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16 暮れゆく空に流れ星

 やはり、アサヒのいない間を狙ってきたか……!

 上空を見上げたヒズミ・コノエは歯噛みした。


 飛行船の脇腹に描かれた太陽の紋章は光の島、コローナの証。


 敵はいよいよ本腰を入れてきたらしい。相当な数だ。

 しかし迎え撃つピクシスの竜騎士の数は、かろうじてコローナの竜騎士と釣り合う程度。このままではもたない。


「ヒズミ様っ、レイゼン派の部隊が裏切りました!」

「何?!」

「出撃せずにコローナの部隊を受け入れているようです」


 ただでさえ味方は少ないのに。

 王城に集まった兵達が動揺している。

 本当に敵に寝返ったのか?

 ヒズミは、アサヒと仲が良い明るい赤毛の青年を思い浮かべる。だが今は、味方同士で争っている時ではない。


「……街の者の避難や、防衛を最優先とせよ。生き残ることを第一に考えるのだ」

「それでは勝てません!」

「負けなければ良い」

「!?」


 コノエ家と仲が良い竜騎士部隊の隊長が絶句する。

 爆音が響く。城の外を、ピクシスの竜が傷を負って落下していった。

 圧倒的な劣勢だ。


「待つのは慣れている。そうだろう? 希望を絶やすな。胸の内の炎を消すな。我らの願いに応えて炎竜王は戻ってきた。我らが信じる限り、ピクシスの炎はよみがえる」


 長い年月を掛けて、ピクシス内部では竜騎士の派閥ができて分裂してしまった。コノエ家は直接、兵を動かすことはできず、仲の良い派閥の竜騎士達の判断に任せるしかない。

 ヒズミの静かな言葉に、部隊長はうなだれた。


「今は、耐えるしかないのですね」

「……」

「承知しました。コローナの奴らに荒らされないように、手はずを整えましょう」

「精鋭を集めて、女王を警護してくれ。私は城を離れる」

「どちらへ……?」

「炎竜王の霊廟へ。あそこは私が守らねばならん」


 ヒズミは身をひるがえして、相棒の竜レーナを実体化させる。深紅の竜の背に飛び乗ると、ピクシス中央の火山、その火口のふちへ向かった。

 火口近くには、炎竜王の霊廟と呼ばれる施設がある。

 竜王が島を守るために大規模な魔術を使うとき、霊廟に敷かれた魔法陣を使うのだ。そこは敵に奪われてはならぬピクシスの中枢。

 単身、そこへ向かったヒズミは、霊廟の前に立つ金髪の若者を見つける。彼は上空のヒズミを見上げて笑みを浮かべた。


「あれはまさか?!」


 彼が腕をかざすと光が生まれる。

 咄嗟に無詠唱で防御結界をはるヒズミだが、光の攻撃は一瞬で結界を貫通した。


「くっ」


 深紅の竜レーナの片翼が破れる。

 ヒズミは相棒の竜に小型化するように命ずると、魔術の補助を使って空中を飛び降りた。

 地面に降り立つと目の前に霊廟がある。

 霊廟の前にいる金髪の若者は尊大な空気を発していて、傍らに従者らしい黒髪の青年を付き従えている。


「飛んで火に入る夏の虫、だな。霊廟に張られた結界を解いてもらおうか。炎竜王の縁者よ」


 命令に慣れた声だとヒズミは感じる。

 金髪の若者の威圧感はただごとでは無かった。


「断る」

「私に逆らうと?」

「いずこの竜王かは知らぬが、私が槍をささげし王は一人のみ」


 ヒズミは宣言すると、炎の魔力を固めた槍を生成する。

 手元で槍をくるりと回して穂先を敵に向けた。


「良い覚悟だ。その覚悟がいつまで続くか、試してやろう」


 金髪の若者は、拳大の光の球を宙に浮かべる。

 いったい何をするつもりかと警戒するヒズミだが、攻撃はなんの前触れもなく彼を射し貫いた。


「くっ!」


 光の球から光線が伸び、槍を持つ腕をつらぬく。

 予備動作や予兆が無い魔術の攻撃は避けようが無かった。


「お前は賢そうだから分かるだろう。私はいつでも、お前を殺せるのだよ?」

「……ずいぶんと勿体ぶるのだな。卑怯な真似をしなければ我らが王と戦えないと見える」


 血が流れる腕を押さえながら、ヒズミは挑発する。

 敵の金髪の若者は気分を害したようだ。


「よほど死を望んでいるようだな……」


 彼の肩口の空中に漂う光の球がギラリと輝く。

 その時、日暮れの空に流星が散った。





 アサヒは火山に仕掛けた魔術の反応を感じて、ヤモリが変身した竜と共に全速力で空を駆けていた。途中でカズオミ達は置いてきた。どのみち彼らは足手まといになってしまう。

 ピクシスの上空に浮かぶ敵の飛行船や竜騎士たちが見えてきた。

 竜の背中に立ち上がって詠唱を開始する。


「内なる大気エア、外なる世界コスモス


 金色の炎がアサヒの周囲で空気を揺らして陽炎のように燃え立つ。

 敵を見据えるアサヒの目に、かすかな光の膜が見えた。敵の飛行船や竜騎士は半透明の泡に包まれている。


「防御の魔術を使ってるのか……けど」


 炎竜王が光竜王と互角だったという伝説は誇張ではない。

 攻撃力だけなら、すべての竜王の中でも炎竜王は頭ひとつ抜ける。


「金の翼を持つ炎の矢、星を射落とす嘆きの弓」


 金色の炎が十字を描き、中心に向かって収束する。


「つらぬけ、虹炎弓矢アルカンシエル!」


 七色の光を帯びた矢は真っ直ぐに飛び、ピクシスの上空に漂う飛行船にぶつかった。光の膜をものともせずに矢は着弾し、飛行船は布切れのように燃え尽きて落下していく。

 続けて他の飛行船や竜騎士も落とそうとしたアサヒだが、前方に鏡のような銀のカーテンが現れたので手を止める。

 月光鏡ルーナミラー

 光竜王が得意とする反射の魔術だ。遠距離の攻撃ほど跳ね返される確率が高くなる。反面、近接攻撃は通すという特性を持っている。

 アサヒは舌打ちして炎を握りつぶすと、魔術をキャンセルした。


「火口に行ってくれ。たぶん、あいつもそこにいる」

『数百年ぶりの再会か? 我が半身よ!』


 4枚の漆黒の翼を羽ばたかせ、夕暮れの空をアサヒの相棒は全速力で飛ぶ。火口の上まで飛ぶと、炎竜王の霊廟の前で対峙するヒズミと敵らしき金髪の男が見えた。

 その姿を見据えながら、アサヒは白水晶の剣を抜いて竜から飛び降りる。

 剣を上から振りかぶって落下するアサヒを見上げ、男は笑った。


「久方ぶりだな、炎竜王ファーラム!」

「……お前の好きにはさせない、光竜王アスラン!」


 男が構えた剣と、アサヒの白水晶の剣はぶつかって激しい火花を散らした。




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