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魔導士はつらいよ〜万屋ムナカタ活動記録〜  作者: 白猫亭なぽり
第10章 猫とメイド不在の日々
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10.7 センセイがトラブルを呼ぶのかな?

 ハンディアから戻って数日後。

 一つの問題を片付けたと思ったら別の課題が降り掛かってきて、大して休む間もなく対応を迫られるというのは、古今東西を問わずよくある話。魔導士であろうとなかろうと、そのあたりは変わらない。

 当然、この男(シド)もだ。


「悪いね、センセイ」

 

 ローズマリーが不在なので、シド手ずから来客用のコーヒーを淹れる。

 客間のソファでは、毎度おなじみアンディ警部がぷかりぷかりと煙草をくゆらせている。喫煙という習慣を嫌う少女の不在をいいことにやりたい放題だが、もうひとりの同居人・クロの渋い顔に気づいているかどうかは定かではない。


「センセイ、ちゃんと寝てるかい? なんか眠そうな顔してるぜ?」

「気のせいだろ」


 そう強がってみせるシドだが、直後に大あくびをかましているようでは説得力に欠ける。

 ハンディアでの治療を済ませてからこっち、特段の事情のない朝はオンボロ協会に出向き、魔法の訓練をする日々を送っているのだ。夜が明ける直前に愛車を飛ばし、シスター・レイラや双子(エリーゼとアリア)を相手にひとしきり身体を動かしたあと、王都に戻って仕事の続きに戻る、そんな日が続いている。

 彼が近年稀に見せる勤勉さは、教会の主・ロビンソン神父の眼には相当奇っ怪なものに映ったらしい。


「やめろ気持ち悪ぃ、嵐でも呼ぶ気か?」


 だの


「毎日訓練に来るって、お前正気か? 頭でもやられたのか?」

 

 だのと余計な心配をされるほどである。たまに真面目な振る舞いをしてみせりゃこの言い草かよ、とシドが口をへの字に曲げるのも無理はない。

 そんなひどい言われようをされてまで、彼が教会に通う理由はただ一つ。

 彼の弱点である魔導回路の強度不足を、十八番(おはこ)である【防壁】魔法で克服するためだ。これが実現すれば、大量の魔力を行使しても魔導回路を損傷させずにすむ。つまるところ、今まで以上に大きくて堅い【防壁】を、より短時間で展開できるようになるのだ。

 ただし――自分の魔導回路だけ(・・)をピンポイントで強化するには、かなり緻密(ちみつ)な魔力の制御が要求される。他の魔導士に比べれば器用と自負するシドでさえ、本格的に実戦投入するまで育て上げるにはしばらく時間を要しそうな技術なのだ。

 だが、事件は彼の成長を待つほどお人好しではない。

 クロとの大技・【同調】を使わざるをえない状況や、大魔力の行使を要求される事態にいつ出会うかわからない以上、一日でも早くこの技術を完成させないといけない。見えない締切(デッドライン)とのチキン・レースはすでに始まっている。


「気のせいって言うけど、君のあくび、クロスケ氏ともいい勝負だぜ?」

「やかましい。体がなまらねーように、ちょっと朝練してるだけだよ」

「……本当にちょっとかい?」

「ちょっとだっつってんだろ」


 アンディの刑事らしい目ざとさにシドは眉を寄せる。

 単に魔導回路を補強するだけなら、まだどうにかなる。無意識のうちに使いこなすとなるともう少し練習が必要だろうが、コツはほぼ掴みつつあった。

 問題は、それと並行して他の魔法を使い、戦況を見極め、相手を制圧しなければならないことだ。【防壁】にしろ【加速】にしろ【強化】にしろ、発現させっぱなしとは問屋がおろさない。多かれ少なかれ制御を強いられるため、とにかく集中力を使うのだ。こればかりはひたすら場数を踏んで慣れていくしかない。必要なのは日々の積み重ねだ。

 もっとも、彼の訓練内容までアンディに詳しく説明する必要はない。何でも屋も昼行灯なりにやることがある、と認識してもらう程度で十分である。


「まあいいや。CCには黙っててあげるよ、ご心配なく」

「俺の近況なんざ別に伝える必要ねーだろ?」

「あの娘なりに心配してるみたいだよ。ちゃんとご飯食べてるかとか、クロスケ氏とケンカしてないかとか、部屋の掃除はしてるかとか。でも、この様子だと、彼女が思っているほどはひどくないんじゃないかな」


 シドが一人暮らしを始めたばかりの男子学生だったらまだしも、一応傭兵部隊とはいえ軍人上がりの身である。そこまで堕落した日常生活を送っているつもりはないのに、上司(アンディ)部下(ローズマリー)も揃って失礼なことを言ってくれるぜ、と嘆息してしまう。


「あいつが来る前に、俺の家がゴミ屋敷になったとこなんてあったかよ?」

「そういえばないね。失敬」


 詫びの文句にまるで似つかわしくないにやけ面をはっ倒したくなる衝動をなだめたシドは、本題に入るよう、アンディに催促するのだった。


「先生、『シーズメ・イ・エスキャンダロ』誌は読んだことあるかい?」

雑貨屋(キオスク)で売ってるのを見たことはあるけど、買ったことはねーな。知ってるって言ったら嘘になる」


 普段は新聞なんてほとんど読まないシドでもその存在は知っている。噂と醜聞シーズメ・イ・エスキャンダロという名の通り、人の興味を(あお)りに(あお)った俗な記事が生命線の、王都で最も過激でくだらないと自他ともに認めるタブロイド紙だ。


「エスキャンダロが先々週から発刊停止処分を食らってるんだけど、さすがにそこまでは知らないか」

「初耳だな。何をやらかした?」

「載せちゃいけない写真を載せたかどで、軍の検閲に引っかかったんだってよ」


 件のタブロイド紙の紙面だが、半分はタイトル通りのゴシップ記事、残りはいわゆる成人向け(・・・・)の記事で埋められている。その特性上、ヌード写真も散見されることは、大人のシドはよく知っている。読んでいるところをローズマリーに見られたら軽蔑(けいべつ)の眼差しを向けてくれること請け合いだ。

 さらに付け加えると、


「全ての記事の真偽が不明、正しいのは日付だけ」

「その日付すら間違えたことがあるが、訂正記事を出さなかった」


 とまことしやかに(ささや)かれるあたりで、だいたいの評判は察せられるというものである。

 そんなタブロイド紙に、今更検閲も発刊禁止もあったものかという向きもあろうが、差止めを受けというのは穏やかではない。軍にとってよほど都合の悪い記事が掲載されたことになる。


「で、軍は何が気に入らないってんだ?」


 シドの軽口に笑みを深めたアンディは、黙って大判の茶封筒を差し出す。

 中に収められているのは、数葉の白黒写真。画質はいささか荒く、少々無理して引き伸ばしたのが丸わかりだ。

 それを見たシドは、危うくコーヒーを吹き出しかける。

 写真に収められていたのは、あの(・・)鋼鉄の怪物(モンスター)と、万屋ムナカタの面々が繰り広げた大立ち回りの一部始終だ。シドとクロが爆発を封じ込めている様子までしっかり撮られている。見るものが見れば、何が起きているか判断するには十分すぎるシロモノだ。


「アンディ、あんた、これ」

「まさか自分の知り合いが、エスキャンダロ誌でデビューしかけるなんて思ってもみなかったよ」


 一体どこで撮られてたのか、思い出そうとしても全く心当たりがない。そんなシドの動揺を見て取ったアンディは、気にするなとばかりにひらひらと手をふってフォローする。


「別に撮られたことをどうこう言うわけじゃないんだ。この事件については報告書にも書いてくれてたし、CCからも話は聞いてる。センセイたち、随分大活躍だったみたいじゃないか?」

「どっちかといえば貧乏くじだよ。魔導士管理機構(ギルド)の依頼であんな辺鄙(へんぴ)なところに連れてかれたあげく、あんな面倒事に巻き込まれるなんてな」

「センセイがトラブルを呼ぶのかな? それとも、トラブルがセンセイを惹きつけるのかい?」


 やめろよ縁起でもねぇ、と嫌な顔をしたシドは、改めて写真を観察し、気づいたこと、思いついたことを片っ端から書き出し始めた。

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