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魔導士はつらいよ〜万屋ムナカタ活動記録〜  作者: 白猫亭なぽり
第11章 猫とメイドとマフィアたちの挽歌
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11.28 そんな悠長なこと言ってられっかよ

「それにしてもセンセイ、今回もずいぶんな活躍だったみたいじゃないか? 魔法使いもどきの【熱線】を曲げたんだって?」

「ああ。でも、それだけだ」


 アンディの口調はいつもどおりやや軽い。それも相まってか、今のシドには本気の称賛も皮肉混じりに聞こえてしまう。


「曲げただけ。それ以上でも、それ以下でもない」


 吐き捨てるようにつぶやいたシドは、じっと両手を見つめる。今の彼の腕に、色街の魔道具屋で買い求めたあの制御帯は巻かれていない。


「こっちと向こう(ボニー)の被害を比べてみろよ、とても喜べる戦果じゃねーだろ?」


 ローズマリーの掌底二発とかかと落としでボニーを()()()までに、幾多もの鉄火場をくぐり抜けてきた「猟犬」の兵士たちが【熱線】の前に倒れた。クロも【防壁】を抜かれたし、ローズマリーも傷を追ってしまった。シドは最初から【熱線】を遮ることすら叶わなかった。

 生まれ持った魔力波長の特性上、シドの【防壁】は無色透明。光学系射撃魔法が透過してしまい、極めて相性が悪いことは以前から自覚していた。だからこそ、高密度に【圧縮】し、()()()|を高めた魔力をレンズ状に、あるいはプリズム状に整形し、遮るのではなく曲げることで対処したのは好判断だったとは思うが、所詮は付け焼き刃の域を出ていない、というのが自己評価だ。


「まあ、センセイ、そんなに気を落としなさんなよ」

「そうは言うけどよ、アンディ。いくら相性が悪いっつっても、魔法を使って何ヶ月も立たねー素人にこてんぱんにやられちまってんだ。ガキの頃から魔法を使ってる身としては、負けた気しかしねーわけだよ」

「警察にしてみれば、一介の魔導士の敗北感なんてのはどうでもいいかな」

「あんだと?」

「落ち着いてください、先生」


 色めき立ったシドだが、ローズマリーに袖を引っ張られ、反論をどうにか飲み下す。


「大局を見ろ。そういうことですよね、警部」

「そういうこと。わかってるね、CC。

 センセイにとっては、眼前の魔法使いと戦って勝つことも重要かもしれない。そこに美学を持ち込むのもどうぞご自由に、だ。でもね、今の僕らの目的を忘れてもらっちゃ困る。この事件における最終目標は何だ?」


 アンディに詰め寄られたシドは、一旦深呼吸する。試合に勝って勝負に負けたという後悔はいらない。今の彼に必要なのは、冷静さを取り戻し、狭窄した視野をもとに戻すことだ。


「……魔法使いもどきが出てきた原因を、突き止めることだ」

「それがわかってるならいいんだ、センセイ」


 ゆっくり、絞り出すようにシドがひねり出した答えに、アンディは満足そうに頷いた。


「負けることは許されないけど、勝ち方は問わない。真実にたどり着ければそれでいい。もちろん、戦技研究は大いにやっていただいて結構だし、君たちの無事もちゃんと祈ってる」


 取ってつけたようなお祈りしやがって、と舌打ちするシドを、アンディは見て見ぬ振りでやり過ごす。


「とりあえず、しばらくは養生してなよ、センセイ」

「……そんな悠長なこと言ってられっかよ。アンディ、事情聴取は別日に回してくれねーか?」

「それはどうにかできるけど、なんだい、藪から棒に?」

「出かける」


 そう言ってベッドから降りたシドは、ローズマリーの静止を振り切って支度をする。疲労感はあるし、傷の治療は先程終わったばかりで塞がりきっているはずもない。でも、荒事でないなら、動く分に支障はない。


「先生、無理なさらないでください。傷に障ります」

「CCの言うとおりだよ。休むべきときは休んだほうがいい」

「してねーよ」


 一方、アンディは止めると言っても口ばかりで、先ほどと違って実力行使に出る気配が感じられない。シドもいい大人、自分の面倒は自分で見てもらおう、と割り切っているか、ローズマリーがついているなら万が一のことはあるまい、とでも思っているのだろう。


「アンディ、シュタイン兄妹に連絡しといてくれ」

「何をだい?」

「実験の被験者の副担当(バックアップ)兼、立会人でシド・ムナカタが行くってね。あと、退院手続き、俺の代わりにやっといてくれ」


 行くぞ、と言い残して出ていくシドに、慌ててクロを抱き上げて追いかけるローズマリー。領空侵犯に及んだ不届き者の迎撃に向かう空軍のような慌ただしさで出発する師弟をみて、アンディは静かにほくそ笑む。


「ま、頑張ってくれると言うなら、せいぜいこっちはそれを利用させてもらうかね」


 椅子から立ち上がって一度伸びをし、やれやれと言わんばかりに首を鳴らしたころには、アンディの顔は一変している。切れ者と呼ばれるに相応しい面構えに戻った警部はタバコに火を灯し、次の仕事に取り掛かるべく、誰もいなくなった病室を後にするのだった。

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