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18 間に合え!

 竜の背でウェスぺは顔をしかめた。

 火の島の竜騎士、ヒズミ・コノエと交戦中だが、戦いそのものは余裕である。光竜王ウェスぺが気にしているのは、別なことだった。


「どうも風向きが良くない」

「え?」


 同乗する従卒のルークが疑問の声を上げる。

 ウェスぺは地上を指し示した。


「見よ」


 飛行する竜の背からは、地上は遠く人の姿も判別しづらい。

 しかし辛うじて、地上で騒ぎが起きてあちこちで乱闘が起こっていることが伺えた。


「小雀の行動が奴らに火を付けたか、今頃になって必死の抵抗よ。おかげで反乱の鎮圧が遅れている」

「陛下の力を持ってすれば、こんな反乱など……」

「そうだな。奴らを我がコローナの民もろとも、焼き殺すのは容易いだろう」


 本気を出せば、自国の民を巻き添えにしてしまう。

 それはさすがに光竜王も避けたいことだった。

 民なくして何が王か。


「思い通り動かん奴らめ……せっかく炎竜王を孤立無援の状態で迎えてやろうと考えていたのに」

「策士策に溺れるという奴でしょうか」

「何か言ったかルーク」

「いいえ」


 しれっと従卒は視線を逸らす。

 ウェスぺは舌打ちした。


「小さな火種と思って放っておいたのが過ちであったか」

「失敗だとお認めになるので?」

「見くびるな、だてに年はとっていない」


 深紅の炎が間近に炸裂するのを、ウェスぺは少し眉をひそめただけで片手を振って追い払った。

 火の島の竜騎士ヒズミ・コノエは後先考えず鬼気迫る勢いで打ち込んでくる。彼の必死の攻撃は、竜王であるウェスぺにとっては実は大したことはないのだが、払いのけるのがうっとうしい。


「遊びは終わりだ」


 ウェスぺは竜の背で立ち上がる。


「内なる大気エア、外なる暁闇アウロラ……命がけで逃げよ、振り返ってはならない」


 能力が高く計算高いヒズミを気に入っていたウェスぺは、可能であれば生かして捕らえて部下にしたいと考えていた。だが、ヒズミの猛攻を受けて考えを改める。

 もったいない人材だが自分のものにならないなら仕方ない。一撃のもとに消滅させるとしよう。


神罰柱ルースピラー


 対象をしぼって一撃で粉砕する魔術だ。

 高速で飛行する深紅の竜の上に光が落ちる。


「まったく私に本気を出させるとは、大した男だ。記憶に残しておいてやろう……何?」


 銀色の光の柱が、横から飛んできた黄金の矢に吹き散らされる。


「光竜王陛下っ!」


 ルークが立ち上がって咄嗟に防御の魔術を展開する。

 一瞬あとに、黄金の炎の弾が次々とピクシスの上空の飛来する。ルークが防御していなければ、必殺の魔術を使った直後の無防備なウェスぺは被弾していたところだ。


「くっ、アサヒの奴、戻ってきたな!」


 火の島へ向かって飛んでくる竜騎士の部隊、その先頭には、黄金の炎を放つ漆黒の竜王の姿があった。






 全速力でヤモリが変身した竜に飛んでもらって、アサヒは肉眼で火の島を確認できる距離に来ていた。


『どうやら間に合ったようだぞ、我が盟友』


 ヤモリの言う通り、ピクシスの上空には見覚えのある深紅の竜の姿があった。ヒズミは無事のようだ。安心したアサヒは、次の瞬間、光竜王が放とうとしている魔術の気配に気付く。


「内なる大気エア、外なる世界コスモス……虹炎弓矢アルカンシエル!」


 威力を上げるための詠唱を省略して、アサヒは急ぎ炎の矢を撃った。

 間一髪で炎の矢はヒズミの上空に現れた光の柱を薙ぎはらう。

 あれは光竜王の魔術の中でも危険な部類だ。同じ竜王でも状況によっては問答無用で消滅させられる。


天津炎アステラス!」


 牽制のために複数の炎の弾を雨のようにピクシスの上空に降らせながら、アサヒは胴の長い黄金の竜を駆るウェスぺに近付いた。


「よう、ウェスぺ。火の島を返してもらうぜ!」


 既にアリト・レイゼン率いる竜騎士部隊が次々と降下して、コローナの兵士と戦いを始めつつある。

 黄金の竜の背でウェスぺは不機嫌そうに答えた。


「たしかに、島全体を使って最後のひとりになるまで戦えば、我がコローナを押し返すことは可能かもしれん。多くの死の上の勝利を君が望むのであれば」


 兵士ではない一般の人々をも巻き込むかたちで島全土を戦場にするか、とウェスぺは問いかけてくる。

 竜王どうしが本気で戦えば地形が変わってしまう。

 島への侵入を許した時点でピクシスは不利なのだ。何もない大空と違って、島の上は守らなければならないものが多すぎる。

 アサヒが迷っていると、深紅の竜に乗ったヒズミが近付いてきた。


「アサヒ、霊廟を使え。光竜王は私が引き留める」

「けど、あんたはもう限界じゃ」


 ヒズミは、コノエ家の特権で霊廟を通じて火の島の力を引き出した。竜王以外が扱えば破滅する力だ。光竜王との戦いで彼は既に体力が尽きようとしている。


「あと少しの辛抱だ。そうだろう?」


 疲労がうかがえる顔だが、強い戦意を目に宿してヒズミは笑う。


「……僕達もサポートするよ!」

「カズオミ!」


 下がっていろと言ったのに。

 よりによって前線に出てきた友人に、アサヒは動揺した。しかし、もう迷っている暇はない。


「ええい、やってやろうじゃないか! ヒズミ、ここは頼む。カズオミ、死ぬなよ!」


 仲間を信じて決断を下すと、アサヒは火口にある炎竜王の霊廟に向かって竜を急降下させた。霊廟を使えば大規模で特殊な魔術を行使できる。一か八か、アサヒは勝負に出た。




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