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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と非現実的存在
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とらわれ姫とヤンデレ王子とヤンデレ監査

軟禁生活1日目。

弘樹は学校を休んだようだ。私ももちろん仕事を休んでいる(ちなみに無断欠勤ではなく、弘樹がお母さんにお姉ちゃんが疲労がたまって動けなくなっているからと伝えて会社にも連絡をしたらしい。)。

ぼやぼやしているイメージのある弘樹からしたら、かなり上出来な軟禁だ。おそらくあのカフェラテにいれられていた薬を考えても、今日衝動的に行ったのではなく、数日計画を練ってのものだろう。

軟禁としては、及第点をあげちゃおう。

惜しいのは、もっとゆゆの身体を拘束しなかったことかな?

だって、大好きなお姉ちゃんを自分のものにしようというのなら、身体に自分を刻み込むような行為を伴うべきだった。せっかく日ごろから、パジャマに至るまで正常な高校生の男子なんだったら、性的に興奮する服装を心がけているのだから、今、私のことを組み敷いて


「お姉ちゃんを俺だけのものにしたいんだ…だからいうこと聞いて。」


と強引に迫ってくるくらいの展開があっても良かった。というか恋愛ゲームをやってきたはずの弘樹なのになぜそこに考えが至らなかったのかが実におしい。

姉を眠らせて、自分の部屋で軟禁するなんてこんな美味しいシチュエーションを作れたのにつくづく詰めが甘い…でも、その詰めの甘さが弘樹の可愛さなんだと思う。

牙はあるのに、噛みつけない子どものライオンみたい。


さて、そんな弘樹さんはここからどんな愛の形を見せてくれるんだろう。

そんな期待をしていたら、インターホンが鳴る音がした。

両親は仕事に出ているから、弘樹が部屋から出ていく。

きっと適当に断って帰ってくるのだろうと思ったら、階段をのぼってくる足音は二つだった。


「姉ちゃん、相沢さん、お見舞いに来てくれたんだよ。」


「…こんにちは、お姉さん。」


「…こんにちは…相沢さん。」


「どうしたの二人とも、なんかすごく硬いよ?とりあえず座りなって。」


これは、なんだろう…フライパンでゆで卵を作ろうとしている感じ…いや、この例え、意味が分からない。

でもこんな例えが出てきてしまうくらいに私が事態を飲み込めていないことは確かだった。

弘樹だけが答えを知っているのか、私たちを誘導していく。

部屋に入っては来たものの、二人はそろってなにかを話し出すわけでもなく、よくわからない沈黙が続いている。


「…お姉さん、具合…よくないってお聞きしたんです。だから心配になって様子を見に…。」


「…ありがとう、でも大丈夫なのよ、少し疲れてはいたけれど元気だから、そんなに気を使わなくても…」


お互いになんだか歯切れが悪い。

「軟禁」されているなんてことは知らないんだろうし、私から言っていいこととも思えない。

助けを求める気もないし、助けに来たという感じでもない。

なんだろう、どうして私たちはこの部屋に集まっているのだろう。

弘樹の顔を窺ってみるが、そこに焦りの色は見えず、あくまで平常を保っていた。

もし仮に、相沢みどりの来訪が完璧なイレギュラーだったとしたら、この子はここまでのポーカーフェイスを保てるわけがない。そういう子じゃないことは私が一番よく知っているから。

だとしたらこの余裕は何だろう。

…弘樹自身が、この展開を望んだと考えるしかない。


「相沢さんはさ、働きだした姉ちゃんのことかっこいいって憧れていたんだよね。

でもさ、こんなに疲れている姉ちゃん見て、それでも働きに行ってほしいって思う?

…俺はさ、姉ちゃんには自由に生きてほしいと思うんだけど、でも同時に無理に大人になってほしいとは思ってないんだ…俺や相沢さんからどんどん離れていくなんて…違うと思わない?」


いつになく饒舌な弘樹を前にして私たち二人は固まっていた。

なにか、なにか、ナニか…弘樹の中で何かが大きく変化したのだ。


「えっと…私は、お姉さんが変わっていくんなら…私もそれに追いつけるようにがんばりたいって思うよ。どんなとこにいってもお姉さんは私の憧れで、そうならなきゃいけない存在だから…。」


相沢みどりも変わった。弘樹に近寄る邪魔な存在から、私のことを神か何かのように信仰している嫌いが見られて、いずれはなんとかしようと考えていた。かりに彼女が完璧な私との同調を望むとしたら、それは春樹との関係に大きくかかわるからだ。


「でもさ、だったらなおさら、姉ちゃんのことをよく見ていたいと思わない?

どんな瞬間も、表情も見逃してはいけないと…思うよね?

だから、俺はここで姉ちゃんのすべてを見ることにしたんだ。」


「…それって…?」


「相沢さんが望むなら、君にも姉ちゃんの生活を見る権利をあげようと思った。君は姉ちゃんを知りたい、姉ちゃんみたいになるにはそれが必要条件のはずだ。

ただし、このことを誰にも言ってはいけない。そして俺に協力してほしい。」


それが弘樹のだした提案だった。

かつて私がこの関係を強固にするためにあずさをよんだように、弘樹はこの軟禁生活を維持するための協力者を求めた。


これは勝ち目の分かった賭け。


相沢みどりは、大きく瞳を見開き、息を止めたあと、大きく、しっかりと頷いた。


「ありがとう。」


弘樹が頬笑む。

私は歪んだ二人の愛情を一身にうけ、今後の生活に甘ったるい不安を覚えていた。


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