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27 予想外の味方(2017/12/8 新規追加)

 アサヒはユエリの腕を引きながら薄暗い地下牢の廊下を走り抜け、地上への階段を駆け上った。地下牢の出入り口は、城の中庭に設置されている。そこは既に外だった。

 外に出たアサヒは思い付いて上着を脱ぐ。脱いだ上着をユエリに渡して頭に被るように指示した。彼女の金髪は夜の闇でも目立つ。

 裏口から出ようと中庭を走っていると、城から出てきた人影にぶつかりそうになる。


「って、くるりん眉毛?!」

三等級テラ! なんでこんな場所に?!」


 それは学生服を着たハルト・レイゼンだった。渦巻いた眉毛と明るい赤毛が特徴の青年で、学院の二等級ラーナの男子生徒だ。

 鉢合わせして仰天している間にも、地下牢から兵士が追いかけてきている。

 咄嗟にアサヒは彼に頼む。


「助けてくれ!」


 ハルトは目を丸くする。

 アサヒは返事を聞かずに彼の横を走り抜けると、近くの木陰に入ってユエリと一緒に身をかがめて隠れた。

 追いかけてきた兵士はハルトを見つける。


「おい、そこの学生! こっちに赤い目の男が走って来なかったか?!」


 問われたハルトは眉をしかめた。


「……そいつなら、逆方向に行ったぞ」

「そうか!」


 兵士達は逆方向の城の表門に向かって走り出す。

 彼らが去った後、ハルトはアサヒ達の潜む木陰に声を掛けた。


「説明をしてもらおうか、三等級テラ


 アサヒはユエリと共に立ち上がってハルトの前に立った。

 上着で金髪を隠しているユエリだが、同じ学院の生徒だったハルトには正体が分かる。


「おいっ、三等級テラ、どういうことだ?! お前まさか」

「だから誤解だって!」


 幸いハルトは問答無用で斬りかかってはこなかった。

 焦りながらも、アサヒは早口で事の次第を説明する。

 アサヒの弁解を聞いた彼は険しい表情になる。


「……無抵抗の婦女子を暴行しようなど、竜騎士の風上にも置けん奴らだ」

「信じてくれるのか」

「そういう事をしそうな奴らに心当たりがある」


 問題の男子生徒の外見を挙げると、ハルトは同じ二等級だから名前も分かると言う。


「我がレイゼン家の力で真相を明かしてくれよう!」

「おお、さすがだな、くるりん眉毛!」

「ふふん、もっと褒めたたえるのだ!」


 アサヒは降って沸いた救世主に拍手喝采する。


「と、言うわけで家に帰って父上の力を借りるぞ」

「親の七光りか……」


 自信満々に言い放つハルトに、アサヒは肩を落とした。

 とは言え、ここは権力者の力が無ければ解決は難しい。学生のアサヒやハルトが何と言っても聞いてもらえないからだ。

 兵士達に見つからない内にレイゼン家に移動しようということになった。


「ところで、くるりん眉毛。こんな夜になんで城にいたんだ?」

「竜騎士の叔父上が巡回に出られるというので、見送りと差し入れのために来たのだ。妙な名前で呼ぶな、三等級テラ!」

「お前もいい加減、俺のことを名前で呼べよ」


 軽口を叩くアサヒ。一連の会話でハルトが機嫌を害した気配はない。どうやら、数度の手合わせで妙な親しみが生まれてしまっているらしい。

 雑談をしながらアサヒは、後ろを付いてくるユエリが黙ったままなのが気にかかった。


「……さっきから何も言わないけど、大丈夫か、ユエリ」

「っ……」


 彼女はうなずくと口をパクパクさせ、顔をしかめて首に手を当てた。

 その動作にアサヒは彼女が話せなくなっていることに気付く。

 振り返ったハルトが言う。


「なんだ、閉口クワイエットの魔術を掛けられているのか。外なる大気エア、内なる魔力エマ……解除リリース!」


 ハルトはあっさり彼女に掛けられた魔術を解く。

 さすが二等級だとアサヒは感心したが、待てよ、と思った。こんな簡単に捕虜の魔術を解いてしまっていいのだろうか。まあ、解いたのはハルトだから自分には関係ないけれど。


「……ありがとう」


 喉に手をやったユエリが細い声で礼をのべる。


「ふん、礼ならそこの三等級テラに言え」


 ユエリへの返答はそっけない。ハルトはアサヒに対しては同じ竜騎士で仲間だという認識を持っているが、ユエリはアウリガの間者だと分かっているので冷たく振る舞っているようだ。

 三人は城の裏口を出て夜の街を歩き始めた。

 歩きながらアサヒは、出てきた時と比べて風が穏やかになっていることに気付く。

 穏やかというか、風が止んでいる。

 確認のため夜空を見上げると、上空から降ってくる人影がある。


「……よっ、と」

「お前は!」


 どこからともなくアサヒ達の目の前に飛び降りてきたのは、青い長髪で片目を隠した青年だった。

 彼は陽気に笑って言った。


「よう、お揃いでどこへ行くのかな? アウリガの女を連れて」


 一等級ソレルのハヤテ・クジョウの目には明確な敵意がある。

 ハヤテはアサヒ達の行く手をはばむように立ちふさがった。




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