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召喚祭その三

「コトー様、残念ながら当ギルドでは幼女の買取りは行っておりません」


 いつもの冒険者ギルドの扉を開けて入ると、正面のカウンターの中にいる冷めた目をした受付嬢が、はしゃぎ疲れて俺の腕の中でスヤスヤ眠る幼女を眺めた後に、眼鏡をクイッと上げながら俺に言い放つ。


 彼女の名はリベーラ、獣人の血が少し混じっているのか、やや長い八重歯がチャームポイントで、キツイ性格が災いしてほぼ婚期を逃しかけている、王都西区の冒険者ギルドの看板娘。胸部装甲は薄い。故に看板娘である。


「今何かとても失礼な事を考えていませんでしたか、コトー様?」


 リベーラの言葉を否定も肯定もせずに、俺は彼女に訪ねる。


「だったらギルドのこの状態は何だよ?とてもじゃないが今のセリフは信じられないぞ」


 本来なら受付の隣は併設された酒場だったはずだ、しかし今はテーブルや椅子は壁脇に寄せて積まれており、石畳だった床は板が敷かれて、更に絨毯が重ねられている。


 絨毯の上には泣き叫んだり、笑いながらはしゃいでいたり、あるいは毛布に包まって、指を咥えて眠っていたりする大量の子供達。たぶん二十人以上。その中で右往左往するギルドの従業員達。さながら託児所の様である。


 ハァ〜とため息を大きくついてリベーラが言う。


「冗談の一つも言いたくなりますよ、こっちは大変だったんですから。酒場のお客様を叩き出したり、床に板を敷いたり、絨毯や毛布を借りるためにご近所中を走り回ったりで。私も本来は休日のはずが、突然呼び出されたんですからね」


「そりゃあ災難だったなぁ。で、この子の事なんだが」


「はいはい、こうなったら一人二人増えても問題ありません。お預かりしますよ」


「あぁ、ありがたい、だがちょっと違う、この子は外で拾ったんだ。森の浅い所だ、気が付けば城壁の外にいて、彷徨っていたらしい」


「こんな小さな子供が一人でですか?」


「俺をママと勘違いして森に迷い込んだらしい。同じ匂いがするんだとよ」


「私を馬鹿にしてるんですか?コトーさんみたいな、すえた匂いのする女性が、この世の中にいるはずがありません!」


 自分でも同じような事を思ったよ。でも他人に言われるとグッと来るものがあるな………


 俺、泣いて良い?



 ◇◆◇◆◇



「あー!コトーがいるニャ!」


 俺が心の中で涙を流していたその時、厨房の方から声をかけられる。


 彼女の名はプラージャ、赤髪で少し垂れ目な愛くるしいお顔の猫人族。胸部装甲は凄く厚い。本当の意味での看板娘だ。


 揺れる胸部にとても癒やされる、眼福である。


 そばにいるリベーラの冷めた目の温度が、更に下がった気がするが、気にしてはイケナイ。


 厨房から出て近くに来たプラージャが俺に聞く。


「コトー、いつの間に子供ができたんだニャ?」


「違う、拾った迷子だよ」


「わかってるニャ。冗談だニャ。コトーにそんな甲斐性があるはず無いニャ」


 それも知っている、でもね見た目はおっさんでも、俺のハートはとても繊細なんだ。


 あんまり言われると心の涙が滝になるぜ。


「でも、この子珍しい兎人族だニャ」


「何言ってんだ、確かにここらじゃ少ないが、ちょっと北の方へ行くと兎人族はいくらでもいるだろうが」


「違うニャ、髪色だニャ。黒髪の兎人族が珍しいんだニャ。初めて見たニャ」


「あっ、言われて見ればそうですね、私も初めてです」


 二人の言葉を受けて、頭の隅に追いやった不安が舞い戻って来そうになる。


「だがな、俺は見た事ないが人族にだって、水色や緑色の髪色のヤツがいるだろ」


 俺は自分でそう言いって、不安を押し殺す。


「精霊種の血が混じった人の先祖帰りだって言いますよね、そういうの」


 そういうのであって欲しい、心の底からそう思う。


「コトー、いつまでも抱いたままじゃあ可哀想だニャ。毛布持ってくるからこっちの寝床に寝かせるニャ」


「ああ、そうだな、ありがとう」


 マーちゃんを寝床に寝かせプラージャが持ってきた毛布を掛ける。


 今の季節は秋、日中はまだ暖かいが朝晩は冷え込む。毛布一枚では寒いかもしれないと思った俺は、上着のジャケットを脱ぎ毛布の上に更に掛けてやる。


 それを見ていたプラージャが「コトーのそういう所、凄く良いニャ」と親指を立てながら言ってきた。


 お前の胸部装甲も凄く良いぜ、と心の親指を立てながら心の中で返事をする。


 あっ、リベーラさんその目つき怖いマジでやめて。



 ◇◆◇◆◇



 俺はカウンターに戻りリベーラに、ギルドへ来るまでマーちゃんと話してわかった事を説明する。


 名前はマーちゃん、マー何なのかはわからない。両親の名前も不明、六人家族である事、森のそばに住んでいる事、家の敷地から出たのが初めてらしい事、王都に来たのも初めてのらしい事、などなど。


「わかりました、最近の物だけで無く少し古い依頼も含めて、マーちゃんの特徴に合った行方不明者がないか調べて見ます」


 そう言って奥へ引っ込もうとするリベーラを、俺は呼び止めるて聞く。


「門番には教会で預かって貰うよう言われたが大丈夫だろうか?」


「その事なら大丈夫ですよ。教会の孤児院が一杯で、ギルドに依頼が来てこの状態ですから。おそらくコトーさんと入れ違いで、詰め所の方には連絡が行ったはずです」


「そうか、了解した。詰め所の方には一度報告に戻る様に言われている、また後で様子を見に来る、すまないが頼む」


 わかりました、とリベーラが言ったその時、ギルドのドアがガラリと開いて、子供の泣き叫ぶ声が聞こえた。


 どうやら新しいお客さんが来たらしい。


 俺は困った顔をしている中年の女に「ごくろうさん」と、一声かけて外に出る。


 陽はとっくに暮れていた、多少人通りが減ったとはいえ、まだまだ魔石灯の下で人々は賑やかに騒いでいる。


「一杯飲みてぇ」


 小さくつぶやきながら足早に俺は歩く。


 城門の詰め所を目指して。



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