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22 オーバーテクノロジー

 アサヒ達の前で海面に渦巻く波の中から、天空を貫く塔のような石柱が現れた。硬そうな壁面は光を反射して鏡面のように輝いている。

 六角形の水晶のような石柱は、よく見ると根本近くにいくつか穴が開いている。

 穴からは大量の海水が流れ落ちていた。


「あれが海竜王だって? ありえない、あれは……?!」


 竜でも人でも、生き物ですらない。

 アサヒは頭痛をおぼえてこめかみを押さえた。

 竜王としての前世ではなく、人としての前世、今は幻のように曖昧になっている「地球」という世界の記憶がアサヒの意識を刺激する。


「あれが魔物の本体か。しかし、やはり妙だ。どんな魔物でも世界に属する以上、世界に無限に満ちる大気エアを通して世界の意思と関わりを持っているのに、あれにはそれが感じられない。何にも属さぬ隔絶されたモノであるようだ」


 水竜王ピンインは巨大な石柱を見下ろして冷静に分析している。

 竜王達が観察する中で、石柱は震えて表面に光の筋が走る。

 赤に青に光る模様が石柱の表面で明滅した。



『……生命反応、検知。人類個体の生存を確認。残留因子の排除を開始します……』



 無機質な女性の声が柱から響く。

 声を聞いたアサヒは、ある種の確信を持った。

 これは機械だ。

 なぜこんなオーバーテクノロジーな代物が海底にひそんでいたのか不明だが、おそらく石柱は人類を滅ぼす兵器のようなもの。洪水を起こしたのも、土竜王や水竜王が言うように、この石柱かもしれない。

 海底にひそんでいて姿が見えなかったから自分達はこれを海竜王だと勘違いしていた。


 見ているうちに、石柱の根本から吐き出されていた海水が止まる。

 排水口のようなその無数の穴から、今度は白い霧のようなものが立ち上り始めた。


「!……いけない、あれは」


 アサヒの後ろで菓子をつまんでいた風竜王が、立ち上がる。


「アネモス?」

「内なる大気エア、外なる時空ディメンション……吹き払え全てを! 乱気流タービュランス!」


 もわもわと上空に煙のように立ち上る霧は、アネモスの魔術で散らされて海面に吸い込まれた。


「あの霧、もしかして毒か?」

「うん、人間が吸い込めば死んでしまう。それにしても光竜王の奴、大変なものを起こしてくれたね。地上を海がおおったように、もし霧が天空に広がったら、今度こそ僕ら人類は終わりだよ」

「やっぱりウェスぺは見捨てようかな……」


 謎の石柱が生えてきたのは、明らかにウェスぺの行動がきっかけだった。海の底に眠っていてくれれば良かったのに。


「っ、キリが無い」


 モクモクと立ち上る白い霧は、風で払っても次々と上がってくる。

 アサヒは霧の排出口である黒い穴を見つめた。


「……アネモス、お前、自分の竜に乗れ」

「アサヒ? まさか……」

「図体のでかい、ああいった機械系の敵は内部に潜入して爆破って、相場が決まってる」

「え?! まさかあの根元の穴から中へ?! 無茶だよ!」


 仰天するアネモスだが「もう充分食っただろ、働け」とアサヒが言うと、しぶしぶ肩の青い小鳥を竜に変身させた。

 風竜王の相棒は蒼空を切り取ったような鱗で、ところどころ柔らかに鳥の羽毛が生えた姿をしている。4枚の翼は通常の竜のコウモリ型と違い、ゆるやかな曲線を描く鳥の翼だった。

 アネモスが自分の相棒の竜に飛び移ったのを確認すると、アサヒはヤモリに合図して、石柱の根元へと向かう。

 柱から光の帯がうねりながらおそってくる。あれは当たれば非常にヤバいものだと、アサヒは直感した。魔術が効くかどうかも分からない。

 アサヒは黄金の炎を進行方向に集中させた。漆黒の竜王は光の帯が薄い場所めがけ、光の帯を押し退けるように速度を上げて進む。槍のような一筋の光線となって竜は急降下した。


「いっけえええええっ!!」


 白い霧が視界をおおうが、得意の黄金の炎を喚び出して、霧を蒸発させる。炎はアサヒの盾でもあり剣でもある、攻防一体の武器だ。

 霧の中へ飛び込んだアサヒは、排出口とおぼしき場所に着地すると、竜王の実体化を解く。小さなヤモリはすぐにアサヒの服の下に潜り込み、背中に張り付いた。


「どうしたんだ?」

『我は火竜なり。水気が多い場所は好かん』


 ヤモリは服の外に出る気が無いらしい。

 アサヒは無詠唱の黄金の炎で白い霧を蹴散らしながら、石柱の内部を歩き出した。

 常に炎を周囲に展開しているのは疲れる。

 体力が尽きる前にここから出なければならない。


 石柱の内部は黒い滑らかな壁が続いている。

 途中で霧の製造場所と思われる歯車が並んだ場所があったが、アサヒは白水晶の剣に炎を込めて歯車を破壊して進んだ。

 こんな豪快な戦法が取れるのは、破壊の力に秀でた炎竜王だけだ。

 壁を強引に炎でぶち抜くと、廊下と思われる場所に出た。


「……だいたいラスボスや重要なものは、一番下か一番上にあるんだけどな」


 上に行くとしても下に行くとしても、階段が必要だ。

 しかし、こんな機械だらけの場所に階段なんて原始的なものがあるだろうか。


「あるならエレベーター……それにしても、何で俺はこんなことを知ってるんだ」


 改めて考えると妙だ。

 アサヒは炎竜王である。

 この魂は火の島ピクシスで転生を繰り返す定めにある。

 しかし何故か、ひとつ前のアサヒは地球という異世界に生まれていた。転生の直前に、光竜王と対戦していたのだから契機はそこにあるのだろう。


『……』


 ポケットに潜む金色の蛇は無言を貫いている。

 光竜王の相棒に聞いてみたい気持ちもあったが、時間が無いのでアサヒは足早に通路を歩いた。


 薄暗い廊下を石柱の中心部へ向かって進み、押しても引いても開かない取手の無い扉を、炎を宿した白水晶の剣で強引に切り裂く。

 扉の破片を蹴飛ばして内部に踏み込む。目の前に、石柱の中心を貫くエレベーターのような構造物が、かすかに明滅する光に照らされて浮かび上がった。



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