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02 竜騎士の誓約

 ピクシスの王城に入った光竜王は眉をしかめた。


「みすぼらしい城だ。貧しいと聞いていたが、ここまでとはな」


 光竜王ウェスペは金髪に紫闇の瞳をした若者だ。

 後ろを歩く黒髪の従者ルークは、王の機嫌を損ねないか気にしながら報告をする。


「炎竜王の後を追わせたのですが、どうやら竜の島に向かったようです。野生の竜を刺激すると厄介なので、そこから先は追えませんでした」

「ふむ。緩衝地帯に逃げ込んだか」


 王城らしく一般より上等な素材が各所に使われているが、ピクシスの貧しさを反映するように城内は質素で飾り気がない。大広間に入ると空の玉座に勝手に座って、ウェスペは頬杖をついた。


「行く先はリーブラか、アントリアか……。どちらにせよ、土竜王も水竜王も、私の脅威ではない」

「さすが光竜王陛下」

「おだてずとも良い。さて、アマネという代理の女王はどうしようか。竜にでも食わせようか」


 ウェスペは残虐な笑みを浮かべた。


「炎竜王が戻ってくるまでに舞台を整えておかねばな。最高の舞台で、奴を絶望させてその力を奪ってくれよう」


 王城と王都レグルスは制圧した。

 都合のよいことに、ピクシスを裏切って光竜王に協力する竜騎士たちもいる。炎竜王の急所である、彼の兄と巫女姫も手中にある。駒はすべてウェスペの元に集まっていた。

 ここから逆転できるというのなら、してみるがいい。





 野生の竜は人間に近付かないが、竜王であるアサヒは別だ。

 興味津々な様子の幼竜たちにくっつかれてアサヒは困った。

 なぜかは分からないが、アサヒはやたら幼竜になつかれる性質らしい。


「キュイー?」

「キューキュー!」

「……あー、ごめん。俺は別な場所で休むわ」


 アサヒは幼竜をぞろぞろ引き連れて、皆が休んでいる岩陰から離れた場所に移動しようとした。

 時刻は深夜。

 空には月が輝いている。

 

 岩の上には大きな竜が寝そべっていた。アサヒはひょいと竜の上によじのぼる。そこかしこに竜が寝たりしているが、アサヒの行動に怒る様子はない。

 火竜らしいその竜は身体の表面が温かい。

 アサヒは竜の上に仰向けで転がった。

 ホットカーペットの上で寝ているようで、ちょうど良いぬくさだ。

 月を見上げながら、お腹に乗ってきた幼竜を撫でる。


「……あ、アサヒ、ちょっと待って!」

「ん?」


 なぜか、カズオミが慌てて追いかけて来ている。

 竜たちが首を上げて威嚇するのを、アサヒは上体を起こしながら「落ち着け」と言う。幼竜たちはグルグルうなったが、大人しくなった。


「どうしたんだ、カズオミ」

「話がしたくて。というか、すごく竜と仲が良いんだね」

「昔から爬虫類は好きなんだ。ほら、こいつらって独特の触り心地だろ?」

「触り心地については同意するけど」


 カズオミは竜の上に座り込むアサヒを眺めた。

 お腹に一匹、両脇に二匹、足元に一匹、幼竜をくっつけている。いったい何が幼竜の興味を引いているか不明だ。良く分からないが、さすが竜王。


「いや、鱗の感触についての話じゃなくて」

「うん」

「僕は足手まといじゃないかな」


 アサヒは幼竜を撫でる手を止めた。

 カズオミは深刻な顔をしている。


「竜騎士だけど戦えない。僕は何もできない……」


 武術も魔術もからっきしのカズオミは自分に自信が無いらしい。

 その気持ちは分からなくはない。アサヒだって、比較対象やレベルが違うだけで敵わない無力さを知っている。竜王に覚醒する前は一等級ソレル二等級ラーナ相手に歯が立たなかったし、今は光竜王の策にはまってこの有り様だ。

 だが、後悔して悩んで下を向くのは止めることにした。

 どうせ「俺が悪いんだ」と反省してみたところで、口の悪いハヤテに「そうか死ね」と言われるだけだろう。後悔なんて何の役にも立たない。


「うーん……」


 しかし、カズオミはアサヒほど図太くはないので、下手な激励は逆効果だ。

 困ったアサヒは考えこみ、過去の竜王の知識から何かないか、答えを引っ張り出そうとした。


「……そうだ!」

「??」

「カズオミ、誓約ゲッシュは知ってるか」


 きょとんとするカズオミに向かって説明する。


「竜騎士が竜王に対して誓いを立てて、誓約が成立したら、その竜騎士は誓いに応じた特別な力を得られる」

「え、そんなものがあるの?」

「あるらしい。俺も今、先代の竜王の記憶を見て思い出したばっかりだけど」


 竜王が持つ特殊な力のひとつだ。

 仲の良い竜騎士に特別な能力スキルを与える。その効果は絶大で、竜王不在でも誓約の竜騎士が数人いれば一時的に竜王の代理ができるほどだ。

 今のピクシスが他の島に敵わないのは、誓約の竜騎士がいないことも理由のひとつとして挙げられる。


「つまり僕が何かアサヒに誓いを立てれば、戦う力がもらえるかもしれないってこと?」

「そうだけど」


 では具体的にどのような内容をどう誓うのか。

 カズオミは困った顔になった。

 ちなみにアサヒは知らないが、幼い頃のアサヒに誓いを立てたヒズミ・コノエは守りに特化した魔術を会得している。本人の努力やコノエ家の秘伝はあれど、光竜王の攻撃を一時的に無効化できたのはそのためだ。

 閑話休題それはさておき


「すぐには思い付かないよ……」

「だよな」


 当たり前だが、パッと誓いの文句など出てこない。

 

「真面目に考え込まなくても、適当に目標を立てて俺に教えてくれるくらいのノリで構わないから」

「そんな軽くて良いの……?」


 大丈夫、大丈夫とアサヒは笑ってごまかした。

 実際は誓いにかける覚悟や竜王との関係で誓約ゲッシュの効果が変わるらしいが、今のカズオミを追い込む必要は無い。

 野生の竜たちが、アサヒたちの会話をうるさそうにしながら寝返りを打ちはじめたので、一旦そこで切り上げてアサヒたちは眠ることにした。


 


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