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12 金は天下の回りもの?

 ユエリ・フウは水の島アントリアからの留学生ということになっている。表向きは。

 彼女の本当の出身地は水の島アントリアではなく、風の島アウリガ。

 故郷から遠く離れた島に身分を偽って渡ってきたのは、ある目的のためだった。


 その目的とは……ピクシスの炎竜王の暗殺。


「ヒズミ・コノエ……本当に炎竜王なの?」


 現在、炎竜王だと言われている一等級ソレルの青年。

 王にふさわしい威厳も持った彼には、多くの竜騎士の子供が付き従っている。しかし彼が真に竜王であるかは不明だ。

 竜王の存在は同じ竜騎士にしか判別が付かない。

 竜騎士ではないユエリには彼が炎竜王か確信が持てなかった。確信が持てないまま、夜道で彼を襲ったものの返り討ちにされたのだ。


 ヒズミに慈悲を掛けられ、定期便で島を出るように言われたのだが、その前にユエリには重大な問題に直面していた。


「お金が足りない……」


 アウリガの暗殺者ユエリは金欠だった。

 貧しいピクシスは外国から入学した生徒は金づるとばかり高い学費を取り立てている。学費と下宿代を払って手元に残る金額はわずかだ。

 食事は学食があるし最低限の生活は保障されているが……ユエリも女の子だから、買いたい服、必要な雑貨がある。それらを買うと残金は残り僅か。


「こうなったら学院から離れた場所でこづかい稼ぎを……」


 しようかなと考えて気づく。

 そういえば先日、決闘で二等級ラーナの生徒に勝ったアサヒは学院の外で仕事をすることになっていた。彼と会う可能性はないだろうか。


「……ないない、ありえないわ」


 ユエリは頭を振って立ち上がった。

 彼女はこの前も同じことを考えて、学院でアサヒとばったり会った件をすっかり忘れていた。





 手っ取り早くアケボノから離れるには、竜に乗る方がはやい。

 ユエリは竜に乗せてもらおうと、アケボノの端の竜の乗り降り場に向かった。


「よう」


 そこでやっぱりアサヒに出くわした。


「あ、あなた……!」

「知り合いなの、アサヒ。彼女、一等級ソレルのようだけど」

「うん、知り合い」


 アサヒは同じ三等級テラらしい眼鏡の青年と一緒にいた。寝癖が爆発している栗色の頭の青年は、眼鏡をいじりつつ不思議そうにユエリを見る。


「人前で話しかけないで、って言ったでしょ!?」


 もう遅いと思いつつ、ユエリは頬を赤くして抗議した。

 文句を言われたアサヒに気にした様子はない。


「えー、だって俺は困らないし。困るのはユエリだけだし」

「な……!」


 予想外の答えにユエリは絶句した。

 眼鏡の青年が気の毒そうに見てくる。


「すいません、うちのアサヒが無礼なことを……ほら、アサヒ、謝れって」

「あー、スイマセン?」

「ぜんっぜん、謝られた気がしないわ!」


 棒読みの謝罪にユエリは額に青筋を立てた。

 そうこうしているうちに、運搬業に従事しているらしい、下級の竜騎士達が降りてくる。

 火山のふもとの村から物資を運んできた彼等の竜は、背中に袋や木箱を背負っていた。

 アサヒを無視して、他の竜のもとへ向かおうとしたユエリだが、運搬の竜を見たアサヒが気になることを言ったので立ち止まる。


「……なんで背中に荷物を背負うんだろ。吊り下げて運んだ方が効率がいいのに」


 ピクシスの一般の人々なら、アサヒの言葉に「何、言ってるんだコイツ」と思ったかもしれない。

 だがユエリはアウリガ生まれで、アントリアや他島の文化も知っている。技術開発が盛んなリーブラは勿論のこと、アウリガやコローナも竜で物資を運ぶ時は吊り下げるのが主流だ。ピクシスの技術は遅れていた。

 ユエリはアサヒを振り返った。


「あなた、荷物を吊り下げる竜を見たことがあるの?」

「いや、何となく見ててそう思っただけ。ユエリは荷物を吊ってる竜を見たことがあるのか」

「……アントリアで、少し」


 答えながら、ユエリはアサヒについて疑問に思った。

 最初は相棒の竜の姿に驚かされた。

 次は決闘で、無詠唱で金色の炎を次々と呼び出し、三等級テラでありながら二等級ラーナを圧倒した姿に。

 今は何か知識がありそうな様子に、驚かされている。

 アサヒは孤児出身だというが本当なのだろうか。

 宝石のような深い紅の瞳に、整った容姿。粗野な態度が目立つが、きっちりした服を着て上品に振る舞えば貴族にだって見えるだろう。


「アサヒ、あなた運搬の仕事を手伝うのよね?」

「そうだけど」

「ついでに私も運んでいってくれない?」


 ちょっと目を見開いてから、別に良いけど、と答えるアサヒ。

 ユエリは彼に興味を持ち始めていた。



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