空感氷記 1
ここは桜ノ宮中学校。各学年一組から八組まである、このあたりじゃたった一つの中学校だ。私、吹雪凍華はそこに通っている一年生。七組。今日は学年末テストの最終日で二月中旬なだけあって教室内も結構寒い。今は休み時間で、教室も廊下もテストの話で盛り上がっている。
「ねぇ、凍華。テストどうだった?寝ちゃってたぐらいだし自信あるんだよね?」
「さあ…知らないけど。別にどうでもいいし。」
そういう私も、机を挟んで立っている女子と話してる。私は座ったまま目線を下げてる状態だけど。彼女は要 南。私の親友で、運動は苦手だけど頭がとてもよくて、テストはいつも満点。ハーフアップにしたキレイな艶のある肩にかかるぐらいの黒髪。ぱっちりとした大きな明るいオレンジの瞳。スラリとした容姿。誰からも好かれる性格に、誰もが元気を貰える笑顔。要するに眉目秀麗で、さらに親が世界にまで進出している大企業の社長さん。見た目も中身も学力も親も凄いという完璧超人。その実、天然なところもあるけど。そんな南と私は、親友とはいえ正反対な部分が多い。ポニーテールにしても背中ぐらいまではあるストレートの黒髪。いつも眠たげなクマのある目付きの悪い暗い蒼の瞳。容姿は胸と身長ぐらいしか変わらないけど、私はあまり人に好かれないし基本無表情。ブスって言われる筋合いはないけど美人って言われる筋合いもない。普通がいいんだ。目立つのも嫌いだし。だから南のことは羨ましいところもあるけれど、南になりたいとは思わない。そもそも私は南のことがそこまで好きじゃないから。
下げかけていた目線を上げ南を見ると、私が予想をいうのを期待しているのかニコニコしながら待っているようだった。
「何でニコニコしてんの?待ってたって言わないからね。テストとかほんとにどーでもいいし。」
「え~?毎回千香さんや真冬と点数で勝負してるのに?予想ぐらいいったっていいんじゃない?ただの予想だし。ねっ?」
ウザイと思いしつこく聞いてくる南に鬱陶しいとでも言いたそうな顔で見れば、伝わったのかム~っとされた。そんな南にため息をつき「時間がないから教科書とってくる」と言って席をたてば、南からは「待ってるから早めにね」と言われた。
教室の後ろへ行き、自分の荷物を見つけテストの時間割が書いてある紙を探していると二人の男子の会話が聞こえてきた。チラッと目だけをそちらに向けるといかにも明るい体育会系の男子と、その子と正反対に落ち着いたクール系の男子が話しているのが見えた。
「なぁなぁ、テストどーだった?俺まったく分かんなかったんだけどー」
「俺も分かんなかったよ。えっと、次は…社会か。」
「マジかよ!苦手2連続とかヤベェ…。社会とか全国統一した織田信長ぐらいしか知らねえし」
「…確かにそれはやばいね…。」
「へ?」
(織田信長って関ヶ原の戦いじゃなかったっけ?てか、次社会か。…私も苦手なんだよなぁ…。)次のテストが社会だとわかり、教科書とノートをとって立ち上がる。ついでに南のも持っていってやろうと南の荷物からも教科書をとった。にしても社会か…。今まで40点以上とったことないんだよな。今回こそはとれるように頑張らなきゃ。…早く戻ろ。カバンのチャックを閉め、立ち上がろうとしたその時、さっきの男子達の会話がまた耳にはいってきた。
「そういえばさー、今朝のニュース見た?俺らの町で殺人事件がまた起きたらしい!しかも犯人は能力者の可能性が高いって!」
「能力者」。その言葉に私はピタッと動きをとめた。そういえば科学やらなんやらでは説明できないような、漫画などでしか見ることのできなかったはずの力を持つ人達はいつからいるんだろう。どれだけ最近でもなきがいるのだから二百年以上は昔のはずだ。彼らは私が産まれた時にはもう世界中にいて、存在が認知されていた。でも数が多いという訳じゃない。大半の人は普通だ。能力者のことだって今や普通になりかけていて出逢えたらラッキー程度の認識。彼ら自身能力を活かして芸能活動をしてる人がいたり、逆に罪を犯す人もいる。でも、大抵は能力を隠して過ごしてる。私の住む町では他よりも能力者の数が多いらしい。独断だけど。けど、私が知ってるだけでも10人はいる。私も南も能力者だし、お母さんもそうだったから。