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サイエンサレンサ  作者: 銀塩 京二郎
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科学と生きる

 西暦3029年。ずっと昔に話題になった地球温暖化などは科学の力で見事解決し地球は存続を果たし、一度は滅亡するとまで言われた人類も、医学が著しく発達したおかげで滅亡を免れている。そんな時代だ。僕はこんな時代に生まれたことをとても誇りに思う。何事も便利な物が多いし、なにより平和だ。2900年辺りまでは大きな戦争こそなかったものの、各地で紛争が多発していた。ニッポンもその戦火に見舞われた国の一つだ。しかし、ここ何百年かかけて戦争撲滅に努めた歴代の各国大統領、首相により紛争はなくなった。我々は彼らに感謝しなくてはならない。そして、科学の発展もこの平和に関与していると見る。様々な会社が名乗りを上げる中、『スキマサイエンス』という会社が多大な尽力を果たしたというのは、我々一般市民にも有名な話だ。

 スキマサイエンスとは、透間透(すきまとおる)氏が創立し、今は透間神志(すきましんじ)氏が運営しているマルチ企業だ。科学関連はもちろん、医療器具や、家電、ゲーム機など様々な企業に進出している大会社だ。人間が滅ぶことがなかったのも、スキマサイエンスが開発した生命維持装置、『ライフチップ』を体内に埋め込むことで、体の劣化を抑えることに成功したからである。スキマサイエンスはこの功績を認められ、国が徴収する税金の一部を資金として受け取ることを許された。人類がもっとも感謝すべきなのはこの会社なのだ。

 しかし、まだ昔のまま残っている物もいくつかある。

 一つは学校。学びの場まで簡略化するのは違うということで、黒板の板書をノートに書き写すのは今も昔も変わらない。これは国の方針だ。なくしてほしいもの第一位だと僕は思っている。

 一つは保険。これまで同様、未成年は保険が効く。これについては残っていて良かったと思っている。

 一つは音楽や絵画といった芸術、エンターテインメント関連。いくら科学が進歩しようと、気分の上げ下げはコントロールできない。結果今も残されているというわけだ。

 あとはアミューズメントパークそれぞれだろうか。かのねずみのテーマパークは名前に東京とついているのに千葉にあるのはおかしいと言ったわけのわからん意見が通り、東京に移設されたのはあまりに有名な話なのでここでは省かせてもらう。強いて言うなら、VRが一般的になった今、実際そこに行かずとも体験できるため、テーマパークを潰して何か新しい施設を作ろう、なんて意見があったらしいが、実物も乗って欲しいといった会社側の意志を尊重し残したらしい。まぁ確かに長い歴史を持つテーマパークだ。故障寸前の機械に乗って、死ぬ間際のスリルを味わうのも一興かもしれないと思う。

 何にせよ、科学とは我々人類を救ったものであり、今や神より尊い存在なのではないかと僕は思う。


 「・・・・ってな感じで書いてみたのですが、どうですか」

 「どうですかじゃないバカ生徒。科学とは何かについて書けと言ったのにどうして狂信者みたいなこと書き始めたんだ全く・・・・」

 「いやまぁ、事実を書いたまでというか、なんというか」

 「課題のテーマを守れテーマを。補習課題ですらこれとかどうするつもりなんだ?このままじゃ留年が確定するぞ、木崎蓮(きさきれん)

 「それは勘弁してほしいっすね。どうにかなりませんか」

 「それはお前次第だアホ!」

 「ちっ、これだから学校は」


 教員室に吐き捨てた舌打ちは言葉ではなく課題として僕の手元に戻ってきた。なんてこった、ここの学校の教師は鬼しかいないのか。しかしどうしたものか。科学について書くのと、スキマサイエンスについても書かなければいけなくなってしまった。スキマサイエンスは有名な会社だから、起こった出来事を書くだけじゃつまらんだろう。僕は家に向かいながら、何かないか検索をかけることにした。手首に着けているバンドに触れると、虚空に画面が映し出される。ちなみにこのバンドはスキマサイエンスが開発した、リストコンピュータ。略して『リスコン』だ。一人一つ必ず配給されるアイテムの一つだ。そのリスコンを開き、検索欄にこう入力する。


 「スキマサイエンス 面白い話」


 そうすると、検索結果がずらっと出てくる。なるほど、いろいろあるな。上から下まですーっと見ていくと、いくつか目に留まる記事があった。

 ‘透間氏がメディアに顔を出さない理由’や‘スキマサイエンス最新ゲーム機の情報手にいれたった’みたいな内容のものだ。その中でも特に目を惹いたのは、この記事だった。


 「透間氏、今日か明日に重大発表行う?なんだそれ」


 この重大発表というのに食いつかないわけにはわかないだろう。ゲーム機とはまた別なのだろうか。気になる、とても気になる。

 僕が画面に食いついていると、突然肩を結構強い力で叩かれ、びっくりして振り向くとそこには馴染みの顔がいた。


 「おっす蓮!何見てんだ?」

 「いや、ちょっと補習課題が出ててね。それの調べものさ。ちょっと夢中になっちゃって」

 「ほーん、だから呼んでも返事しなかったのね」


 こいつは吉良唯朔(きらいさく)といって、僕の幼馴染の一人だ。なぜか僕の調べているものに興味津々ようで、画面共有しろとうるさいのだが、そんなに好奇心旺盛な方だっただろうか。仕方なく画面を唯朔の方にも映してやり、こんな記事があったんだと説明してやった。すると彼は「おお!」と声をあげて重大発表に興味を持ったようだ。僕は「どう思う?」と聞くが、「さぁ、まだわからんだろうね」と言っている。それもそうだろうが、予想の一つや二つしてみたらどうなんだとつい言いたくなってしまった。

 暫く二人で記事を漁っていると、唯朔がこんな提案をしてきた。


 「なぁ蓮よぉ。今日は金曜日で、明日は土曜日だろ?せっかくだし出かけないか?」


 彼の方から誘うなんて珍しい。普段は僕が誘うのに。

 唯朔はどうやらシブヤに行きたいようだ。特に買いたいものはないらしく、ただ街をブラブラしたいのだそうだ。まぁ、シブヤなら近い上に交通費も割と安く済むし、歩くだけなら行ってやってもいいだろう。僕は彼に快く返事をした。

 さて、今朝はなんとも晴天で、お出かけ日和というやつだった。季節は春中旬くらいだろうか。ちょうどいい気温で過ごしやすい。僕がシブヤに行くとなると、まずはバスに乗って駅まで行かなければならない。唯朔と合流するのはこのバス停だ。ベンチに座って待っているが、この気象だ。なかなか眠くなる。うとうとし始めて間もないくらいに、見事に眠りに落ちた。

 夢心地な僕の意識を、ありえないくらい元気に満ちた声が叩き起こす。頭の中に響く声がだんだんとはっきりしてくる。


 「・・・・い!・・きろ!・・・・・・おい!起きろ蓮!!!!」

 「うん?なんだ一体。やかましいぞ」

 「やかましいじゃない!バス来るぞ!」

 「バス?なんのことだ?」


 無理やり乗せられたバスの中で、寝ぼけた僕の目を覚ますべく唯朔が懸命に説明してくれた。そういえばそうだ。バス停にいた理由すら忘れてしまっていた。今日は唯朔とシブヤに行く約束をしていたのだ。30分ほどバスに揺られ、さらにそこから15分ほど電車に揺られればシブヤに到着だ。リスコンの時刻を見ると、9時45分と映っていた。まぁ、ぶらつくには良い時間なのではないだろうか。

 電車から降りると、さっそくシブヤ100に行きたいと唯朔が言い出す。ちょっと見たいものがあるという。ぜひ僕にもと言って、腕を強引に引っ張って行こうとした。


 「わ、わかった。行くよ、行くから腕を放してくれ」

 「おう、すまんな」


 謝っている彼の目はなんだか僕を見ていないような気がした。僕をすり抜けて、ずっと奥の脳みその中身を覗かれているような、そんな感じだ。

 シブヤ100の前に来ると、なぜかそこに立ち止り、ちょっと待っててくれと言ってじっと100の街頭ビジョンに投影されている映像を見ている。僕はその行為に怪しさと少しの興味を覚え、一緒にじっと見つめていた。すると周りを歩いていた人々が、僕らのことを見て、「何か始まるの?」「どうだろ、待ってみる?」なんて言いながら立ち止り、あっという間に人だかりができた。


 「込んできたなぁ」


 そうつい口に出したと同時に、ビジョンに流れていた化粧品のCMが止まり、一人の人間の姿が映し出される。誰だろう。有名人か何かか?。ここに誘ったのは唯朔だし、聞けば分かるか。


 「おい、唯朔。・・・・唯朔よ。・・・・・・唯朔?」


 横を見ると、彼の姿はなかった。おかしいな。さっきまでそこにいたというのに。一体どこへいったんだ。僕がキョロキョロ辺りを見回していると、映像の人物が話を始めた。人だかりは話を止め、何を話すのだろうと耳を傾けている。


 「こんにちは人類諸君。私の名前は透間神志、スキマサイエンスの社長だ。今日は皆さんに重大な発表がある。今、全国の人々に必ず無料で配られることになっている『リスコン』だが、その大型アップデートをこの場で実施しようと思う。その名も、『TCSプロジェクト』だ。科学の力によって人類を、世界を統合する。それが今後の、私たちスキマサイエンスの目標だ。その目標に、諸君らも参加していただきたい!さぁ、進化を遂げよう人類よ!その左腕を空に掲げるのだ!」


 その声と共に、周りの人々が左腕を掲げ始める。最初は数人、そこから十数人、百人という具合に、続々と手が上がっていく。今ここに居る人間は全員手を上げただろう。僕もふと気が付くを左腕が空に伸びていた。その時の空は、今朝の晴天とは打って変わり、薄暗かったように思う。

 次の瞬間、全身に電流のようなものが流れ、思わず声を上げてしまうほどの痛みを感じた。何やら首元のほうがひりひりと痛んでいる。何をされたんだ僕は。いや、僕たちは。よくみると前方の方に演説台が出来上がっていた。そこに立っていたのは紛れもない僕の幼馴染、吉良唯朔だったのだ。そして唯朔はこう叫ぶ。


 「このプロジェクトこそ!世界を、人類を救う最後の手段なのだ!皆で叫べ!TCS!TCS!」


 それは連鎖するように皆に広がって行き、一人、また一人と声にだしていく。

 僕も、唯朔も、一斉に。


 「「「T!C!S!」」」

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