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魔導士はつらいよ〜万屋ムナカタ活動記録〜  作者: 白猫亭なぽり
第12章 猫とメイドと万屋ムナカタの年明け
173/188

12.17 ガキの頃はずいぶん面倒な思いをしたもんだ

「魔導士は、先天的に魔法を行使できる者のうち、魔導士管理機構(ギルド)によって認可され免状の交付を受けた者を意味します。国家公安庁長官の説明にあった資格保有者と魔導士は同義、そう捉えていただければ結構。反対に、認可と免状なしに魔法を使う者は、無資格者あるいは無資格の魔法使いと称され、取り締まりの対象となります。

 では、そもそも魔法がつかえるかどうかは何で決まるか。これは天分と答えるほかありませんな」


 長官は動かず、左に座ったガーファンクル卿にすべてを委ねる構えだ。卿もそれは承知しているらしく、相談はおろか目配せもなく、ただ質問に答える。


「魔法の才をもって生まれてくるか否かは、親や性別と同様に選べません。魔法使いがどのような環境下であれば生まれるのかすら不明です。両親ともに魔導士でありながら子は魔法と無縁という家庭もあれば、逆もまた然り。兄弟の中に、魔法の使い手とそうでない子が混在する例もざらにある」

 

 魔導士たちにとって当たり前の話を、驚きを持って受け止めたのはマスコミだけではない。指揮所に詰めている警部も同じだ。


[ガーファンクル卿の話って本当かい、センセイ?]

「兄弟がどうのこうのって話なら、マジだぞ。俺の家族も、お袋と一番上の姉貴と俺は魔導士だけど、親父と二番目の姉貴は違う」

「先生、お姉さまがいらしたのですか?」

「言ってなかったか? 姉二人だから、ガキの頃はずいぶん面倒な思いをしたもんだ」


 腑に落ちたような顔で一人頷いているローズマリーに、どんな心持ちの変化か聞こうとするも、ガーファンクル卿が話をもとの筋道に戻したせいで機は失われてしまった。


「いずれにしても、魔法使いは生まれつき魔法に目覚め、かつ長じてなお力を失わない者というのが常識でした。しかし昨今の事件の犯人は違う。魔法とは無縁だったはずの者が後天的に魔法の力を手に入れた、あるいは年齢が長じて使い手に転じたのは前代未聞です」 


 管理機構(ギルド)より魔法を行使する資格ありと認められた「魔導士」と、そうでない「魔法使い」。魔法を使う二者を隔てるのは免状の有無だけで、才をもって生まれ落ちた点では共通だ。だが、「魔法使いもどき」はそうではない。魔法を使えない身として生まれ育ちながらも、何らかの外的要因によって()()を手にした一点で決定的に違う。


「しかしですね、現実にそのような者が現れて事件を起こし、被害が出ている以上は対応せねばなりません。国家公安庁およびその関連組織群は、後天的に魔法を獲得した無資格の魔法使いを『魔法使いもどき』と称し、それらが引き起こす一連の事件について、魔導士管理機構(ギルド)と協力して鎮圧と捜査にあたります」


 長官の言葉を文字通りに捉えるなら二組織だけの提携関係だが、実際のところ、魔法に関わる者たちの素性は幅広い。シドの知る限りでも、エマを筆頭としたハンディアの医師たち、シュタイン兄妹率いる王立工科大学の学生たちも渦中の人となっている。名前が出てこなくとも、彼らの活躍なくしては真相に近づけなかったし、警察と魔導士の本格的な協力体制にも至らなかっただろう。


 ――ずいぶん大事(おおごと)になっちまったな。


 巻き込んだ人々、巻き込まれた人々のことをぼんやり考えていたシドの視線の先で、我慢しきれなくなった報道陣から質問が飛ぶ。そのすべてが本質を穿つものではない。関係者の中で使われていた通称が公称へと格上げされたことへの不満は、その一例だ。


「ガーファンクル理事、魔法使いもどきというのは公的な呼称でしょうか? 公的機関としては不適切ではありませんか?」

「不適切? どこが?」

「いえ、ですから、いくらなんでももどき、というのは」

「『運命を捻じ曲げ、破綻させるのは術者の技量によらず、誤った魔法である』。洋の東西を問わず、魔法関連の教本に必ず書いてある教訓です。養成機関(アカデミー)の通年過程、定時過程、短期集中型過程のいずれであっても、この文言を教わらぬ者はおりません。

 魔導士たちは長い歴史の中で、自らの経験を積み上げて教義を作り上げてきました。今、魔導士管理機構(われわれ)が警察とともに取り締ろうとしているのは、それらの意味に触れることも解することもなく、魔法を使う者たちです。教えも知らず、義も守らぬ連中に、外道以外の呼び名を与える道理などない」

「しかし」

管理機構ギルドは魔法使用の認可と資格の発行を通じ、魔導士と彼らが行使する魔法の把握と管理を行う義務を負っております。しかしながら、後天的に魔法を身につけた者を拒む理由や法は、このイスパニアには存在しません。魔法を使いたくば近くの支部の門を叩き、然るべき手続きを踏めばよろしい。

 幾度でも申し上げましょう。世に仇なす魔法使いは、すべて警察や管理機構(ギルド)の取り締まりの対象です。先天的に魔法を持つか否か、資格の有無は無関係だ」

「あ、あの、一つ質問なのですけれど」


 女性記者が手を挙げる。配属されて日が浅いのか、ガーファンクル卿の圧にもともとの性分か、話すよう促されても恐る恐るといった調子だ。


「先天的に魔法を使える魔導士と、魔法使いもどきは、具体的にどこが違うのでしょうか? 明確に区別できる特徴はあるのですか?」

「生来の魔法使いの体には、必ず、魔法を発現するための器官が備わっています。魔法使いもどきにはそれがなかった。司法解剖した結果、例外なく、です。王都に限らず、イスパニア全土で、同様の報告がなされています」

「……体の構造が、そもそも違うことはわかりました。ではなぜ、魔法使いもどきは、魔法を手に入れたのでしょうか?」


 核心に迫る問いかけが飛んだのは、誘導か仕込みでもあるのではないか、と疑いたくなるタイミングだった。

 シドとローズマリーに限らず、魔導士たちの肩がぴくりと動く。事件に首までつかっていれば、ここから会見の本題へつながるのは容易に想像がつく。

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