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魔導士はつらいよ〜万屋ムナカタ活動記録〜  作者: 白猫亭なぽり
第12章 猫とメイドと万屋ムナカタの年明け
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12.5 まさか、異常でもあったのか?

「動機が今ひとつ見えないのが気になりますわね。どのようなきっかけで、彼らは魔法の力を得るに至ったのかしら……?」

「ボニー以外は死んじまってるから、聞き出しようもねーしな」

「私はなんとなく、わかる気がします」


 ぽつりと答えたのは最も年若い魔導士、ローズマリーだ。

 少女が魔法を極めんとする事情――両親を殺めた犯人への復讐――は、シドも当然知っている。彼女の境遇に同情の余地は嫌というほどあるし、復讐のために力を求める気持ちもわかる。だが、弟子をわざわざ血塗られた未来に送り出せるほど、彼も不出来な人間ではない。ローズマリーがとんでもない方向へ突っ走らないよう、大人として導いているつもりではあるが、実りの時期にはまだ早い。


「……坊主とメイドは何でも屋、ガーファンクルの娘は管理機構(ギルド)前衛(アタッカー)か」

「ムナカタ君と違って、私は別に、戦闘行為が本職ではありませんわよ?」

万屋(ウチ)も荒事専門のつもりはねーよ。持ち込まれる仕事に、そっちのスジが多いってだけだ」


 露骨に弟子を押さえつけるのも気が引ける、そんな師の親心を汲み取ってくれたわけではないのだろうが、エマとカレンはあっけなく、次の話題へ舵を切る。シドは内心で感謝しつつ、話を合わせることにした。


「私はいつでも準備万端ですよ、先生。事件でも護衛でもどんとこいです」

「前から思ってたんだけどさ、君、おとなしい顔してなんでそんなに血の気多いの?」

「え、そうでしょうか?」

他人(そと)己自身(なか)で認識に多少のズレはあろうが、お主らが魔法という力を行使する立場であることは変わりない。だからこそ、医師として言うておかねばならんことがある。心してきくがよい」


 カレンとローズマリーは自然と、シドは弟子に脇腹を突かれて姿勢を正す。なにかにつけて連絡をよこして頼ってくる面倒な魔導士たちに、エマは専門家としての助言というオブラートに包んだ釘を刺した。


「手っ取り早く力を得る、そんなくだらない理由で薬物に手を出すなんぞ、外道もいいところじゃ。日頃の地味な積み重ねで手札を集めてやりくりするのが人生、そこに近道も裏技もない。そこで重要なのが、身体(カラダ)精神(ココロ)許容量(キャパシティ)の見極めじゃ。どちらが壊れてもとんでもないツケを払わされることになる。ときに限界を超えるのは仕方なかろうが、超えっぱなしは厳に慎め。特にメイドの小娘」

「わ、私ですか?」

「他にメイドがおるかい」

「私は無理なんてしていませんよ? 先生にはちゃんとお休みを頂いてますし」

「その休みはなにしとる? どうせ真面目なお主のことだ、師匠を焚き付けて自主練にでも励んどりゃせんだろうな?」


 目を泳がせたのは、名指しされたローズマリーだけではない。彼女の師とて同じことだ。

 吸血鬼(ヴァンパイア)が人の道を諭すとはな、なんて茶々すら入れずに大人しくしていた彼が、きまり悪そうな顔をする。どんなに鈍感でも見逃しようがない変化に、エマもただ呆れるばかりだ。


「弟子の管理はお主の仕事じゃろう、坊主。アホなのは(ツラ)だけにしておけ」

「お二人とも練習熱心なのですね」

「自己管理できてないことを褒めんな、袴の娘」


 あら失礼、と口元に手をやって微笑んでみせるカレンだが、おそらく反省などしていない。心の芯からシドたちを称えている顔だ。


「特に小娘は、心・技・体、全て発展途上だ。鍛錬は大いに結構、若い分回復も早いが、それは無茶の免罪符にはならんぞ?」

「……私は、別に、無理なんて」

「してないと本当に言い切れるか、小娘?」


 シドの顔色がにわかに悪くなる。

 旧市街でボニーを相手取ったあの一件の後、エマの勧めで、ローズマリーは検査を受けている。彼女の卓抜した【加速】魔法への適性が自身を蝕んではいないか、大事をとっての措置だったのだが。


「まさか、異常でもあったのか?」


 狼狽に引っ張られて腰を浮かしかけた師匠と対象的に、弟子は冷静だ。まずはお話を伺いましょう、とシドの裾を引き、ソファへ帰らせる。


「そこで心配そうなアホ面しとる師匠のために、結論から先に言うてやる。

 小娘の身体は、今のところ何ともない。手足のしびれも、関節の違和感や痛みもなく、骨も筋肉も神経系の検査結果も至って正常。【加速】魔法で視神経が圧迫される懸念が出ていたが、目のかすみ、視野の欠損、焦点調節異常、いずれも認められない」

「そうか……」

「まだ話は終わっとらんぞ、坊主」


 万屋ムナカタのかかりつけ医と化した医療都市の姫君は、保護者に安堵のため息を許さない。ケーキを楽しむ姿や人形顔負けの可愛らしさからは程遠い冷徹さでもって、沙汰を下す。


「これまでの無事は、未来を保証するものではないぞ。いくら身体【強化】や【加速】への適性が高かろうと、疲労と損傷は確実に積み上がる。弟子のケアにもっと時間を割け」

「……おう」


 シドの返事にはやや力がない。

 魔法の指導や実戦はともかく、格闘戦技の訓練はオンボロ教会(しりあい)に任せがちになっていた反省がある。今後は自身の目で少女を見る時間を増やすべく、師は頭の中で策を講じる。


「私からも一つ。【加速】魔法を発現した際に、周りの景色がゆっくり流れて見えた、という旨の報告があったようですが、それは本当ですか、CCさん?」

「集中が高まれば、はい、そうなります」

「エマ様、そのあたりの理由について、ご見解はございますか?」

「わからん。【加速】に高い適性を示す者は診た経験があるが、小娘ほどとなると正直初めてだからな」

「ハンディアでいろいろ調べられるといいって思ったけど、さすがに望み薄か」

「できることがありゃとっくに提案しとる」


 できる範囲なら協力してやらんでもない、と暗にほのめかしたエマは、改めてローズマリーに教えを説く。

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