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04 アサヒ様見守り隊(2017/12/3 改稿)

 ピンクの髪の少女の名は、ミーシャ・オグラというらしい。

 頬に散った雀斑そばかすと少し太ったぽっちゃり体型が特徴の、三等級の女子生徒だ。


「お前この間、ヒズミの執務室の前にいただろ」


 執務室を出る時にチラッと彼女の後ろ姿を見かけていたのだ。

 アサヒに問い詰められると、ミーシャはあっさり罪状を白状した。


「はい、その通りですぅ。ヒズミ様とアサヒ様のツーショットを絵に描きたくて」

「絵?」


 彼女の手元にある紙を覗き込むと、人物をデフォルメした絵が描かれている。人物の特徴を良くつかんでいて、誰が誰か分かる絵だ。なかなか上手である。数枚ある絵の中に、自分とヒズミが異様に接近した絵を見つけて、アサヒは絶句した。


「これは……?!」

「私、実はアサヒ様見守り隊の一員なんです!」

「見守り隊?!」

「はい。見た目は美形なのに、いつも良く分からない変な行動をするアサヒ様を生暖かく見守ろうというファンクラブです! 最近、アサヒ様が竜王だと分かったので隊員が増えました!」


 わなわな震えているアサヒを気の毒そうに見ながら、カズオミは眼鏡のふちをいじる。

 彼女の名前には心当たりがある。


「君、もしかして学院の寮に引きこもってる……」

「そんなに噂になってますかぁ?」


 ミーシャは学院の寮に引きこもり、授業にも中々出てこないという例の噂の学生だった。


「学院内の寮は取り壊しになるから、新しい寮に移ることになるって、手紙で通知されたはずだけど」

「新しい寮? あ、もしかしてこれでしょうか」


 通知書類は哀れ、白い裏面を利用して落書き用紙に変わっていた。


「あーーっ!!」


 突然、アサヒが嘆きの声を上げたので、ミーシャとカズオミはアサヒに注目する。


「ファンだかストーカーだか、この際どうでも良いよ! なんでお前ら、俺に直接、声を掛けないんだ?!」

「声を掛けていいんですか? アサヒ様には表立って声をかけないように、ヒズミ様が禁じておられるのですが」

「あいつのせいか」


 偉そうな男の顔を思い浮かべて、アサヒはうめいた。

 竜王だということをおおやけにすべきではないと思うが、何もかもをヒズミ経由にするのもどうだろうか。


「その見守り隊、今度、全員と会わせろ」

「え? ヒズミ様は」

「これに関しては俺の言うことを聞いてくれ。一応、俺が竜王で俺の方が偉い」

「一応を付けるんですね」


 ミーシャはひとまず納得して、見守り隊の隊員と話をすると約束してくれた。

 ひと段落したところで話題が変わる。


「そういえば、アサヒ様の肩の上の蜥蜴とかげは、アサヒ様の竜ですか?」

「そうだけど」

「どこかで見たことがあると思ったら!」


 彼女はポンと手を打った。


「学院の近くの広場に、銅貨を投げ入れると願いが叶うという噴水があるんです。そこの近くで似た蜥蜴さんを見かけました。そういえば、最近、噴水の中の銅貨が減っていると聞いたことが……」


 アサヒは服の中に潜り込もうとしているヤモリをがっしりと捕まえた。


「ヤ・モ・リー?!」

『むむ、ばれては仕方ない。さあ我が盟友よ、我に捧げられた銅貨の代わりに願いを叶えるのだ! 我らは一心同体!』

「一心同体ならなんで俺はお前の食事を知らないんだ?!」


 時々いないな、と思っていたら、噴水で銅貨を食べていたらしい。

 ちゃんと魔石をやっているのに妙に銅貨がお気に召したようだ。

 アサヒは相棒と一度徹底的に話し合う必要があると感じた。





 午後休憩が終わり、学院の廊下を歩いていたアサヒは、青い長髪の男子生徒とすれ違った。

 一等級ソレルのハヤテ・クジョウだ。

 公式にはアサヒは三等級の生徒に過ぎないので、軽く礼をして道を譲る。

 通り過ぎる思われたハヤテだが、アサヒの隣で立ち止まる。


「そういえば、アウリガの残党が街をうろついているんだって。怖いなあ」


 彼は冷ややかな笑みを浮かべながら続けた。


「もし金髪の女と接触してたら、間違えて両方捕まっちゃうかもね」


 ハヤテは謎掛けのような言葉を残して去っていく。


「アウリガの残党……?」


 アサヒは立ち止まって考える。

 ピクシスの人々は閉鎖的で外国人に敏感だ。自分ならどこに隠れるだろうかと考え、気付く。孤児時代にすれ違った犯罪者の行動や、自身の経験から答えは導き出された。


「まさか……」


 嫌な予感がしたアサヒは学院を飛び出して街の中を走り出した。

 新しい寮にする予定の洋館へと。




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