだ、すぐに戻る準備はしている」


「こっちに戻ってこれるの?」


「……………………」

 元の世界に帰ったらこっちには戻ってこれない。だったら……

「じゃあ帰らない」


「ミノリ!」


「やだよ、せっかくラルフと一緒にいられるのに、帰りたくないよ」


「このままだと死ぬんだぞ!」


「それでも!……っ」

 それでも私はラルフと一緒にいたい。たとえ明日死のうとも最後まで、ラルフと一緒にいたい。

 せっかくまた出会えたのにやっと好きって伝えられたのに、もうすぐ、結婚できるのに……

 そんな気持ちを口にする前に、意識が途切れた。

 私が目を覚ましたのは次の日だった。今日は結構調子がいい。熱もないし体も自由だ。でも、気持ちは重たい。

 冷静になって考えてみる。

 私がこの世界に残ったとしよう。

いつ死んでもおかしくない私、もうずっと動けなくなるかもしれない。そんな私をラルフはずっと見続ける。

 それって、とても辛いんじゃないだろうか。愛する人が辛そうにしているとこを見るなんて……

 ラルフだけじゃない、リリーや、ルークさん、レイアも、辛いだろう。みんなに迷惑かけるなら、いっそすぐにでも分かれるべきではないだろうか?

 それだけじゃない、きっと元の世界では私の両親が心配している。私1人のわがままでこの世界にとどまることは、多くの人に迷惑をかける。

「ミノリ……」

 考え事をしていたらしていたらラルフがやってきた。

「ねえ、ラルフ、何で私、この世界に来たのかな、この世界に来なければ

 こんなに、悲しむこと、なかったかも、知れない、のに……」

 目から涙が零れてくる。


「すまない、ミノリ」


「謝らないでよ…」

 怒ってほしかった、この世界に来たのは間違いじゃなかったって言ってほしかった。謝ったら本当に間違いだったって思ってしまう。

「すまん、俺なんだ、お前をこの世界に連れてきたのは」


「えっ……?ごめん、ラルフ、私、変なこと言っちゃって」

 ラルフが私をこの世界に連れてきてくれたんだ。それなのに、私この世界に来たのは間違いだなんて言って、最悪だ。

「いや、実際お前を連れてきてお前に迷惑をかけた、すまん」


「ううん、そんなことない、本当は間違いだなんて思ってない!

 ただ不安になっちゃって、ラルフともう会えないから……」


「ミノリ」

 ラルフが私をぎゅっと抱きしめる。そしてラルフは私にキスをした。


「ありがとう、ラルフ、私をこの世界に連れてきてくれて」

 今のキスで決心できた。元の世界に戻って、私は生きる。精一杯楽しんで、生まれ変わってからまた会おう。

「ラルフ、私が元気なうちに、元の世界に帰して」


「ああ、じゃあこれに着替えな」

 そういって渡されたのは私がこの世界に来た時に着ていた服だ。

「拾ってきてくれたの?」


「まあな、でもワンピースの方がお前に似合うと思ってな、隠しておいた」


「ふうん、ラルフ、匂い嗅いでオカズにしてたんじゃないの?」


「バカ!んなわけないだろ、ちゃんと洗ってしまっておいた!」

 服を着て私は屋敷を出る。屋敷の前でみんなとお別れをする。

「リリー、あなたのおかげでラルフに好きって伝えられたわ、ありがとう」


「うう、ミノリさん…私、絶対ミノリさんのこと忘れませんから!」

 リリーは泣きながらも気丈に振る舞おうとしている。ちょっと行き過ぎたスイーツ脳ではあったけど、いい子だった。

「ルークさん、ラルフの事、これからもお願いします」


「もちろんですとも、ミノリ様お元気で」

 ルークさんにはお世話になった。主に傷の治療とか傷の治療とか……あれ?それ以外は雑談した記憶しかない。

「レイア、私の代わりにラルフのお嫁さんになってもいいわよ」


「兄上にその気があれば、だろ?まったく、嫌みな奴だ、とっとと行ってしまえ」

 レイア、私のライバルになるかと思ってたけど、普段の態度と違って奥手過ぎて結局相手にならなかった。でもそんなところがかわいらしい、私の妹になるはずだった女性

……年上だけど。


「じゃあ、さようなら!」

 私はラルフとともに森へ向かう。私が最初にいたあの森だ。

「着いたな、じゃあ始めるぞ」


「ラルフ、それは!」

 そういって取り出したのは豆腐だった。

 そういえば私がここに来たのって豆腐に頭をぶつけたからだった。

「ぷふっ」


「どうした?」


「いや、元の世界に変えるって、シリアスな感じなのに、豆腐なんだもの、あはは」


「ははっ、そうだな、だがこいつは本物のマジックアイテムだ

 こいつをもって念じれば想い人を自分の近くに呼び寄せることができるんだ

 遠くにいる2人を結ぶ糸 略して『トーフ』だとさ 

 異世界にも通じたがその代わり離れたところに呼び出しちまったな」


「トーフ、あははは、それで、帰る時はどうするの?」

「こいつを頭にぶつける!」

「あはははは!!」

 なんてギャグのような道具だろう。名前も使い方も全てが面白い。おかげで笑顔でお別れできそうだ。

「あれ?じゃあ森で使う意味あった?」

「いや、ただ最後は2人でいたいと思ってな」

「ラルフ……」

 今度は私からキスをした。

「元気でね」


「ああ、また来世で会おう」


「うん、絶対」

 ラルフが豆腐を振り被り、私にぶつけた。


 気が付いたら私は道路で倒れていた。時間は真夜中のようだ。真っ暗でだれもいない。

 私は素早く家へと向かう。

「ただいま」


「ミノリ!どこ行ってたんだ」

「心配したのよ」

 お父さんとお母さんが会うなりギュッと抱きしめてくれた。両親の久しぶりの抱擁、温かくて、安心できるこの感触、戻ってきてよかった。

 私がいなくなってから数日しか経ってないらしい。そういえばラルフが死んでから1年しかたってないのに向こうではラルフは20歳だった。時間の流れが向こうとは違うということだ。

 私は自分の体験してきた数か月のことを両親に話した。

 最初は信じてくれなかったけど髪の毛が伸びているという物的証拠と私の熱弁で信じてくれた。

「そうか、お前はラルフが好きだったもんな、楽しかったか」


「ちょっと、違うでしょ、辛かったわね、ミノリ」


「大丈夫、辛くはないよ、もう落ち込んだりしない、来世で会えるから」

 私が笑うと2人は安心した表情を見せた。ラルフが死ん出から見せていたのはお母さんを心配させてしまう不完全な笑顔だった。でも今はちゃんと笑える。最高の思い出を手に入れたし、最高の未来を約束したから。



20年後

「甲斐課長、書類のチェックを」


「そこに置いておいて」

 私はバリバリのキャリアウーマンとしての働いていた。結局あれから恋人を作ることなく勉学、仕事一筋で生きてきた。

 どうにも人を好きになれなかったのだ。

 でもご飯はおいしいし飼い始めた犬はかわいいし充実している。ほんの少しだけ物足りない気もするけどそれは仕方ない、人生そういうものだ。

「はぁ、疲れた」

 今日も仕事をこなしクタクタになり帰宅する。

 こんな日は愛犬のラリーちゃんで癒されよう。

「?」

 家の前に誰か立っていた。銀髪の少年、誰だろう。

「よう、ミノリ、遅かったな」


「誰?」


「まあこの姿じゃわかんねえか、ラルフだよ、ラルフ」


「えっ、嘘…」

 ラルフがいる? また転生? でもラルフを騙る詐欺師の可能性も……

「まだ信じてねえのか?じゃああれだ、向こうでお前がしたいたずらでも話していけばいいか?

 おしっことか言って紅茶注いだこととか、スカートの中から布切れ落してパンツの様に見せたとかもあったな」

 そういう細かいことは親にも話してない。向こうの世界にいた人にしかわからない、ということは本物だ、本物のラルフだ。尻尾も毛皮もないけど、紛れもないラルフ

大好きなラルフ。

「ラルフ!」

 私は涙を流しながら抱きついた。

「待たせたな、まあ、俺の方は60年と17年だから俺の方が待ったか」

 クールぶりながらもうっすらと涙を溜めているラルフに私は久しぶりのキスをした。

 この後幸せな人生を送ったのは語るまでもない。

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