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02 星光る夜空の竜

 大通りに沿って鉄の柱が間隔を置いて立っていて、柱に付いた硝子細工のような透明な箱に入った炎があかあかと燃えている。

 夜の王都アケボノは街灯や酒屋の明かりできらめいていた。

 先日までアサヒがいたフォーシスや貧民街は、夜は真っ暗で治安が悪く危険な場所だった。だがアケボノでは夜も明るく、女性や子供が道を歩いている。

 火山の中腹にある都アケボノは街の中に段差があって、一番高い場所に王城がある。女王陛下がおわすという石造りの城は、夜中でも松明でライトアップされていて外観が見てとれた。


 アサヒは大通りをのんびり歩いた。


「……ん?」


 突然、耳元でキンという音が鳴った気がした。

 立ち止まって耳を澄ませる。

 刃物を打ち合わせる高い金属音が、遠くで響いている。

 服の下でもぞもぞ動いたヤモリが襟元から顔を出す。

 ヤモリは伺うように大通りから外れた暗い路地の方を向いた。


「行ってみるか」


 相棒が気にする様子を見せたので、アサヒは何となく暗い路地に踏み込んだ。念のため、低く魔術の鍵詞じゅもんを詠唱する。


「外なる大気エア、内なる魔力エマ、鎮静し沈黙せよ。静影カーム


 セイランに習った気配を消す魔術だ。

 金色の炎と違い、こちらは詠唱無しでまだ使えない。

 この魔術は気配を消すだけなので足音は消せない。忍び足と併用すれば完璧なのだが、今のアサヒにはそこまではできない。

 だが、使わないよりかは、敵に見つかる可能性は減る。

 なるべく足音を立てないように移動して、金属音の響いている場所に近付いた。物陰に隠れて様子を伺う。

 はたして、そこでは刃を交える戦いが展開されていた。


 戦っているのは二人の若い男女だった。


 アサヒと同世代くらいの年齢だろうか。男の方は制服のような服を着て、穂先が三又に分かれた長大な槍を持っている。暗闇に映える深紅の髪と金色の瞳、狼のような鋭さと気品を併せもつ青年だ。


 女性の方は黒一色の服装で黒い仮面をかぶって顔を隠している。身体の線の細さや腰の細さ、胸のふくらみで若い女性と判別できた。背丈はアサヒより少し低いくらいか。手に車輪のような円形の武器を持っている。

 アサヒは初めて見るのだが、それは天輪チャクラムというブーメランのように投げて使用する武器だった。


「っ!?」


 男が槍を振るうと、穂先から深紅の炎が飛ぶ。

 避けきれなかった女性の顔の横を炎が通り過ぎ、女性の仮面がはらりと焼け落ちた。仮面の下から現れたのは、涼やかな月長石の瞳と薄いピンクの唇。形の良い顔の脇を蜂蜜色の髪が流れ落ちる。


「……ほう」


 槍を持った男が感嘆の声を上げた。


「見覚えがあると思ったら、貴様はユエリか。アントリアからの留学生というのは偽りか? アウリガから来た暗殺者だったとは」

「くっ」


 女性は焦った様子だ。

 どうも男の方が優勢らしい。

 男の背後、夜空に深紅の翼を広げた竜が現れる。

 屋根の上に窮屈そうにたたずむ巨大な竜は、男と同じ金色の瞳を持っていた。黒曜石で出来たような黒く鋭い角に、手足に鋭い鉤爪。竜があぎとを開くと、鱗と同じ紅蓮の炎がもれ出る。


「ここで死ね。灰も残さぬくらい粉々に焼いてやろう」


 竜は炎を吐き出そうとしていた。

 見ていたアサヒは悩んだ。

 放っておくと目の前で女性が竜の炎に焼かれて死ぬ。

 でも、どちらかというと女性の方が怪しいんだよなあ。覆面に黒い忍び装束だし。

 それに割り込むと面倒なことになりそうだ。

 うーん。


「……決めた。綺麗な女の子は正義だよな」


 基本は面倒ごとに関わらない主義のアサヒだったが、女性の高潔そうな強い意思を持った顔つきが気になった。

 無詠唱で金色の炎を呼び出し、深紅の竜の頭にぶつける。


「っ、誰だ?!」


 炎を吐き出す直前で深紅の竜は口を閉じる。

 男の誰何すいかの声に、アサヒは物陰から出た。


「通りすがりです。いきなり殺すとか、穏やかじゃないんじゃないか?」


 ユエリと呼ばれた女性の驚いた顔と、厳しい男の視線がこちらに向く。


「酔狂な奴だ。通りすがりだと?」

「ああ」

「悪いことは言わない、黙って去れ。今なら見逃してやる。邪魔をするならお前も……」


 男が手に持った槍を水平に掲げ、男の背後の竜が低く唸る。


 アサヒは肩に乗ったヤモリを撫でた。

 竜の姿になってくれ。

 強くそう念じる。

 肩から黄金の炎が立ち上ぼり、背中を守るように広がった。炎の中からヤモリが変身した竜が立ち上がる。


 それは星光る夜空のような漆黒の鱗を持つ竜。

 男の深紅の竜よりも一回り体躯は小さいが、威圧感では負けていない。黒いコウモリ型の翼は、普通の竜と違い二対四翼。アサヒと同じ色の紅玉の瞳の奥に金色の光がまたたいている。

 竜の頭上には複数の金色の角が、まるで王冠のように輝いていた。


 狭い路地にうずくまるように現れた黒竜を見上げ、男は目を見張った。


「竜騎士だと……それに、その竜の姿は……!?」


 アサヒの竜を見た男はなぜか動揺して息を呑んだ。




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