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魔導士はつらいよ〜万屋ムナカタ活動記録〜  作者: 白猫亭なぽり
第11章 猫とメイドとマフィアたちの挽歌
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11.3 ソワソワなんてしてません!

 荒事では近接戦を担当するのに、体も細ければ目方も軽く、魔力放出で一発の威力の底上げすらできないローズマリー。彼女が隠し持つ切り札が、件のトンファーである。彼女がオンボロ教会のシスターから譲り受けたそれは、使用者の魔力を()()()に吸い上げ、【破砕】の魔法に変換する魔導式が組み込まれている。使う方も使われる方も注意が必要な、いささか物騒な代物だ。

 自らが振るう唯一の武器を取り上げられまいと、少女は珍しく、言葉に熱量を込めて抵抗する。


「いくら先生の命令でも、それは承服しかねます! だいたい、二本しかないのに、どうやってたくさんの魔法使いもどきに対応するっていうんですか?」

「話が飛躍し過ぎだぜ、ローズマリー。説明するからちっと落ち着け」


 むぅ、と年相応の不満そうな顔をしながら、ローズマリーは一旦矛を納める。


「正直なところをいうと、君のトンファーは、()()使()()()

「どういうことですか?」

「アンディとカレンを連れて、ダメ元でシュタイン兄妹に相談しに行ったんだ。魔力を吸い出すような装置は作れねーのか、ってね」


 捉えた魔法使いもどきを見殺しにせず、どうにか事件の真相に迫るべく、シドは知己を頼ることにした。

 どう見ても若い工場長にしか見えない機械工学――特にロボットの――専門家であるヴィクトール・シュタインに、白衣と物静かな佇まいで、兄よりもずっと研究者らしい風貌(ナリ)の魔導式の専門家、マリア・シュタイン。この兄妹は王立工科大学で教鞭をとると同時に、第一線で活躍する新進気鋭の研究者という多忙な立場だ。

 そんな二人の懐に、シドはいきなり飛び込んで話を持ち込んだ。

 勝算は五分五分、と予想していた。警察代表であるアンディ警部と、魔導士管理機構(ギルド)代表のカレン・ガーファンクルという身元の確かな二人を連れてはいたけれど、シュタイン兄妹と出会った経緯に横たわるやや複雑な事情こそ、シドの懸念事項だった。

 兄妹の研究成果たる怪物(モンスター)が暴走した際、シドは自ら手を下して亡き者にしている。巨躯の内側に魔導式を張り巡らせ、電力を魔力に変換して動く世界初の巨人は、シドとクロが発現させた【防壁】に封じ込められて消え去った。事件のあとに書簡を交わしてはいるとはいえ、すべてを水に流したと言い切るのは少々怪しい間柄なのである。


「お話は、聞いていただけたんですか?」

「バッチリだ。俺一人だったらともかく、警部殿と管理機構(ギルド)の責任者を連れてってるんだ。こっちの本気も推して知るべし、ってもんだろ」

「あのお二人に手伝っていただけるのは心強いですね」

「ああ。君のトンファーを一本拝借して、兄妹に見せたのもきいたみたいだな」


 シドの言葉を聞き違えたとでも思ったか、ローズマリーの動きが一瞬、止まる。


「拝借、とは……?」

「君、講義の時に、アンディにトンファーを預けてただろ? それを持ってってマリア先生に見せた」

 

 ローズマリーは確かに、ここ一ヶ月、講義前にアンディにトンファーを預け、夕方に返してもらって自主練習に励む日々を送っていたのだ。獲物を隠し持った部下を研修には出せないねぇ、と上司に諭されては、さすがに従わざるをえなかったのだ。

 同じ頃、エマから魔力中毒の話を聞いたシドは、対策として少女のトンファー――正確にはそこに刻まれた魔導式――の利用と、シュタイン兄妹への協力要請を思いついていた。それをアンディとカレンに提案したところ、


「それなら直接見せちゃおうよ。ちょうど預かってることだし」

「善は急げ、とあなたの故郷(ジパング)でも言いますものね。私は賛成です」


 と即座に話がまとまったので、参考資料と言う名の手土産を携え、兄妹の元を訪れたのである。

 乗り気だったのは圧倒的にマリアのほうだった。説明の途中でトンファーの包みを開いた途端、


「どうしてこれを最初に見せてくれなかったんです!」


 と目を輝かせながら、シド・アンディ・カレンがちょっとのけぞるくらいの勢いで観察し、ノートをとり始めたのだ。普段は穏やかで大人しい印象の彼女だが、いざ専門的な話となると驚くほど前のめりになるあたり、骨の髄まで研究者気質である。

 一方、兄・ヴィクトールは終始渋い顔をしていた。怪物(モンスター)の一件が未だに尾を引いていたようだが。最終的には妹に押し切られるかたちで、首を縦に振ってくれたから、とりあえず良しとしておいた。


「事情はわかりましたが、それなら初めに、こちらの了解をとってください……」

「悪い、てっきりアンディが、話通してるもんだと思ってたからさ。おかげで協力を取り付けられたから、感謝はしてるんだぜ?」


 その説明を聞いたローズマリーは、頭で納得できても心では今ひとつ、といった調子のふくれっ面を浮かべている。珍しく師匠の仕事が速いと思ったら事後承諾ともなっては当然だろう。


「マリア先生のトンファーの分析が終わって、今はそれをもとに魔力排出装置を作ってもらってるところだ」

「完成予定はいつなんですか?」

「予定では来月の一周目、そのあとに起動確認(シェイクダウン)して、機能確認……ではあるんだけど」


 ちょくちょく兄妹のもとを訪れて聞いている限り、スケジュールはだいぶ遅れ気味のようだった。以前から実施中の研究や実験に無理やり割り込んでいるうえに、初めて手掛ける装置とあって不測の事態も多く発生している。いつまた魔法使いもどきと相見えるかわからないから、なるべく早く完成させてほしいのは山々ではあるのだが、無理を聞いてもらっている立場であり、必要以上に強く要求できないのがもどかしいところだ。


「その装置が機能するまで、魔法使いもどきの皆さんにはおとなしくしてほしいところですね」

「逆に言えば、やつらを今捕まえたところでどうしようもないわけ。だからあんまりソワソワすんな、ローズマリー」

「そ、ソワソワなんてしてません!」


 一刻も早く現場に出たい、という思いが態度ににじみ出ているローズマリーに釘を刺したシドは、もう一つの話題にむけて舵を切ることにした。

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