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召喚祭その一

「おっちゃん、いつもより肉が少ないよー」


「ああ、いつもより少ない。だがな坊主よ、それには理由が二つあるんだよ。」


「何で、なんでなのー?」


「まず一つ目は使っている肉が違う。兎肉で最も滋養と旨味が強い、背肉だけを使っている。ちなみにこれは一匹からわずか二切れしか取れない。そして、二つ目は使っているソースが違う、東部の塩田と北部の岩塩鉱山で取れた厳選された二種類の塩、最も香りが強い新芽の部分だけを使用したハーブ類、南方特産のミソと甘芋酒、ああ、甘芋酒は二エブラ酒造の高級品種ゴールドってやつだ。それらを混ぜ合わせて作った普段とは違う特別なソース。どうだ、坊主。肉の旨味が最高だろう、ソースの香りがたまらないだろう!」


「うん、おっちゃん何かを違う気がする、違うよ、うまいよ、美味しいよー!」



 ◇◆◇◆◇



 こんにちは、コトーです。


 近頃はガキを騙すのにも一苦労、そんなコトーです。二エブラ酒造?どこですか、それ。


 普段よりも二割程肉が少ない串焼きを、倍の値段的で売っているにもかかわらず、飛ぶように売れております。笑いが止まりません。きっと肉やらソースやらが良い物だからでしょうね、信じる心大切です。



 うん、売れすぎてちょっと変なテンションになってた。


 しかしさすがは勇者召喚祭、王都の大通りは真っ直ぐ歩くのが困難なほど、人で溢れ返っている。おかげでまだ昼の鐘の前だというのに、仕込んだ肉の七割程が売れてしまった。嬉しい誤算、今夜はうまい酒が飲めそうだ。


 今日は王城のパーティに出席している勇者だが、明日は王都見学のために街へ降りてくるらしい。


 鉢合わせをして変なフラグが立ったら面倒くさい、明日は下町の裏通りにある酒場で一日中飲むつもりだ。


 明後日からは肉の補充のために狩りに出て、パレードのある祭りの最終日にもう一稼ぎの予定。


 とりあえず今晩と明日のうまい酒のために、今は串焼きを売るのに専念する。


 俺だって祭りを楽しみたいからな。




 ◇◆◇◆◇



 次の日、裏通りの酒場に入ったら、勇者がお忍びでやって来た〜という事も特に無く、その日は気持ち良く飲んだくれる事ができた。


 さらに次の日、要するに今日、昨日の酒が抜け切らぬ頭を振りながら、早朝の森を歩いている。兎用の括り罠を仕掛けるためだ。


 これは針金で作った輪っかを、兎の通りそうな所にぶら下げるだけの簡単な罠で、輪の中に兎が入ると針金が締まり、抜け出す事ができなくなる。


 量が欲しいから、頑張って普段の倍の罠を仕掛ける事にする。


 ちなみに兎はギルドに持ち込んでも、大した値段にならない。せいぜい一匹で昼食一回分程度。


 だから市で串焼きにして売っている、そっちのほうが儲かるからな。


 そして、ギルドで俺につけられたあだ名か『串焼き屋』だ。半分馬鹿にされているが、全く文句は無いな。


 迫りくる勇者達を串焼きにしてつけられた『魔王』よりも、とても平和で良い感じだ。


 当時の俺はとても荒れていたな。別の空間にいる女神を殴る事ができないから、代わりに勇者をぶん殴っていた。


 俺が高校生の時に日本からこの世界へ、女神本人により誘拐同然に召喚されて、約二千年が過ぎた。


 直接聞いたわけでわないが、おそらく女神は自分好みの勇者を作り上げるための、魔王の素材として俺を召喚したのだろう。()()()()()をかけて。


 不老不死では無く、不死。


 始めの五十年は拾われた村で、それなりに平和に暮らした。


 次の五十年、歳をとって枯れ木のようになり、寝たきりで食事も水も取らない、それなのに生きている俺に怯えた村人達によって、小舟に乗せられ海に流された。


 舟が嵐で沈む事も無く、海の魔獣に襲われることも無く、流れ着いた小島の海辺の洞窟の中で、さらに百年女神を呪いながら、時には救いを求めながら、動かす事ができない身体で狂いそうなりながら過ごした。


 そして百年、魔力の存在を感じ取れるようになり、魔力を操り身体を動かすことができないか、試行錯誤を続けた。


 少しずつ時間が流れ、まず指が、次に腕が、足が、首が、胴体が、と身体を完全に取り戻すまで約六百年。さらに副産物としては強大な魔力と、それを完全に制御する能力を手に入れた。


 この時点で女神と同等の魔力量があったと思う。しかし俺はさらに上を目指すために訓練を続け、それから百年後に最初の勇者が俺を殺しに来たのだ。


 なぜ俺が約千年も放って置かれたのか、理由はわからない。


 始めに壊れかけた頃に女神が手を加えれば、魔王らしい魔王になっていた気もする。


 戦いに疲れた今の俺は、女神が目の前に来たら、とりあえず一発ぶん殴るわ〜位のテンションでしか無い。


 勇者をプチッと殺るよりも、串肉を焼いてる方が楽しいし。


 楽しいのために頑張ろう、と残りの罠を仕掛け、ハーブを採取しながらの帰り道。


 始めに仕掛けた罠の辺りで、ガザッと何かが這う様な音がした。


 おぉ、早くも罠に掛かったか、ラッキー!


 などと喜びながら小走りに近づいたその時、昔誰かに言われた「フラグってね、考えた時点でもう立っている物なんだよ」ってセリフを思い出す。


 始めの罠に掛かっていたのは、黒髪黒眼でクリっとした瞳の可愛らしい、それはもう立派な兎耳を生やした幼女だった。
















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