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17 再戦要求

 アサヒは深呼吸すると、正体不明の女性を真っ直ぐに見た。


「その前に聞きたいことがあります」


 女性の斜め後ろに立つヒズミが眉を上げる。その姿をなるべく見ないようにしながら、アサヒは質問を口にした。


「なぜ王城で、なぜ俺なんですか。お貴族様の住む城に孤児出身の三等級おれを入れて、あなたに何の得があるんです?」


 アサヒの問いかけに、女性はパチリと手にしたおうぎを鳴らした。


二等級ラーナに勝つほどの生徒なら、役に立つだろうと思ったまでです。何か不満でも?」


 上から押さえつけるように女性は言葉を重ねる。

 アサヒは苦笑した。


「間違いかもしれませんよ」

「どういうことです」

「ズルして勝ったのかもしれない。あるいは、あなたが聞いた勝負自体、嘘だったかもしれない。あなたは俺とハルトの勝負を見てないじゃないですか。以前、そっちのお貴族様は、自分の目で見てないものは分からないと仰ってましたよ」


 ヒズミを例にあげる。気を悪くするかなとアサヒは思ったが、壁際でたたずむ彼は何も言わなかった。


「お世辞は結構です。あなたは俺が二等級ラーナに勝ったから俺を雇いたい訳じゃない。もっと他に目的があるんだ。何が不満かと言えば、そう、本当の目的はふせて俺を良いように使おうとしているところが不満ですね」


 孤児出身の三等級テラが勝ったから学院から追放し、困ったその三等級に今度は別の貴族が手を差しのべる。

 出来すぎていて、貴族同士で連携して罠をはっているのではないかと思うほどだ。目の前に並んで立つ女性とヒズミは、それを表しているようである。


「……では、卒業資格はいらないと?」

「いいえ。馬鹿な三等級テラの俺でも、この先、竜騎士の資格が無いと苦労するのは分かります。不要とは言っていません、条件次第だと言ってるんです。もっと明確に取引の条件を教えて頂けませんか」


 アサヒは不敵に微笑む。

 相手は貴族だ。無礼だと斬られるかもしれないが、今のアサヒに失うものは何も無い。

 部屋に沈黙が降りた。

 ややあって女性が口を開く。


「誤解をさせてしまったようですね……説明を省き、騙すように話を進めて、あなたに不快感を抱かせたことは謝罪しましょう。アサヒ、私達があなたを必要としているのは」

「アマネ様、それは私の口から説明させてほしい」


 腕組みして壁際に立っていたヒズミが、途中で女性の言葉をさえぎる。彼は腕組みを解くと黄金の瞳でアサヒを見た。


「アサヒ、お前はピクシスの炎……」

「ここかあっ!!」


 彼は何か言いかけたが、突然、乱入した大声が台詞をかき消した。

 バタン! と扉が開いて、特徴的な逆巻きの眉をした赤毛の若者が現れる。


「ここにいたか三等級テラ! お前のせいで俺はこの数週間どれだけ悔しい思いを味わったか! 今度こそ真の強者が誰か思い知らせてやるっ、いざ尋常に勝負しろ!」

「……くるりん眉毛?」


 アサヒは振り返って呆気にとられた。

 そこにいたのは以前、決闘でアサヒに負けたハルト・レイゼンだった。


「ハルト、お前は誰の前で礼を失したか分かっているのか」

「あ、ヒズミ様! 見ていてください、今度こそ俺が勝ちます!」


 聞いちゃいねえ。

 明らかに不機嫌になっているヒズミに気付いていないのか、勢いのまま叫ぶハルト。さすがのヒズミも、真の馬鹿相手に返す言葉も見つからないのか微妙な表情になっている。

 反応に困っている貴族達を眺めて、アサヒは何だか楽しくなってきた。


「……分かった。再戦を受ける。お前が勝ったら、二等級ラーナは凄いって認めて大人しく学院を去ってやるよ」

「アサヒ?!」


 なぜかヒズミが焦った声を上げる。

 なんだ? 最初に学院から追い出したのはヒズミの方なのに。今の声だけ聞くと俺の味方みたいだけど……気のせいかな。

 一瞬、疑問を感じたアサヒだがすぐにそのことは忘れた。

 ハルト・レイゼンの燃えるような眼差しと対峙する。

 もはやただの観客になってしまった女性やヒズミは場外でポカンとしていた。


「ようし、その言葉を忘れるなよ、三等級テラ!」

「その代わり俺が勝ったら、お前が俺の部下、いや違った、友達になれよ!」


 ビシッと指差すと、ハルトは一瞬目を丸くしたが、すぐに了承する。


「ふんっ、お前が勝ったらな!」


 成り行きを黙って見ていた女性だが、扇を机の上に置くと立ち上がった。


「……良いではありませんか。庭で決闘なさい」

「アマネ様!?」


 女性がそう言い出すとは考えていなかったらしい。

 ヒズミが驚いた声を上げる。


「自分の目で見ないと分からない……そうでしょう?」


 含み笑いをする女性に、ヒズミが苦い顔をした。自分の言葉を逆手にとられてやりたい放題されている。

 彼は溜め息をつくと壁際を離れた。


「ハルト、アサヒ、お前達の決闘はこれが最後とする。勝負が終わった後に改めて話をしよう」

「はい!!」


 急いで寮に戻って剣を用意しながら、アサヒは俺は何をやっているのだろうかとおかしくなった。

 女性との話はうやむやのまま中断になっている。

 だがその交渉も、この決闘の結果次第で答えが変わるだろう。

 アサヒは白水晶ホワイトルチルの剣を手に学院の庭の近くにある修練場、決闘の舞台へ向かった。




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