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19 夜のとばりが降りるように

 完成しかけた大封柱グランドシールを何者かが崩壊させた。

 雷が鳴り響いた。

 土埃が立ち、遮られた視界の向こうで、崩れ落ちた炎竜王を抱えた青い髪の竜騎士の青年が、竜で空に飛び立とうとしている。


「させるか!」


 光竜王ウェスぺは光の魔術で攻撃して、彼らを止めようとする。

 しかし、光線は青い竜の手前で途絶える。


炎花重結界フレアブロッサム


 炎の魔力で形成された水晶のような花弁が幾重もかさなり、複雑な光の壁、防御結界を形成する。ピクシスの竜騎士である、深紅の髪の青年が手を伸ばして魔術を行使していた。


「我が魔力を最大限に使えば、たとえ竜王が相手であろうと一度は防いでみせる。今はそれで十分だ」


 彼は宣言どおり、竜王であるウェスぺの魔術を完全に遮断してみせた。

 ただの竜騎士のくせに見上げた技術だ。

 そして炎竜王を抱えて飛び去った竜は、風竜らしい。素晴らしい飛行速度だ。完全に、してやられた。


 ウェスペは不機嫌を隠せずに辺りを見渡す。

 そこには灰色の髪と瞳をした、背の高い黒服の男が立っていた。

 アサヒが残っていれば彼の正体に気づいただろう。ユエリの兄を名乗った男だ。彼が光竜王の大封柱グランドシールを途中で止めたのである。


「……本当は我らが王、風竜王アネモス様の救出に使うつもりの魔道具だったのだがな。ここで使い切ってしまった」


 光竜王の視線を受けた男はそううそぶいた。


「アウリガの反抗組織レジスタンスの者か。狩りつくしたと思ったが、残党がピクシスまで来ていようとは」

「光竜王よ。あなたがいかに法を塗り替え、人心を操作しようとも、ほころびは必ずある。アウリガの自由な風は決して手中に納まらぬと知れ」

「生意気なことを」


 ウェスペは手を上げて不快なことを言う男を光で焼き尽くそうとした。

 しかしその前に男の影が伸びて、男を飲み込む。

 影に潜む闇竜を夜にとらえることは難しい。光竜王たるウェスペにはいくつか方法はあったが、ここは彼の島ではなかった。

 すばしこいネズミを追いかけるよりも、やるべきことが山ほどある。


「まずはピクシスの制圧だ」


 こちらを反抗的な目でにらみつける深紅の髪の男に歩み寄る。

 先ほどの防御結界の魔術に魔力を使い切ったらしく、武器を生成する力は残っていないようだ。

 蒼白な顔でウェスペの動作を観察している。

 ウェスペの従者、黒髪の若者ルークが彼を見て顔をしかめた。


「とどめを刺しましょうか?」

「いや、生かして捕らえよ」


 コローナの兵士達が駆け寄って、深紅の髪の男を拘束する。男は悔しそうにしたが、激しい抵抗を見せなかった。炎竜王は逃がせたので目的を果たせたと思っているのだろう。


「……私を、ピクシスの者をどうするつもりだ?」


 真向から聞いてくる男に、ウェスペは口の端を吊り上げた。


「炎竜王に言ったことはお前も聞いていただろう。無抵抗の民を殺すつもりはない。これでも私は伝説にある通り、平和な王で通っていてね」

「……」

「君に関しては利用価値がある。ヒズミ・コノエ。今の炎竜王の兄」


 悔しそうにしていた男の顔が、今度は動揺でゆがむのを、光竜王ウェスペは愉快な気持ちで眺めた。

 世界には光と闇がある。人の心にもまた、光と闇がある。

 炎竜王の縁者であるこの男は、どんな闇を抱えているのだろうか。

 ウェスペは笑った。




【お知らせ】次回からピクシス奪還編が始まります!


ここまでご拝読ありがとうございました。

アサヒの魔術について分かりにくいものもあったと思うので設定を載せておきます。


< 魔術の設定資料 >


通常の魔術の詠唱は

「外なる大気エア、内なる魔力エマ

……自分の体内の魔力を使用して魔術を行使する。

魔力の少ない人は魔力切れになると魔術が使えなくなる。


竜王バージョンは

「内なる大気エア、外なる世界コスモス

……世界を満たす無限の大気に宿る力を借りて魔術を行使する。

体力さえ続けば無限に強力な魔術が使えるが、使用に色々な条件や制約がある模様。


以下、アサヒの竜王バージョン魔術解説。


天津炎アステラス

複数の炎の玉を放つ。炎竜王の魔術の中では威力は低め。その代わりにレジストに失敗した対象を消滅させる付加能力を持つ。

対象以外は傷つけないので使いやすい。


天炎金槍ケラウノス

巨大な三本の槍を放つ。物理的な破壊力は最強。派手だが細かい操作ができず、市街地で使うと大惨事になるので使い勝手が悪い。


虹炎弓矢アルカンシエル

一点突破の貫通力に優れた一矢。遠距離狙撃に向いた魔術で、対象以外へのダメージが低い。


銀河炎ガラクシアス

周囲の空間を広範囲に燃やして火の海にする範囲魔術。

作品中では相手の魔術の効果と相殺、レジストするために応用技として使われた。




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