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19 お茶碗でくつろぐカエル

 さて、火の島ピクシスでアサヒはまだ、光竜王が海底に囚われたことを知らずにいた。

 先日の離宮をおそった事件の際に、幸か不幸か姉としたう巫女姫ミツキの意識は回復した。

 意識は戻ったといっても、彼女は長い間、敵国に誘拐されていた身、疲れで身体や精神が弱くなっている。惨劇に見舞われた離宮は引き払い、今度は王城の一角で休んでもらっている。


 ヒズミを風の島に残して先に帰ってきたアサヒは、竜騎士達に捕まって戦後処理の続きをさせられていた。問題をどう片付けるか判断を仰ぐ竜騎士が次々、アサヒのもとを訪れる。


「……離宮の侍女がなんで生きてるかって? 俺が回復させといたからだよ。こっそりお見舞いに花を送っておいてくれ。なに、飛行船に乗せそびれたコローナの兵士を発見した? お前ら何でもかんでも牢屋に放り込むなよ。戦意がなくて大人しいなら、誰か身元引受人を用意して保護しておいて。敵に優しすぎるって? 何かの取引に使えるかもしれないだろ。次は」

「アサヒー、お客様だよ」

「カズオミ、今忙しいからって断って」


 てっきり、また問題を持ち込んで来たかと思ったアサヒは、友人が遠慮がちに掛けてきた声に、即座に断りを入れた。

 友人のカズオミは栗色の髪を寝ぐせで暴発させて、眼鏡をかけている、温和な雰囲気の青年だ。カズオミは自己主張が強くない性格なので、断られてあっさり諦め、きびすを返しかけた。


「土竜王様が来ているんだけど……アサヒがそう言うなら」

「ちょっと待て。お茶にしよう、うん」


 アサヒは回れ右をしたカズオミの肩をつかんで引き留めた。

 ついでにリーブラの竜王が面会に来たから、今日の仕事はこれで終わりだと竜騎士達を追い払う。

 良い口実だ。


「土竜王はどこだ、カズオミ。ついでになんだけど、お茶するのに良いお店って知ってるか? アケボノには甘味処が少ないよな。温泉まんじゅうとか、作れないかな」

「温泉まんじゅう? 良く分からないけど、こっちだよ」


 アサヒ達は二階建ての茶屋へ移動した。

 風情のある古い建築で、庭には池があって魚が泳いでいる。

 カズオミの知り合いの店らしく、二階を貸し切りにできた。アサヒはカズオミと共に、土竜王スタイラスとお供についてきた竜騎士ケリーを接待することにした。


 土竜王スタイラスは筋骨隆々とした大男で、図体が大きい割に下がり気味の眉で気が弱そうな雰囲気である。頭の上で「ケロケロ」と鳴くカエルが、珍妙な空気を演出していた。カエルはスタイラスの相棒の竜が変化した姿である。

 ケリーは土の島の竜騎士で、茶髪の優男だ。細身の外見に見合わぬ攻撃的な剣の使い手で、割と喧嘩っ早い。彼の相棒の竜は小型化して肩の上に座っている。


「火の島は空が広くて落ち着かんなあ」

「リーブラの街は地下で、空が見えないもんな。しかし自分の島を離れるなんて、どうしたんだ?」


 土竜王スタイラスは趣味の工作に集中するために、めったに自分の島から出てこない。

 アサヒが不思議に思って聞くと、土竜王は腕組みした。


 頭の上からカエルが跳躍して、机の上の湯飲みにポチャンと入る。カエルはそのまま湯飲みの中で熱いお茶につかって、まるでお風呂に入るようにくつろぎ始めた。

 ぎょっとしたアサヒだが、自分の相棒が机の上に出てきたのに気付いて、ヤモリの尻尾を押さえる。相棒は銀のスプーンを狙っているらしい。備品を食べてしまったら湯飲みで風呂どころではなくマズイ。

 お茶請けに添えられたのは卵を使ったお菓子で、プリンをもっと素朴にしたような甘さ控えめの食べ物だった。砂糖が貴重な世界なので、アサヒも久しぶりにお菓子を食べたかったが、ヤモリを押さえていてそれどことではない。


「カズオミ、銅貨持ってるか、一枚くれ……それで土竜王、何の用だって?」

「地上……海の一点で妙な反応が起きていたので、気になったのだ」

「反応?」

「うん。俺はリーブラで地上を定期的に観測しているのだが、あの反応は地上が海に覆われて以来、久しぶりだ。リヴァイアサンが起きたのかもしれん」


 アサヒは海竜王リヴァイアサンについて、あまり知識を持っていない。

 過去の炎竜王も、リヴァイアサンと関わったことがなかった。


「リヴァイアサンが起きたら何かあるのか?」


 不思議に思って聞くと、なぜかスタイラスは奇妙な顔をしてアサヒを見た。


「そうか、炎竜王は知らないのか……俺と水竜王は、あれが地上を飲み込んだ洪水を起こした魔物だと考えているのだが」

「何?!」


 洪水は自然災害のようなものかと思っていたアサヒは眉をひそめた。

 いったいどんな魔物が、あんな、人類を滅ぼすような大災害を引き起こせるのだろう。

 炎竜王であるアサヒは相棒である竜王の力を知っていたが、破壊の力を持つ相棒でさえ、本気になったとしても国ひとつ滅ぼす程度がやっとだった。見渡す限り地上を海にするなんて、そんなことは竜王にはできはしない。


「ちょっと待て、海竜王リヴァイサンは、水竜王の竜みたいな、水属性の竜じゃないのか? 単に海に住んでいる水属性の竜王だと思ってたんだけど」

「それが……どうも違うようなのだ」


 腕組みする土竜王。

 その時、トントンと階段を上がる足音が聞こえて、部屋の扉がガラリと開け放された。


「海竜王については、水属性権威の私が解説してやろう!」

「ピンイン、どうしてここに」


 偉そうに胸をはった水竜王ピンインの登場にアサヒは思わず絶句した。




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