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01 新しい寮は□□屋敷(2017/12/8 改稿)

 先日のアウリガの襲撃のさなか、アサヒは竜王として覚醒した。

 アウリガの間者スパイであることが露見して捕まったユエリ。彼女を助けるための一連の騒動は、アサヒが覚醒するきっかけとなった。竜王の権力を利用して、アサヒはユエリを救うことにも成功する。


 島で女王と並んで重要な役割である「竜王」だが、表向きの統治は女王に任されており、竜王は裏方となるのが通例だ。一般庶民は竜王の顔や名前も知らず、竜王の所在を知っているのは竜騎士だけ、というのが空飛ぶ島の伝統である。

 そのような訳で竜王に覚醒したと言っても、アサヒには表の権力はなく、ひとまずは今まで通りの生活を送ることになった。いずれは竜騎士達を統率する仕事を覚えることになるが、その前に学生として基礎教養を身につけなければならない。


 ところで、今まで孤児出身の三等級として、ボロい学院の寮に住んでいたアサヒだったが、竜王に覚醒したアサヒをさすがにそこには住まわせられないとヒズミが言い出した。

 住むうちにボロい寮にも愛着が沸いていたアサヒだったが、寮は老朽化しているし取り壊すと言われたら仕方がない。

 せめて自分で新しい家を決めてやろうと、学院の午後に授業が無い日を見計らって、カズオミとユエリを連れて街で物件を探し歩くことにした。


 アウリガの襲撃に見舞われた王都アケボノの街だが、早期にアサヒが敵の竜騎士を駆逐したので、被害は最小限に留まっていた。襲撃の爪痕はほとんど見受けられず、人々は賑やかに通りを行き交っている。


「……そういえば、俺ら以外にも寮に学生って住んでたっけ」


 街を歩きながら、アサヒは思い出したように空を見上げる。

 隣を歩くカズオミが眼鏡に手を当てながら答えた。


「ひとり、同じ三等級の人がいたはずだよ。すごい引きこもりで姿を見たことがないけど」

「へえ。じゃあ、最低でも5人以上、寝泊まりできる家が必要だな」


 あのボロい寮に引きこもるなんて、どんな奴なのだろうと思いながら、アサヒは手元の紙に目を落とす。

 空き家を紹介してくれる斡旋屋からもらった情報が、そこには書かれていた。


「うーん、予算どのくらいなんだろ。どっちにしても安い方が良いな」


 学院の寮なのだから、費用は学院から出るのだろう。

 アサヒはヒズミ経由で学院長と話して、寮の建物を選ぶ権利をもぎ取っていた。その時に予算についても話すべきだったのだろうが、アサヒの正体を知った学院長が物凄くへりくだった低姿勢で「もちろん竜王様の仰る通りに」としか言わなかったので、まともな話を諦めたのだった。

 今まで大金を扱ったことのないアサヒには不動産の相場が分からない。ちなみに過去の竜王の記憶はそこまで細かくカバーしてくれない上に、数百年前なので物価が違う。


「どれどれ……一番最後の、すごく安いね」

「本当だ! じゃあここにしようか」

「ちょっと待ってアサヒ、安い物件には大概理由が……」


 メモを手に話すアサヒとカズオミの後ろで、ユエリはぼんやりしていた。何日も牢屋に放り込まれたと思ったら、突然自由になって、気持ちが付いていかない。


「ユエリ? 大丈夫?」

「……平気よ。さっさと決めましょう」


 心配そうに振り返るアサヒに返事をする。

 彼女は今、巫女スミレの世話になっていた。他人の家というのは居心地が悪いので(しかも敵国の巫女の家)、新しい寮は彼女にとっても悪くない提案だった。

 この先どうするにせよ、ピクシスを簡単に出ていけない以上、取るべき選択肢は限られている。


 三人は街の南にある、物件リストで一番安い家に向かう。

 そこは古い大きな洋館で、なぜこんな洋館が二束三文で売られているのか疑問に思うような、立派な二階建の庭付きの館だった。


「えー、値段の割には凄く良いじゃないか!」

「……アサヒ、さっきそこで話を聞いてきたんだけど、ここは幽霊が出るらしいよ」

「幽霊?」


 カズオミの言葉を裏付けるように、洋館の二階の窓に白い影が映る。目撃してしまったユエリはぎょっとした。不自然な生暖かい風が吹いて、館の窓が一斉にガタガタ揺れる。


「どこだよ幽霊」

「ほら、あの窓に」


 ユエリはアサヒに窓の方向を指し示すが、なぜかその一瞬で幽霊らしき人影は消えてしまった。風も止む。


「幽霊なんかどこにいるんだよ。まあ、何かいるとしても別に良いさ。人が増えるのは良いことだし!」

「いやアサヒ、人じゃないから」

「ほら、ヤモリもこの館が気に入ったみたいだ」


 いつの間に移動したやら、ヤモリが洋館の壁を這っている。

 古い洋館と壁を這う黒っぽいヤモリ。

 似合い過ぎて怖い。


「ここにしよう!」


 絶対止めておいた方が良い! とカズオミもユエリも思ったが、残念ながらこの一行の最高権力者はアサヒだった。良い買い物だとほくほく顔の彼を止められる者はここにはいなかった。



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