表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導士はつらいよ〜万屋ムナカタ活動記録〜  作者: 白猫亭なぽり
第12章 猫とメイドと万屋ムナカタの年明け
165/188

12.9 やりづらくならねーか?

「改めて順番に話す。まず、センセイたちの伝手(つて)で分析してもらった、魔法使いもどきになるクスリのことだけど、明日付で正式に違法薬物として指定される」


 件の薬物がご法度と決まれば、警察も本腰を入れて摘発を始める。その過程で魔法使いもどきと敵対するのは明らかだが、彼ら自身は魔法に抗する力に欠けているから、万屋ムナカタにお鉢が回ってくる機会も増えそうだ。公的機関相手の仕事は支払いに間違いがないから、シドとしては大変ありがたい。ただし、万屋ムナカタは少数精鋭。任務の気配にローズマリーが碧眼をきらめかせる横で、シドは人的・時間的資源(リソース)のやりくりを考えてしまい、ついため息をつく。


「通称『フェアリィ』ですか。ずいぶん雅やかな名前をつけたんですね」

「化学の素人に覚えてもらうには、センセーショナルでインパクトのある名前が必要だからね。人心を惑わして魔法を授ける厄介な存在、ってところかな」


 並んで座った師弟に対し、アンディは()()という言葉を強調してみせた。彼を苦慮させているのは事件だけではなさそうだ。


「警察は魔導士管理機構(ギルド)と協力して、フェアリィの本格的な撲滅に動く。調印は明後日すませる予定だ」

「組織が手ぇ組んで妖精退治か。ずいぶんでかいことブチ上げたもんだな」

「捜査を進めるなかで、魔法使いの違法行為の取り締まりは避けて通れない。資格の有無も、生まれつきか否かも関係なく、ね。その時には魔法のプロの協力が絶対必要になる。そこは上層部にもご理解いただけたよ」


 捜査の過程で、魔法を知り尽くす者――魔導士と敵対する可能性もあると、警察とその上位組織・国家公安庁は予想しているのだろう。来る日のためにあらかじめ魔導士管理機構(ギルド)を引き込んでおくという腹積もりを、アンディは簡単にではあるが明かしてくれた。

 シドの脳裏に、カレンを筆頭とする管理機構(ギルド)の面々がよぎる。当然ながら、皆が荒事慣れしているわけではない。何らかの形で募集と選抜(リクルーティング)が行われてから合流するのだろうが、そこは万屋ムナカタの預かり知らぬところではある。


「共同戦線を張ってフェアリィを潰すって話を、記者会見で発表すると決めて、僕らに通達が降りてきたのが昨日の昼だ」

「本当に急な話ですね……」

「お上の命令に逆らえない、ってのは公僕の辛いところだね」


 古今東西を問わず、上層部が決めた名案(おもいつき)を形にするべく右往左往するのは、下々の者たちだ。アンディもその部下たちも、国家公安庁あるいは警察上層部に振り回されっぱなしなのだろう。


「それ、やりづらくならねーか?」

「どういうことだい?」

「魔導士の採用を最近まで拒んでた警察が、管理機構(ギルド)と協力します、魔法絡みの違法薬物の摘発を重点的にやりますって大声だして触れ回っちまうと、悪い方向で目立っちまいそうな気がするんだけど」

「警察も国家公安庁も、ケツが重い組織だからね。それくらい大々的にぶち上げないと、フェアリィ退治も魔法使いの違法行為取り締まりも中途半端で終わっちまう可能性がある。もちろん、センセイやCCにも、もっと頑張ってもらうからね」

「お任せください、警部」

「ローズマリーはそう言ってるけど、最終的に受けるかどうか決めるのは俺だし、いつもどおり地獄の沙汰も金次第だ。それはともかく、仕事の内容は?」


 (しわ)い態度を咎めるように睨まれたとて、シドはお構いなしだ。万屋ムナカタに持ち込まれた仕事を精査し、受けるべきか否かは慎重に見定めなければいけない。鬼が出るか蛇が出るか、手帳片手にじっと、次の言葉を待つ。


「二人にお願いするのは、記者会見当日の会場の警備、なんだけど……」


 一転して申し訳なさそうな顔になったアンディが差し出したのは、A4の上質紙にタイプされた定型文。依頼状であることは一目瞭然だが、シドが知りたい情報の欄にはいずれも未定(TBA)としか記されていない。


「不親切って言葉の意味、知らねーとは言わせねーぞ、アンディ?」

「こればかりはシド先生に賛成です。予定が立てられないのはさすがに困ります」

「君たちを信頼してないわけじゃないんだ」


 納得できかねた魔導士の師弟は、揃って不満をつのらせる。大人のほうがやや露骨であるが、それはいつものことだ。


「正直言うと、僕もXデーが何日なのか、知らされてない」

「一丁前に情報統制でも気取ってんのか? あんた、実働部隊の指揮とるんだろ? そんな調子で大丈夫なのかよ?」

「年中無休とまではいわなくても、緊急出動の準備はできてるから、動員自体は別に問題ないよ」

「それでも、警部のところまで情報が行き届いていないというのは不可解です。なにか狙いがあるんでしょうか?」

「それを深追いするのは現場の仕事じゃないぜ、CC」


 探究心と好奇心にあふれた年若い魔導士をやんわりと制したアンディは、ジャケットの内ポケットからくしゃくしゃのメモを取り出す。書類を発行したときに未定だった情報を補足するためか、秘匿したい情報は口頭だけでやり取りしたいという配慮だろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ