召喚祭その六
「おはようございます、コトーさん。マーちゃんならつい先程、プラージャが教会に預けるために連れて行きましたよ」
冒険者ギルドへ入るとリベーラがそう言ってきた。
よく見ると目が少々充血している、朝まで調べ物をしてくれていたのだろうか?
どこぞの竜のおかげでしなくても良い苦労を、彼女にさせている。
非常に申し訳ないと思う。
「本来なら俺が連れて行くべきなのに迷惑をかけたな、すまない」
「いえいえお気になさらずに、祭りの間の迷子の保護は、教会から依頼を受けたギルドの業務ですから。プラージャも自宅への帰り道でちょっと寄り道するだけですし、大した手間では無いですよ」
「そう言ってくれると助かる、後で俺も教会に顔を出すとするよ」
さすがにこの場でマーちゃんの事で心当たりが見つかったから、明日連れて行きますとは言い辛い。
昨日の今日でそんな情報を何処からとツッコまれたら答えに窮する。
だから夕方頃にもう一度ここに来て、知り合いがマーちゃんらしき子供を探す兎人族を見たらしい、くらいの事を言っておこう。
俺はここのギルドでは、低ランクだが仕事は真面目で人柄は信頼できる、って評価らしいから明日連れ出してもそこまで疑われずに済むだろう。
この後、貴族街にある冒険者ギルドの本部へ行方不明者の情報を調べに行きます、と言ったリベーラに心の中で土下座して謝罪した後、ギルドを出て昨日仕掛けた罠の回収のために、森に向かうのだった。
◇◆◇◆◇
「ああ、早く人化の魔法を完成させなければ」
竜の谷の奥底でペルフェクトゥスはそう呟いた。
自分は何もすき好んで主と離れ、この様な場所にいるわけでは無い。
ここにいる理由はこの場所に漂う魔素が、本来の力を取り戻すために、最も相応しいからに過ぎない。
私は主に命じられた、日に一度の魔界の見廻り以外は、常にこの場所で横たわっている。
魔素を取り込むためにはこの場所から動かないのが、最も効率が良い。
だから腹を満たす為の肉も、すべて眷族に狩らせている。
肉が足らぬ時はその眷族すら喰らう事もある。
「それももう少しで終わる」
後数年で力は全盛期になる、そうすれば人化の魔法も完全なものになるだろうと、ほくそ笑む。
「拾った幼児の様な姿になる事ができれば、再び主の膝の上で眠る事が出来るかもしれない」
主にペルフェクトゥスの名を与えられる前から、自分は最も強き竜だった。
その前も、その前の前も、転生を繰り返すたびに古い時代の記憶は少しづつ薄れてはいるが、覚えている限り自分より強い竜は知らない。
もし、つがいを作るなら自分よりも強き竜が良い。
そう考えたからこそ転生を繰り返し、それが現れるのを待ち続けた。
だが、結局その様な者は現れること無く、いつの間にか竜族は自分を残して死に絶えていた。
そして転生を終えた私が、一族が滅んだ事を聞いてまず浮かんだ感情は、一族を滅ぼす様な強者と戦う事が出来なかった悔しさである。
次に浮かんだ事は、そのお陰で望んだ以上の圧倒的な強者、主に出会えた喜びだった。
主は、言った。
「お前の一族を滅ぼした勇者共は皆殺しにした、だから復讐は考えなくて良い」と。
主の存在を前にすれば、その言葉が嘘でない事はよくわかる。
たとえ力を取り戻した状態であっても、戦いを挑めば数分と経たずに命を失うだろう。
それほど主と私の力は隔絶している。
人族が言う『神』とはこの方の事ではないかと思うほどに。
主が竜であればつがいになる事を懇願したであろう、そう伝えた後に私は願った。
「最後に残った竜として、先に死んだ者達の名に恥じない相手と戦い、この永き生を終えたいと思う」
故に力を取り戻したあかつきには私と戦ってくれないかと。
そして少し困った顔をした主は、私の頭を軽く撫でた後、その身体を竜に変化させた。
私の白銀の鱗に対を成すような、黄金の鱗を持つ雄々しい竜に。
私はその姿を見て歓喜した、望む相手がここにいたのだと。
だが主は直ぐに人の姿に戻りこう言った。
「俺は竜の姿で生きていく事を望んではいない。だから戦いでは無く、俺と共に生きて行きたいと望むのであれば、俺が望む姿にお前がなれ」
そのための魔法は教えてやる、とも言ってくれた。
文句などあるはずが無い。
主ほどの相手とつがいに、いや人間風に言うと夫婦になるチャンスを頂けたのだ。
もし上手く行かなければ、戦いを挑めば良いとその当時は思ったが。
「ぐふふふふっ」
すぐそこに来た未来に想いをはせて、つい笑いがこぼれた。
その時はもう近い。
もう少しお待ち下さい主、いいえ旦那様。
あと少しであなたが望んだ私になります。
◇◆◇◆◇
この日のペルフェクトゥスはとても幸せだった。
そして昨夜コトーと久しぶりに会うことができて浮かれてもいた。
だから気が付かなかった。
魔界の地表すれすれを高速で『壁』に向かって飛んで行く、三つの存在を。
その速度はとても速く翼竜達では追い縋る事すらも難しいだろう。
そして、それらは淀み無く真っ直ぐに、東へ向かって進んでいる。
やがて『壁』のすぐそばまで迫ってくる、しかしペルフェクトゥスは未だに気付かないのだった。