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魔導士はつらいよ〜万屋ムナカタ活動記録〜  作者: 白猫亭なぽり
第11章 猫とメイドとマフィアたちの挽歌
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11.18 切り替えろ

「マフィアの若頭と張り合おうとするなんて、ずいぶんな無茶をしてくれたもんだぜ」

「……ごめんなさい」

「魔法使いもどきを捕まえる機会だってのはわかるけど、喧嘩ふっかける相手は選べよ」


 去りゆくビアンコの背中が見えなくなってから諫められ、ローズマリーは肩を落とす。

 ボニーの捕縛に踏み切っただけならまだしも、王都屈指の武闘派マフィアの幹部を相手取り、正面切って主導権争いを仕掛けようとした無謀さまでは、シドといえどもさすがに看過できなかった。


「君が真面目な娘だってのは知ってるけど、事あるごとに全力出してたら潰れちまうぜ? あいつらのことだってそうさ、消耗し合った頃合いを見て、そこに割り込めば一番ラクじゃないか」

「けれど」

「真っ向勝負だけが戦略じゃねーんだよ。こっちの消耗を最低限にして、利益を最大にすることを考えねーと。万屋ムナカタ(俺たち)は二人と一匹しかいないし、ただでさえ普段から厄介な魔法使い(れんちゅう)ばっか相手にしてるんだからさ」


 仕事に対する真摯で誠実な姿勢は彼女の美徳だし、シドも日頃からずいぶん助けられている。でも、その前のめりな態度は時としてローズマリーから冷静さを奪い、行き過ぎた即断即決と拙速な行動を引き起こすのだ。

 文言こそ違うものの、シドとクロから似たような指摘をされてしまっては、さすがにローズマリーでもしょぼくれざるをえない。


「クロスケもちゃんと説得してくれよ」

「一応止めたんだけどねぇ……」


 次の春が来れば、彼女の指導を引き受けてちょうど一年になる。初めて会ったときには想像もつかなかった、可愛い顔に似合わぬ猪突猛進ぶりは、ローズマリーの一途さゆえの悪癖。それをどうにか飼いならせるよう、今後の指導方針を考え直さねばなるまいが、それは無事に帰ってからでも遅くはない。


「まずは現状をどう切り抜けるか考えるぞ、ローズマリー。切り替えろ」


 シドに背中を軽く叩かれて、少女はようやく前を向く。過ぎたことに拘泥しすぎず、いかにここから巻き返すか、師匠と意見を交わす。


「まずはあの人………ボニーの魔法を見極めることが先決、ですね」

「二人共、前にあいつに出くわしてたんだったな?」

「はい。でも、飛んでくる弾丸を避けるなんて芸当、以前は見せていませんでした」

「実際に撃たれてたしね」

「痛い目にあってまで隠し通すほどの芸当でもねーしな。そう考えると、今のボニーは魔法使いもどきって考えるのが一番自然か」


 シドの質問には、主にローズマリーが答える。クロは後進の修行のために補足説明するだけだ。


「【加速】は使っているみたいですが、それほど速くはありません。問題なのは、あの人の眼です」

「だろうな。あいつ、うまいこと火線を見切って避けてる」

「私の不意打ちもかわされましたし、逃げようとして追いつかれました」


 嘘だろ、とつぶやいたシドのすがるような視線を、クロは首をふってさりげなく振りほどく。


「残念だけど本当だよ、シド君。もしかしたら耳もいいかもしれないぜ」

「動きが的確すぎるんです。逃げようとしても先回りして行く手を塞がれますし、こちらが一歩退いてもついてくるんです。心か未来でも読まれているみたいで」

「しっかりしろよ、二人共。未来だの心だのを見透かすなんて、そんな魔法ありえない。そうだろ」


 いかに優れた魔導士でも、できるのはせいぜい未来予知に()()芸当どまり。真に相手の心を見透かして次の手を封じたり、未来を見通すなんて芸当はできないと、シドはピシャリと言い切った。


「クロが人の気配に敏感なように、あいつは眼がいいってことだろ。目線とか、銃口の向きとか、動き出す前の僅かな動作から行動を予測できるってことなんだろうな」


 今相手にしている魔法使いもどきはクロ並みの感覚器を持っている、との想定のもと、シドはボニーに気取られないよう、そっと建物の影から様子をうかがう。

 状況は先程と変わらない。多勢に無勢のボニーは、ずっと防戦一方だ。


「いつでも出られるようにしておいてくれよ、ローズマリー」

「はい」

「互いに牽制しあってる間に魔法を見極める。ボニーが劣勢になればそのまま捕縛に向かうし、ビアンコのほうが劣勢になったら」


 そこまで言って、シドは急に黙り込む。

 仮にボニーが、単に眼が良くて、銃弾をかわす程度の身のこなしの魔法使いだとしたら、ここから先も攻勢には転じられないだろう。時間が経てば立つほど、組織的に標的を狩るビアンコたちの優位性は増し、程なく決着がつくはずだ。


 だが、もし仮に、ビアンコとその部下たちが窮地に陥ることがあったなら――。


「どうなさったんですか、先生?」

「万が一、一対多の状況で、ビアンコたちが不利になったとしたら……そいつは相当厄介な魔法を使われた時だ。逮捕だの捕縛だの、そんな悠長なこと言ってられねーことになるかもな」


 最悪の事態にだけはならんでくれよ、と祈りながら、シドは弟子とともに戦局を見定めにかかる。

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