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06 出発

 久しぶりなのに、セイランはあまりアサヒを見なかった。向こうも仕事で来てるようなので、仕方ないと言えばそうなのだが。


「もうちょっと話したかったなあ」


 学院の授業を受けながら頬杖を付いて、アサヒはぼんやりとしていた。

 いくら竜王の記憶があると言っても、アサヒ自身の知識が増えなければ過去の竜王の知識を理解できなかったりする。魔術はともかく、歴史や武術は地道に学ばなければ身に付かない。

 しかし、アサヒは授業に集中できず、セイランのことを考えていた。

 アサヒにとってセイランは、孤児から脱するきっかけとなったキーパーソンであり、初めて出会った頼れる大人である。

 誠実で筋の通った信念を持ち、ユーモアも解する優しいセイランにアサヒは好感を持っていた。拾って教育してくれたのがセイランで良かったと思っている。


「……そういや、炎竜王だってバレたよな」


 ピンインが彼の前で大声で叫んでいたことを思い出して、アサヒは顔を曇らせた。

 アサヒが竜王だと知ったセイランが、プライベートでどんな態度を取るか分からない。水竜王を探しに来たセイランは、仕事だからかアサヒを無視して、あくまでもアントリアの竜騎士の立場を貫いていた。

 改めてプライベートで会って話すとしたら、どんな態度になるだろう。炎竜王だと知ったからには、ピンインに話すような丁寧口調になってしまったりしないだろうか。


「他人行儀は嫌だな……」


 一気にテンションが下がったアサヒは、学院での勉学はそこそこで切り上げて、寮に帰ることにした。


「ただいまー……」


 水竜王はアントリアへ帰っただろうか。

 寮の玄関を開けると、掃除をしていたユエリが顔を上げた。


「おかえり。水竜王ならお昼寝の時間よ」

「昼寝? あいつまだいるのか?」


 結局、どうなったのかな。アサヒが首をかしげていると、建物の中から会いたいと思っていたセイランが出てきた。彼はアサヒを見ると砂色の眼差しを和らげてほほ笑んでみせる。


「アサヒ、ちょうど良かった。共にフォーシスへ行こうか」

「フォーシス?」

「久方ぶりにハナビの顔を見たいからな。アウリガ経由でコローナへ出立する前に、会っておきたい」

「セイラン、それって……!」


 セイランの口調は久しぶりに会う愛弟子に対するものだった。

 変わらない親愛の態度にアサヒは安心する。同時に話し合いの結果も分かった。水竜王陛下は譲らなかったらしい。ピンインのお供でセイランも同行するのだ。


 アサヒはセイランに誘われるまま、寮を出た。

 フォーシスは王都から少し離れた場所にある。

 街の外れでセイランは自分の竜を実体化させた。

 深い藍色の鱗をした鋭角的な翼を持つ竜が姿を現した。セイランの相棒の風竜クレイモアだ。


「俺も」


 ポケットの中で寝ているヤモリを取り出して、竜の姿になってくれと頼もうとすると、セイランが「待て」と止めた。


「私の竜に乗れ。竜王を実体化させるのは良くないだろう」

「偽装できるけど……乗せてくれるならその方が良いか」


 好意に甘えてアサヒはセイランの竜に乗せてもらう。

 空を飛び始めた竜の背中で、アサヒはセイランと話をした。


「セイラン……学院に行って炎竜王を見つけろ、ってあんたは言ったけど。結局見つからなかったよ」


 俺が炎竜王だったから。

 少しふざけて言うと、セイランは頷いた。


「正直驚いたが、予感はあった。君は無詠唱で炎を操ったり、規格外だったからな。それに奇妙な姿をした君の竜……」

「こいつ?」


 アサヒの腕の上に出たヤモリは、くわっと口を開けて大欠伸あくびをした。

 風で飛ばされないように長い尻尾をアサヒの腕に絡ませている。


「ピンイン様の竜も変わった姿をしていたからな。竜王はそういうものなのかもしれん」


 確かに水竜王の金魚も相当にインパクトが大きい。

 竜王の扱いには慣れている、と言ってセイランは笑った。


「それにしても、いくら奇行で有名な水竜王陛下と言っても今回の行動は疑問が多い。化粧品が目的と言っていたがどうだろうな」

「そうなのか?」

「訳も無く勝手をされる方ではない」


 セイランは空を見据えて思案気な様子で呟いた。

 水竜王とは過去の竜王時代も含め、あまり親交のないアサヒは戸惑った。

 あんまり考えているようには見えなかったのだが。





 ハナビと久しぶりに会った次の日。

 飛行船に逃げ遅れたコローナの兵士達を収容すると、アサヒ達はアウリガに出立することになった。留守の間はピクシスにもしものことがあれば、土竜王も動いてくれることになっている。


 旅の同行者は飛び入りのピンインとセイラン、アウリガ出身のユエリ。

 それにアサヒの予想外のメンバーがプラス二人。


「スミレさん、本気ですか?」

「私はいつも本気です」


 清楚な黒髪の巫女スミレは、手に持った長細い棒が入った包みを手元でくるりと回転してみせた。

 彼女は気合の入った皮鎧を着こんでいる。


「それは?」

薙刀なぎなたですわ。これでアサヒ様にあだなす輩を一刀両断するのです!」


 ヒュンっと鋭い風切り音が鳴る。

 アサヒは彼女の同行については深く追求しないことにした。


「竜騎士は竜に乗って交代で飛行船の守りに付く。順番は……」

「おい、なんであんたがここにいるんだよ」


 今回の遠征には6名程度の竜騎士が付くことになっている。

 彼らの前に立って指示しているヒズミを見つけて、アサヒは突っ込んだ。

 振り返ったヒズミが答える。


「私も行く」

「あんたは島に残って采配を取るんじゃ」

「お前は放っておいたら、ふらふらどこへ行くか分からんからな」

「……ミツキはどうするんだよ」


 アサヒは声をひそめて聞く。

 話しながらアサヒは、出発前に離宮で静養している彼女に会った時のことを思い出していた。




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