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07 月下の戦い(2017/12/3 改稿)

 満月が見下ろす夜の街で剣戟けんげきの音が鳴り響く。

 降り注ぐ攻撃に空を見上げると、まるで忍者のような黒服を着た男が遠くの建物の屋根の上に立っているのが見えた。敵は街の中で一二を争う高さの時計塔の上に立って、アサヒを見下ろしている。

 黒く尖った魔力の刃が、次々とアサヒめがけて飛んでくる。闇にまぎれて見えにくい連続攻撃を、アサヒはステップを踏んで左右に身体を動かして回避する。

 高い場所に陣取って攻撃を続けられたら、らちがあかない。

 アサヒは時計塔に向かって走りながら呪文を唱える。


「外なる大気エア、内なる魔力エマ、大地の束縛から解き放て、跳躍リープ!」


 重力の拘束を束の間ゆるめ、跳躍力を高める魔術だ。

 大きくジャンプして一気に近くの家の屋根に飛び上がる。

 屋根の上で白水晶の剣を鞘から抜く。

 今回は学院から走った時に念のため携帯してきていたのだ。レイゼンの別邸に連行された時も持っていたが、没収されなかった。


 剣を片手に持ち、壁を蹴って弾みを付けながら、アサヒは得意の金色の炎を呼び出し、6つの炎の弾丸を一瞬で生成する。微妙にタイミングをずらしながら、敵の男に向かって炎の弾丸を解き放った。

 敵は一段屋根を飛び降りて炎の弾丸を4つまで避ける。

 残る2つも、敵が手にした幅広のナイフで叩かれ無効化された。

 壁を蹴った勢いを利用して一気に敵に近付いたアサヒは、白水晶ホワイトルチルの剣を振りかぶる。


 敵のナイフとアサヒの剣が激突した。

 鍔迫り合いをする中で、相手の男が低い声で言ってくる。


「お前にティーエ……ユエリを守り切れるのか? 若き竜王よ」


 アサヒは眉をしかめると、後ろへ大きく跳躍した。


「誰だ、お前」

「私はティーエの兄だ」


 月明りの下に見える男の髪と瞳は灰色をしている。

 柔和な顔立ちで、凛としているユエリとの共通要素が見当たらない。


「似てないな」

「血がつながっていないからな」


 なるほど。

 アサヒは油断なく剣を構えながら聞いた。


「さっきのは、どういう意味だ」

「さて。君が本当に竜王なら、おそらく分かるはずだ」


 謎めいた台詞にアサヒは目を細めた。

 心当たりはない。

 ユエリの兄を名乗る男をここで叩ききって良いものか、考えていると、敵の男は屋根を蹴って時計台の向こう側に飛び降りた。

 急いで後を追うが、闇の中にはすでに男の姿は見えない。


「逃げられたか……」


 アサヒは諦めて剣を鞘に戻した。

 今回の件はヒズミに話さなければならないだろう。いくら敵がユエリの兄だとしても、黙っていてピクシスに災いが起きれば元も子もない。

 どう説明するか頭を悩ませながら、アサヒは屋根を飛び降りて歩き出した。





 同じころ、レイゼン邸にて。

 憂鬱そうな顔をして窓際にたたずむハルト・レイゼンに、外から声が掛かる。


「お邪魔するぜ」


 闇の中から進み出るのは青い髪の青年。

 一等級ソレルのハヤテ・クジョウ。


「本当はこういう、使い走りみたいなのは好きじゃないんだけどさ。お前に聞きたいことがある、ハルト・レイゼン」

「なんだ」


 満月の光の中で、二人の青年はにらみ合う。


「レイゼン家の都合に従うか、竜王の意思に従うか、どちらを選ぶ?」


 ハヤテの問いかけに、ハルトは唇を噛む。

 昼間、アサヒを連行したのは彼の意思ではなかった。富を求め権力を維持しようとするレイゼン家、ハルトの親兄弟は、竜王を利用する対象だとしか考えていない。

 市場を支配するレイゼン家にとって自由競争を生みそうなアサヒの存在は危険だった。

 カズオミのような中小の商人達を抑えて管理して、都合の悪いことは全て商人達のせいにして、そうしてレイゼン家は戦乱のピクシスで成り上がったのだ。


 アサヒに出会うまではそのことを当然のことだと考えていた。

 彼と剣を合わせて戦って、それだけでハルトの考え方が変わった訳ではない。

 けれど彼の勇気を眩しく感じている。

 アサヒと正々堂々と戦って自分が正しいと彼に思い知らせてやりたいと思っていた。


「……お前はどうなんだ、ハヤテ・クジョウ」


 ハルトは苦し紛れに、青い髪の一等級ソレルをなじった。


「お前がアサヒを目の敵にするのは、うらやましいからじゃないのか。お前が欲しかったものを全部持っているから」

「黙れっ」


 図星を突かれたのか、ハヤテは険しい表情をする。


「お前が竜王の意思に従うのか、自身の復讐のために戦うのか、決めたら俺も返事をしよう、ハヤテ・クジョウ」

「ちっ。生意気言いやがって」


 ハヤテは舌打ちして身をひるがえすと、闇の中へ歩み去る。

 その後ろ姿を見送ってからハルトはカーテンを引いて室内に戻った。



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