召喚祭その四
初めてのポイントとブックマークをいだきました。ありがとうございます。
素人の書いた下手な小説ですが、これからもよろしくお願いします。
夜になり、城門を出入りする人の数も減り、少々暇になったせいだろう。
顔ぶれの変わった詰め所の門番達を相手に、入った時と同じ話をしなくてはいけなかった為に、げんなりしつつ話を終え、俺は詰め所を後にした。
大通りには店仕舞いしている屋台がちらほら見える。
朝飯を食ったきりで何も食ってない事を思い出し、腹が鳴った。本来ならねぐらにしている安宿の近くにある、安いのが取り柄の食堂に行きたいのだが、ギルドへ戻るには遠回りだ。仕方が無いから食事が出来る屋台を探す。
「兄さん売れ残りだ、半額にするから買ってくれよ」と、声をかけられる。
どうやら豚肉のミソ漬けの包み焼きらしい。これは薄く広げて焼いた小麦粉の生地の内側に辛子を塗り、それで焼いた豚肉と塩漬けのキャベツを包んだ物だ。形としてはクレープが近い。コンロの魔道具が庶民にも拡がって以来、小麦粉の生地で色々な具を包んで食べる、このクレープの様なメニューは王都では割りと一般的な物だったりする。
店主が言うには、この豚肉はとある伝手を使って手に入れた、お貴族様専用の牧場で育った豚の肉を、地元では知る人ぞ知る少量生産の特別なミソに漬けた物らしい。
あぁ、そう言えば祭りの初日に、似たような事を言って串焼きを売っているおっさんがいたな、笑いそうになりながら銅貨五枚を支払い、包み焼きを受け取る。
「焼きたてはもっと旨い、気に入ったらまた買いに来てくれよ」と言う店主に礼を言い、俺はギルドに向かって歩きながらそれを食べる。秋の始めのだというのに塩漬けキャベツがやたらと酸っぱい。
売れ残るのもよくわかる味である。
◇◆◇◆◇
ギルドに入って見れば、子供は半数程に減っていた。泣いたりはしゃいだりするのに疲れたのか、全員がスヤスヤと眠っている、当然ながらマーちゃんもその中の一人だ。
ほとんどの子供は深夜か、もしくは遅くても明け方までには、怒り狂った母親または泥酔した親父が迎えに来て、家に帰るだろう。
これは、酒を飲みたい親父が子供をだしにして外出し、そのまま教会に迷子と偽って子供を預け、酒場に行くからである。ひどい話のようにも聞こえるが、王都の下町では二人に一人が経験する、祭りの度の風物詩のようなものらしい。とても治安の良い王都だから笑い話で許される行為なのだろう。
カウンターの方を見るとリベーラの姿は無く、代わりにプラージャがいる。
「大丈夫だニャ、任せるニャ」
と、言ってくれた彼女に任せる事にしてギルドを後にした。
◇◆◇◆◇
宿に帰る途中でどうしても誘惑に勝てなくなった俺は、酒場に行く事にした。
ドアを開けて中に入る、ほとんどの満員の店内を見て、この中にも教会やギルドに子供を預けた奴がいるのかな?と、考えながら唯一空いていた立ち飲みのカウンターに陣取る。
身体よりも精神が疲労していた俺は、ドワーフの火酒を注文する事にした。
ドワーフの火酒。ドワーフが作っている訳では無い、ドワーフが好む酒だ。彼らは総じて酒精の強い酒を好み、味よりも量を求める。それを飲む者がドワーフで無ければ、貧乏人に違いない。と言われる、強くて安い酒。
まあ俺が行くような酒場である。大半のヤツはこの酒を飲んでいる。
銅貨十枚と引き換えに、大ぶりのグラスへなみなみと注いで貰う。
グラスから溢れないようにゆっくりと口に運び、喉へ流し込む。
強い酒精が喉をゆっくりと焼いてゆく。それが落ちきった時、ほんの一瞬、暴力的なほど胃の中が熱くなる。そしてその余韻がまるで血管を通って行くように全身に拡がり、疲れが押し流されて行く。
「あぁ」と思わず口から洩らしたその時、カウンターの向こうにいた店のオヤジが「サービスだ」と、輪切りにしたライムが二切れ乗った皿を差し出してきた。
一切れの半分ほどをかじる。ライムの酸味と香気が口の中を突き抜け洗う。始めの一口で緩みかけていた身体の芯が引き締まり、再び酒を求めているように感じる。
酒をちびりちびりと飲みながら、残った半分のライムを少しずつかじる。かじり終える頃にはグラスの中身は半分程に。
俺は魔法で作った水をグラスに注ぎ、もう一切れのライムをその上に乗せ、指の先で軽く混ぜる。
それを見ていた隣の男が「それ良いな、俺にもやってくれよ」と、言って来たので同じ様にグラスに水を注いでやる。変化の魔法にほとんどの魔力を使っているが、日に数回なら問題は無いからな。
不意に店のオヤジの方を見ると、「酒を売る邪魔するんじゃねぇ」とばかりに俺を睨んでくる。しかし、その程度で怯んでいては、底辺冒険者などやっていられない。
俺は気にせずグラスを口に運ぶ。
水を加えた分、酒精が丸く感じる。酒に浸された事で薄くなったライムの酸味と香気が、それにまとわりつき、拡がりながら胃の中へ落ちていく。
香気のみ逆流する。胃から喉へ、喉から鼻へ。
まるで自分がライムその物になった様に錯覚するほど、鼻から体外へ香りが拡がる。酒精が薄くなった分、飲み易くなり酒が進み、あっと言う間にグラスは空に。
俺はもう一杯注文し、同じ様にして飲んだ後、オヤジに礼を言って店を出た。
今日は色々あったが、一日の終わりが良ければすべて良し、で良いだろうと、明日の事は気持ち良く眠ってから、また明日考えれば良いさと、俺は程よく酒が回って、気分が良くなった頭で考えながら宿への道を歩いていた。
そして近道をしようと、魔石灯の灯りが届かない小さな路地へ入った時、それは突然現れた。
身体に突き刺さりえぐり取るような様な魔力の奔流。いくらフード深く被ろうと隠せぬ人外の気配。
それは両膝を着き土下座の様な体勢を取りながら、俺に向かって口を開く。
「お久しぶりで御座います、我が主よ」と。
銅貨一枚=約百円