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04 土の島リーブラ

 土の島リーブラは、サイコロのような四角い立体のかたちをした金属の塊だ。しかも上半分は透き通っていて、太陽の光を浴びる植物の緑が内部にうっすら見える。

 炎竜王の記憶によると、リーブラは島の浮遊角度を竜王の力で適宜調整して、壁面で太陽の光を収集しているらしい。まるで科学技術の結晶のような島だ。

 島は金属の外郭で完全に密閉されているため、出入口が限られる。


「僕の親戚がリーブラにいるんだ。頼んで中に入れてもらおう」

「任せたぞ、カズオミ」


 カズオミが意を決して立ち上がる。

 こちらの接近に気付いてリーブラから竜騎士が二人近付いてきた。


「……そこの竜騎士、どこの島の者でなぜリーブラに来たのか、教えてもらおうか」

「僕はカズオミ・クガ。ピクシスの者です。友達と一緒に親戚に会いに来ました」


 立ち上がったカズオミが返答する。

 ハヤテが最年長だが、アサヒもユエリも同じくらいの年齢なので、友達と連れだって遊びに来たと言えなくもない。


「親戚の名前は?」

「カルセドニーの街の北通りで靴店をしているアベイル・ポアンです」

「確認するから少し待ってくれ」


 リーブラの竜騎士の一人は島に引き返す。もう一人はアサヒたちを念のため見張っているようだ。

 ユエリは眉をひそめると、リーブラの竜騎士に聞かれないくらいの声の大きさで呟く。


「……ピクシスの状況を知らないのかしら」

「一番遠いからな。情報が伝わるのも遅いんじゃないか」


 アサヒはリーブラの様子を伺いながら返答する。

 ヤモリが変身した竜は地味に装っているので、アサヒの正体もばれないだろう。

 しばらく待つと竜騎士が戻ってきた。


「坊主、あらかじめ知らせてなかったのか。ポアンは慌てているようだったぞ」

「すいません、急な用事があって」

「久々に坊主が遊びに来たと聞いて喜んでいた。早く顔を見せてやれ」

「はい!」


 リーブラの竜騎士の態度は好意的だった。

 おそらくアサヒ達が同盟国の竜騎士の子供だからだろう。アサヒはヤモリに出会うのが遅かったから経験が無いが、竜に乗れるようになった子供は、島の間を行き来して知り合いの家に遊びに行くものらしい。

 巨大なリーブラの平らな壁面に圧倒されながら、アサヒ達は島の上部分にある専用出入口から、中に入れてもらった。

 竜から降りて徒歩で移動を開始する。


 リーブラは地上が温室のようになっていて、計画的に食料の生産を行っている。人の住む街は地下部分にあった。

 地下に降りてカズオミの親戚がいるというカルセドニーの街へ向かう。

 街は人工の明かりに照らされている。

 天井は高くて暗い。空が見えないというのは落ち着かないな、とアサヒは思った。


「叔父さん!」

「おお、よく来たカズオミ。いきなりでびっくりしたぞ。そちらは竜騎士の友達か」


 小太りした男が笑顔でカズオミを出迎えた。

 彼が親戚のポアンさんらしい。


「うん、そうだよ。しばらく皆をうちに泊めて欲しいんだ」

「大人数だな! 客間の許容人数ギリギリだ。お嬢さんは一人部屋として、男子は相部屋で構わないかな」

「お気遣いなく」


 もとより雑魚寝でも構わないアサヒはしれっと返答する。

 こうしてアサヒ達はカズオミの親戚の家に厄介になることになった。





 夜、ポアンさんが用意してくれた部屋に集まって、アサヒ達は作戦会議をすることにした。4人が入ると部屋は若干手狭だ。


「叔父さんにピクシスの状況を伝えなくて良いかな……?」

「まずは土竜王に会ってからだ。下手に伝えると噂になって、ピクシスに悪い印象を持たれるかもしれない」

「アサヒの言う通りだぜ。ポアンさんを心配させない方が良い」


 カズオミの心配に、アサヒとハヤテは首を振る。


「でも、肝心の土竜王はどこにいるのかな」

「今から探しに行くつもりだ。ハヤテ、一緒に来てくれ」

「ああ。っていうか、お前いつの間にか先輩を呼び捨てにしやがって」

「ははは、気にしない気にしない」


 アサヒは席を立った。ハヤテも立ち上がる。


「……私は夕食の片付けを手伝ってくるわ。ポアンさんの奥さんからリーブラの状況を聞いてくる」


 ユエリは女性であることを活かした情報収集をするつもりらしい。


「あれ? 僕は……?」


 最後に残ったカズオミが自分を指差した。


「カズオミはポアンさん経由でリーブラの竜騎士の隊長クラスと連絡が取れないか、試してみてくれ」

「う、うん」


 なんだか一人だけ戦力外通告を受けた気がして、カズオミはがっかりした。ユエリはさっさと台所に行ってしまう。

 アサヒとハヤテは颯爽と街へ出て行った。

 見知らぬ島の夜の街に出るのに気負う様子も見受けられない。

 カズオミからしてみると、アサヒの度胸は竜王だと分かる前から並外れていたし、ハヤテは一等級ソレルで格が違う。このメンバーの中では自分が一番下だ。


「ああ、僕って何の役にも立たない……」

「どうしたんだカズオミ、つぶれた雲虫みたいな顔をして」

「叔父さん」


 落ち込んでいると、ポアンがやってきた。

 カズオミは身内同然の叔父に気がゆるんで、思わず胸の内を口にする。


「僕は竜騎士なのに戦うことが苦手で、同じ竜騎士の皆に付いていけないんです」

「……」


 ポアンは竜騎士ではない。

 甥っ子の悩みを打ち明けられて彼は唸った。


「うーん……そうだな。とりあえず悩んだ時は手を動かすに限る。作業したら気が紛れるし、良い考えも思い付くさ。そういう訳で靴を作るのを手伝ってくれ」

「はい……」


 肩を落としたカズオミは、叔父に勧められるまま、なめし革を取って靴の型の切り抜きや裁縫を手伝い始めた。

 途中から作業に夢中になりすぎて、アサヒに頼まれたことを忘れてしまったことに気付いた時には、次の日の朝だった。



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