12.29 可能性があるとしたら、ローズマリーだと思う
「そんなシケたツラすんなよ、先生。もう少しマシな現場は、安全確認が終わったそばから捜査に入ってる。自動車爆弾の残骸も解析を進めてもらってるところさ」
「早速ご苦労なことで」
「警察だってやるときゃやるのさ。もっと褒めてほしいものだね」
早々に漂った手詰まりムードに落ち込みかかったシドを見かねたか、明るい兆しを織り込むアンディだが、相変わらず目が全く笑っていない。警察は本気で動いてる、今度は魔導士の意見を聞く番だ、と圧力をかけてくる。自爆テロの制圧を担当した当事者として、ちょっと考えてから私見を述べることにした。
「……突っ込んでくるドライバーの表情を見たんだけどさ」
「いきなり話の腰折ってすまない、センセイ。魔導士ってのはみんな、そこまで見えるもんなのかい?」
「見えちまったもんはしかたねーだろ。ありゃ何も覚悟が固まってないヤツの顔だった」
「自分が乗ってきた車が突然暴走したから、戸惑う、焦る、そういった感じかしら?」
「おおかたそんなところかな。自分でクルマを突っ込むよう仕向けたんなら、もうちょい気合いの入ったツラするんじゃねーかな? 外から見えない力を受けたか、そうでなけりゃ……」
「怪物を鳩に空撮させたあの爺さんみたいに、薬で神経系を支配したうえで外部から魔法で操った、か?」
「断定はできねーよ。魔法だと証拠が残りにくいし、そもそも世の中にゃ俺たちの知らない術式だってゴマンとある。極端な話、何でもありだ。そっちから掘り下げ始めたらキリがねーからさ、まずは爆発物が使われたかどうか、警察の方で解明してくれよ」
どうにか答えを聞き出せれば、と粘るアンディの気持ちはわかる。だからといって、あやふやな推測で警察の捜査を混乱させるのもシドの本意ではない。魔法が使われた可能性を探るのなら、それ以外の可能性はある程度潰しておいてほしいところだ。
カレンはというと、横に座るシドに回答を委ねつつ、これ以上答える気に乏しいとみればうまく話を継いでくれる。
「ムナカタ君の意見には、私も概ね同意しますわ。そもそも捜査も緒についたばかりです。魔導士側としては、まずはそちらの進展を待ちたいと思います。
その代わりといってはなんですが……魔法使いもどきの件も含め、近隣諸国の魔導士関係の各機関へ問い合わせるくらいなら、現状でも対応可能かと。こう見えても国際部ですし、人を動かす権限もございますので。いかがです?」
「そんなの、ここで約束しちまって大丈夫かよ?」
「ご心配なく、ムナカタ君。管理機構からはすでに承認をいただいています。もはやイスパニア国内だけでとどめておくべき問題ではないと、理事会でも意見が一致しましたから」
「それなら是非にお願いしたい。頼みますよ、セニョリータ・ガーファンクル」
シドに理解を示しつつ、アンディに土産をもたせる落とし所を探して、カレンの話は一旦終わり――かに見えた。
「他人がいかなる魔法を発現させたかを推し量るのは、えてして難しいものです。でも、当事者となれば話は少し変わってくるでしょう。ね、ムナカタ君」
「あんだよ」
「ホテル・オリエントで飛行機の墜落に巻き込まれたと思われたあなたたちが、なぜ、ハンディアで保護されていたのですか?」
心底不思議そうに問うカレンと、どこか訝しげな視線を向けてくるアンディを前に、シドは答えに窮してしまう。テロの手法も自分の身に降り掛かった不思議体験も、彼にしてみれば相当の難題。それがわかりゃ苦労はねぇ、とつい毒づいてしまう。
「飛行機が急降下し始めたから逃げろ、って言ったのは覚えてるかい、センセイ?」
「記憶にねーよ。ローズマリーが通信を受けたってのも後で聞いた」
ホテル・オリエントにとどめを刺す一撃を前に、万屋ムナカタの面々は精根尽き果ていた。自力で王都を脱出し、医療都市にたどり着けようはずもない。それもごく短時間で、だ。
ただし、類似した例だったら、シドにも一つだけ心当たりがある。
「可能性があるとしたら、ローズマリーだと思う。俺とかクロじゃない」
「理由を聞かせてくれるかい?」
「エプサノの事件のときに、現地にいたはずのあいつが、なぜか遠く離れた場所で保護された。それを教えてくれたのは他ならぬあんただぜ、アンディ」




