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20 竜王会議

 勝手にずかずかと上がりこんできた水竜王ピンインは、勝手に空いている椅子を引き出して座ると、勝手にアサヒの前に置いてあるお茶とお茶請けの菓子をうばった。


「あっ!?」


 ヤモリを押さえるために飲食していなかったアサヒは、自分の分を奪われて茫然とする。

 ピンインは器から茶を飲み干すと「ぷはーっ」とまるで労働明けによく冷えた麦酒をあおったように、満足そうな顔をした。

 真っ赤な金魚が彼の肩口でフワフワ浮かんでいる。

 竜王が三人に増えたので、同席していたカズオミとケリーは強張った顔をして沈黙を守っていた。

 彼らを気の毒に思いつつも、同じ竜王であるアサヒには遠慮する理由がない。


「お前ずっこいぞ!」

「む。てっきり私のために残されていたのかと思ったが」


 ピンインは本当にそう思っているようだった。

 無邪気な表情で首をかしげられて、アサヒは追及を諦める。

 カズオミにもらった銅貨をヤモリに食わせながら、ピンインに聞いた。


「それで。海竜王がなんだって?」

「うむ。奴は竜ではない」

「竜じゃない? じゃあ、幻獣の類か? それとも……」

「分からん」


 竜以外にも風竜王が飼っていたパズスのような魔物が、この世界には存在する。

 アサヒの知る限り、人間と竜と魔物や幻獣が、この世界に生きるもののすべてだった。

 しかし水竜王は首を振る。

 リヴァイアサンはそのいずれでもない、と。


「私は洪水の直後くらいに、あれに接触を試みたことがある。しかし、あれとは会話が成立しなかった。言葉を話さぬ獣、というものとも違う。獣でさえ感情があり心があるものだ。あれは心が感じられなかった」

「心が無い……?」


 謎かけのような言葉に困っていると、さらに階段をトントンと登ってくる音がして、扉が開いた。


「やあ、お揃いだね」

「風竜王?!」


 青銀の髪の少年がにこやかに部屋に入ってくる。

 少年の肩には青い小鳥がとまっていた。

 彼は風竜王アネモスだ。


「竜王が4人……あと一人そろえば全員集まるな」


 土竜王スタイラスが顎をさすりながら言う。

 アサヒは思わず、部屋にいる面々を見回した。どういうことか分からないが、本来、自分の島を離れない竜王が4人もそろって、この場所にいる。

 アネモスは土竜王の言葉に「そうだね」と頷くと、ふところから、ぐったりとしている金色の蛇を出した。


「そいつ、光竜王の相棒じゃないのか……?!」

「うん、そうみたい。ふらふら一匹で飛んでたから、拾ってきたよ」


 金色の蛇は机の上に載せられると、力ない様子でとぐろを巻いた。

 相棒の竜騎士から離れないはずの竜が、なぜ光竜王から離れてここにいるのだろう。


「ウェスペの奴、どうしたんだ?」

「それも含めて話そうか。僕らが全員ひとつところに集まって話すのは数百年ぶりじゃない?」


 竜王せいぞろいの様相に、カズオミとケリーは場違いと感じたのか席を立つ。二人は部屋の外に出て行った。空いた席にアネモスが座る。出て行ったカズオミ達が手配したのか、すぐにお茶とお菓子の追加が運ばれてきた。

 茶を飲みながら、アネモスは金色の蛇を拾った状況と、蛇から聞いた光竜王の情報について話し出した。





 光竜王はリヴァイアサンの力を得ようとして海に向かい、逆にリヴァイアサンに囚われてしまったらしい。思わぬ展開に、アサヒ達の間に沈黙が落ちた。

 そもそも……光竜王は5つの島の平和を乱す敵であった。


「良いではないか。あれがいなくなって世界は平和になることだろうよ」


 水竜王ピンインは、フンと鼻息も荒くそう言い放った。


「だいたい自業自得だ。人のものを盗んで、海竜王の力も盗もうなど、強欲にもほどがある」

「……確かにそうだが光の島の民はどうする」


 土竜王スタイラスは思慮深げに発言する。


「竜王がいなくなった島は荒れるだろう。他の島だろうが、そこには多くの人々が暮らしている。女王のみの統治で上手くいかなくなった場合、難民が我らの島に押し寄せてくるかもしれない」


 他の島のことと一概に他人事として片付けられないと、スタイラスは難しい顔をした。

 ピンインは半眼になると、腕をあげてニコニコしている青銀の髪の少年を指した。


「そんなもの、同盟国のアウリガが何とかするだろう! 風竜王、貴様が光の島も治めれば良い。話は簡単だ! ほら、領土が広がって良いだろう!」

「えー、僕、自分の島だけで手いっぱいなのに、光の島までいらないよ」


 だいたい僕だって光竜王に封じられていたのに。

 被害者じゃないか。

 と、アネモスは唇を尖らせる。


「アサヒはどう思う?」

「ふえっ?!」

「あ、アサヒって呼んでいい、炎竜王? 僕のことも気軽にアネモスって呼び捨てにしてほしいなあ」


 過去の竜王同士の付き合いがあるからか、アネモスは妙に親しい様子で声を掛けてくる。

 水竜王は土竜王と、炎竜王は風竜王と、それぞれ昔から親交があった。

 光竜王だけは孤高を保っていたのである。


「うーん」


 アサヒは腕組みした。

 光竜王には散々な目にあわされた。両親を殺したのは風の島の竜騎士ゲイルだが、おそらく指示を下したのはウェスペだ。そういう意味ではウェスペも仇と言える。

 これは放っておいても良いんじゃないか。



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