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召喚祭その七

2件目のブックマークを頂きました。

ありがとうございます。

「少しでいい、街に行ってみたい」


 召喚祭が四日目を迎えた日の朝、私室で椅子に座って俯いたまま勇者が私―当代の聖女イルナ―にそう言われました。

 初日より、連日続いた式典で少々お疲れなのでしょうか。

 異世界より選ばれ、力を授けられた女神様の使徒とはいえ、心はただの人間です。

 確かに気晴らしは必要でしょう。


「わかりました、では本日の予定はすべて取り消して街の散策をいたしましょう」


「本当にいいの?地方貴族との会談と会食の予定とか言われてたけど」


「問題ございません、ただ城下では勇者様の召喚を祝う祭りが開かれております。そのために人出がとても多く、もし勇者様が街にいる事が知られれば混乱が起きかねません。ですから勇者様には庶民の質素な服装に着替えて頂いて、目立たぬ様にしてもらわなければいけません」


「了解、街に出られるならどんな格好でもするよ」


「では少々お時間を頂きます、服装の準備と護衛に連れて行く者も厳選しなければいけませんから。そうですね、昼の鐘まではお部屋でゆっくり過ごして頂いて、軽く昼食を取った後の出発でいかがでしょうか?」


「うん、わかった。細かい事は任せるよ。後、イルナも一緒に行くよね?」


「はい、そのように勇者様からお声をかけていただけるのを、イルナは待っておりました。ご迷惑で無ければ散策の友をしたいかと」


「うん、一緒に行こう。イルナの私服姿が楽しみだよ」


「では今から準備に取り掛からせて頂きます、昼の鐘の後にお迎えに上がります、勇者様」


 そして、私が部屋を出てドアを閉めようとしたその時、勇者に声をかけられました。


「ついでに一番下の王女様とメイドを二人、いや三人程この部屋に来るように伝えておいて」


 私は、わかりましたと言ってからドアを閉めました。


 朝から女性を部屋に呼びつけて何をするのでしょうか?

 いいえ、それは勇者が召喚されて日も浅いというのに、この城の者なら誰もが知っている事でしたね。


 勇者が召喚されたその日の夜、この国の王は四人の娘をすべて勇者に差し出しました。

 特に第四王女のセレーサ様をお気に召したらしく、夜は彼女と美形のメイド数名選んで伽をさせているらしいのです。

 しかし、それは勇者を手元に置き留め、あわよくば勇者の力を引き継いだ児を、娘に生ませるためでしょう。



 遙か昔、女神様と交わした誓約の一つにより、この世界は国が一つ、王は一人と定められました。

 しかし、国王が世界で唯一無二の存在とはいえ、すべての者が従っているわけではありません。


 古くからは南部のエルフ族が、近年は北部の獣人族のいくつかの部族が、国と言わなければ、王を名乗らなければ許されるとばかりに、自治領を名乗りほぼ独立している様な状態です。


 特にエルフ族は兵力、経済力の両方で国と同等の物を持っています。

 魔王が封印され、平和が長く続きすぎたせいでしょうか?

 エルフ族の後ろ盾を得て、王権と王の直轄領を削り取るために、暗躍する貴族が増えているとも聞きます。


 そしてあとは教会でしょうか。

 下手に権威がある故にそれを利用して、王を傀儡にし王国を裏から支配したいと考える者たちがいるのです。


 国王は魔王討伐がなった後、それらに対抗する手段として、どうしても勇者が必要なのでしょう。

 王が聖女の様にならぬ為にも。


 かつて聖女とは女神教で頂点に立つ存在でした。

 しかし、今ではただの飾り物に過ぎません。

 聖女が教会を運営するため会議の、相談役に過ぎなかった信徒の長老会の六名が、今や教会を支配しています。

 魔王が封印された直後からこの様な状態になり、今もそれが続いているのです。


 彼らにとって聖女とは、神託の間にいれば良いだけの存在で、死んでも直ぐに代わりが現れる、という程度の認識だったのでしょう。

 勇者が召喚された今は、少々事情が変わってしまいましたが。


 そして彼ら長老会の今一番の関心事は、聖女をいかにして高く勇者に売るか、でしょうか。


 勇者が女性を非常に好む方である事は、王城内で知れ渡っています。

 そんな彼が私を望んでいる事も。


 ゆえに長老会は最も良いタイミングで、私を勇者に引き渡して籠絡し、教会の支配下に置きたいと考えているのです。


 勇者は絶大な魔力を持っています。

 神の如き、と言っても過言では無いでしょう。

 心の弱い者であれば、勇者に殺気を込めて睨み付けられただけで、死に至るかもしれません。


 勇者が行った方にこの世界の天秤が傾くのは、間違いありません。

 故に王も、教会の長老会も、勇者を引き寄せるために色々と必死なのでしょう。


 とてもおかしい話ではありませんか。

 彼らはまるで、天秤が傾く方向が二つしか無いと、本気で考えているようなのです。


 もともとこの女神様によって、世界は王と聖女の二人で治める事を定められていました。


 ゆえに王と聖女を崇めぬ者がいる、今の世界のあり方は異常なのです。


 そして王と聖女は対等の存在。

 玉座の上から聖女を跪かせるような王はあってはならぬはずです。


 そして信徒とは女神様に仕える存在。

 聖女を蔑ろにするような信徒など存在してはならぬはずです。


 私は確信しております。

 この度の勇者召喚は、世界を元の形に戻せという、女神様のご意思なのです。


 それをなすために必要ならば、いくらでも媚を売りましょう。

 この身が泥に塗れる事もいといません。

 身体を差し出せと言われれば、喜んで差し出しましょう。


 女神様が私の為に遣わされた勇者の力があれば、世界が元に戻る日も近いはず。


 あぁ、もう少しお待ち下さい女神様!


勇者の魔力が絶大なのは人間基準です。

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