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魔導士はつらいよ〜万屋ムナカタ活動記録〜  作者: 白猫亭なぽり
第11章 猫とメイドとマフィアたちの挽歌
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11.27 とりあえずご苦労さん

 事情聴取を終えてシドの病室にやってきたローズマリーが見たのは、マフィアとは関係ないと弁明し続けるシドと、妙に朗らかな口調で相槌を打つアンディだった。二人に促されて座った彼女だが、話の内容が内容なので微笑みもどこか曖昧。助け舟を求めようにも、クロは隅っこで丸くなって寝息をたてている。とはいえ、耳だけはひょこひょこ動いているので、おそらく狸寝入りだろう。


「そうだったのか、センセイ」


 アンディは言葉尻こそ穏やかだが、腹の底からシドの言葉を信じ切ってるかというと、ちょっと怪しい。一方のシドはベッドの上であぐらをかき、面白くなさそうな顔をしたまま、精一杯の弁明を試みていた。


「ビアンコとは顔見知り程度の付き合いで、今回居合わせたのも偶然だ。万屋(ウチ)マフィア(あいつら)との取引実績もねーよ」

「ふむ、そうか、そうなんだね」


 警察が本腰を入れれば、シドがマフィアと繋がっているかどうかなんてすぐにわかるのだから、必要以上に深堀りをする必要もないと考えたのだろう。アンディは一旦、万屋ムナカタとビアンコの繋がりの件をとりあえず脇にのけ、本題に入る。


「とりあえずご苦労さん、万屋ムナカタの諸君」

「アンディ警部も、お疲れさまです」

「来るのが遅せーんだよ、ったく」


 慎まやかに挨拶するローズマリーに、悪態をこぼさずにいられないシド。師弟の反応は対象的だ。


「正直、君たちが現場にいてくれたのは天の配剤だよ。ビアンコたちで歯の立たないやつが相手だったら、警察でも似たような結果になってただろうしね」

「あの方々、マフィアを名乗る割には、妙に統率が行き届いているように見えたんですけど……。普通はもっとこう、自分の腕を頼みに前に出たり、感情に任せて飛び出したりするのではないかと思ったのですが」

「意外だね、まさか君からそんな質問がくるとは。CC、その手の映画でも観たのかい?」


 そういうわけでは、とローズマリーは下を向き、言葉を濁す。

 両親を亡くして以降、孤児院を経て魔導士養成機関(アカデミー)の寮で暮らしてきた彼女だが、もとを辿れば名家の生まれである。マフィアの組織については聞きかじった程度の知識しかなくても致し方ないだろう。そもそも、若くして組織を知っているのはその筋の人間というのが相場だ。


「センセイはなんとなく気づいてると思うけどね」

「知らねーよ、ずいぶん物騒な銃持ってやがんなとは思ったけど」

「そうなのかい? 君にしちゃ不勉強じゃないか?」


 いけしゃあしゃあと言われて半目で睨めつけるシドだが、暖簾に腕押し糠に釘。いつもの調子で、アンディは朗々と解説を続ける。


「あいつらね、元をたどると軍人崩れなんだよ。第一次大戦の時に某国が崩壊して、行くとこなくなった連中がイスパニアに流れ込んできて、根を張ったのが源流(ルーツ)なんだけど、話はそこだけに留まらない」


 真面目に話を聞いているローズマリーの横で、ほんの僅かにシドが眉を動かす。アンディがほくそ笑んだのは、その変化に気がついたからかどうか。


「後のマフィアの礎を築いたのは、階級が比較的低い連中なんだ。尉官クラスはいて数人だったといわれてる。ではここで問題だ、CC。それ以外の連中は一体どこへ消えた?」

「どこへも何も、一市民としての暮らしを選んだんじゃなんですか?」

「それが真相だったらわざわざこんな質問しないさ」

「外国人部隊、だろ?」

「何だ、知ってたのかい?」


 回りくどい話に耐えられなくなったシドがつい割って入ってしまったものだから、アンディの声はうっすらと落胆の色を帯びる。


「外国人部隊って、シド先生の古巣ですよね。そことマフィアの起源(ルーツ)が同じなんですか?」

「機密や情報を握ってた幹部たちは、イスパニア政府と軍に上手いこと取り入って、正規軍ではできない作戦活動に活路を見出した。それが外国人部隊のおこりさ。

 でも、命令に従う側の連中はそうはいかなかった。行き場をなくした兵隊たちが集まった結果、いつの間にかイスパニア随一の武闘派非合法組織ができあがったってわけさ。本人たちは組織に名前らしい名前をつけてないが、(ちまた)では『猟犬』って呼ばれてる」


 師匠(シド)がかつて所属していた組織と、警察と対立構造にある組織。二者の間に隠れた意外な共通点に触れ、神妙な面持ちを崩さない部下(ローズマリー)を教え諭すように、上司(アンディ)は言ってきかせるのだった。


「ま、結局は氏より育ち。大切なのはどこに生まれたかではなくて、どう生きるか、だよ。

 いずれにしても、『猟犬』が元軍属を中心に人集めをして、軍隊式の戦闘訓練をしてるってのは事実だ。規律を守り、武器の扱いに長け、荒事慣れしてる。武闘派って呼ばれる連中にとって、これほど都合のいい人材もないだろ?」


 ビアンコの命令一つで、状況に合わせた適切な配置につき、統率の取れた射撃を繰り出す。ボニーという魔法使いもどき(常識はずれ)が相手でなければ、この荒事はあっけなく終わっていたであろう。


「武闘派マフィアの代表格があれだけいいようにやられちまったって事実は大きいよ、お二人さん。あのざまを見りゃ、警察(ウチ)の上層部だって重い尻を上げざるをえないだろうからね。せっかく二人が頑張ってくれたんだから、あのボニーってやつからなんとしても情報を聞き出して、魔法使いもどきの真相に迫らなきゃいけないね」

「それなんですが、このあとはいかがなさいます、アンディ警部?」


 センセイにはさっきちょっと話したけど、と前置きしたアンディは、少女のために今後の予定を披露する。


「さっきも言ったとおり、シュタイン兄妹を急がせる。魔力を吸い出せなけりゃ、ボニーも今までの魔法使いもどきと同じ末路を辿っちまうからね。動作確認と調整はひとまずウルスラ嬢に一任、センセイはコンディションをもとに戻してくれ。ボニーの身柄は警察(僕ら)の監視のもと、魔導士管理機構(ギルド)に一旦預けることにしようか」

「そうしてくれると助かる。管理機構(ギルド)からカレンを通してもらって、姫様に分析含めて依頼してもらえるとなおいい」

「姫様?」

「ほら、このまえグランドホテルに来て、バカみたいに甘いもん食ってったちびっこだよ」

「ああ、あの……。今更言うこっちゃないってのはわかってるけど、本当に信用できるのかい?」


 警察が共同戦線を張っている相手はあくまでも管理機構(ギルド)であり、医療都市ハンディアあるいはその主・エマと直接の契約関係にはない。最初からずっと、管理機構(ギルド)を介した付き合いである。

 そのせいか、まだ彼女を全面的に信頼しきれていないのだろう。アンディの顔はいつもよりちょっとだけ厳しい。だが、エマの協力なくして、魔法使いもどきの真相に迫れないのも事実。誤解があるなら、早い段階でしっかり解いておかないといけない。


管理機構(ギルド)だって人の見極めくらいできるさ。あのちびっこが医者としても魔導士としても一流なのは、俺もこの目で確かめてる」

「まあ、センセイが言うなら、そうするけど」

「協力体制を上手く築けるように、上手く取り計らってくれよ、警部殿」

「できる限りのことはするけどねぇ……ま、なるようになるさ」


 アンディの返事は曖昧だが、無理もない。

 半ば成り行きとはいえ、彼は今、魔法使いもどきの捜査の統括役という立場に置かれている。ひっきりなしに持ち込まれる情報を基に判断を下して捜査方針を決め、部下に指令を下す傍ら、上を説きふせて必要な人的資源と予算(リソース)を確保するために奔走しているのだ。重い責任と苦労のつきまとう立場とあっては、あまり不用意なことはいえないのだろう。


「どっちにしても、そこで丸くなってるクロスケ氏も込みで、万屋(きみたち)には期待してる。もっともっと活躍してくれよ?」

「はい、がんばります」

「地獄の沙汰も金次第だ、そこんとこよろしく」


 健気に頷くローズマリーと、金勘定に余念のないシド。師弟の返事が対象的なのはいつものことと、アンディも特に気にしない。

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