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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と非現実的存在
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三者ヤンデレ

三人寄れば文殊の知恵ということわざがあるが、その三人がそれぞれにタイプの違うヤンデレだったとしたらどうなるのだろうか。

しかも、その三人が一つの部屋に集まったとしたら。


弘樹を愛するあまりにAIとしての自分を捨て、弘樹の姉、弘美の身体を乗っ取り、今ではただただ弟との幸せな未来のために他者を「排除」し邁進している「柊ゆゆ」。

ゆゆに監禁されそこでの体験から社会復帰を果たしたが、今は姉からの無心の愛によって自分は救われたと思い込み、すべてを姉に「依存」しきった結果、自分の知らない姉がいることに強い恐怖心と捨てられるのではないかという不安を抱き、ついに姉を軟禁するようになった「金野弘樹」。

自分を確立できないまま、揺れる心で姉弟と出逢い、淡い恋心でうかつに触れたことにより、壊れた愛情の深さと美しさを知り、弘美と自分を「同一」にすることで自己を確立できると信じている「相沢みどり」。


それぞれにベクトルの違う病みをかかえながら、病みをかかえるがために呼び寄せあってしまった三人が関わることによって歯車はどんどんと加速していく。

それは、誰も予想しない方向へと、そして誰も知らない物語を紡ぎだしていく。



家に来いと言われて、そのまま行くのはあまりにも無防備で無策だと、相沢みどりは考えた。

恐らく、弘樹はナニかしらを隠している。そしてその隠されているものが何かがわからない限り、安易に話に乗るべきではない。一緒に勉強をするようになって、弘樹が姉ほどではないにしろ、さすがは姉弟だけはあってそこそこ頭の回転が速いことはよくわかっていた。

おそらくは、自分がお姉さまに対して抱えている感情もどこかで察しているのだろう。

…だからこそ、なおさらだ。

お姉さまを手に入れたい、お姉さまになりたいと思うのならば、常に弘樹の上をいく思考能力をもたなくてはならない。こんなところで、手放しに頼られたことを喜んで転がり込むような馬鹿な真似だけはしてはいけないと心に言い聞かせる。弘樹を超える思考。弘樹の手の内を読んだうえでの行動こそが今、求められている。

用心に用心を重ねなくてはならない。


…藪蛇かもしれないけれど、つつかなければ何も変わらない…。



家に来いと言った。さらにそこには相沢みどりが尊敬してやまない姉ちゃんがいると言った。ここまでして彼女が来ないはずがないと金野弘樹は考えた。けれど、相沢みどりがそこにある意図をどうとるかは50パーセントの確率で読み切れない。自分に恋心を抱いているようなそぶりもあるが、それ以上に姉に対しての懐き方、信仰心がどこかおかしい。初めは自分と同じように姉に依存しているのかとも思ったが、彼女の中には恐怖心に近いなにかも見え隠れしている。

もしかしたら、彼女は自分と同じように、姉に対して特別なにかを抱いているのかもしれない…そう考えざる負えなかった。

だから、お茶菓子をだして歓迎するような展開にはならないだろうと弘樹も予想している。

それでも、ここに呼ぶ意味があると思ったから、あの返信をした。

彼女がこの状態をどう判断するのかが、この計画の大きな分かれ道だ。


…だが、嘘をつくなら一人よりは二人の方がいい…。



愛されている、それも正常ではない方法で、柊ゆゆはその優越感に浸りつつ、今後の行動について思考を巡らせていた。彼をここまで追い詰め、変化させ、歪ませたのは明らかに自分が原因だ。

彼女は弘樹が自分なしでは生きられなくなることを望んでいた。そうした意味では、この展開はまさしく臨んだ未来ともいえるのかもしれない。それなのに、今の彼女からしたら、なぜか釈然としない思いが渦巻いていた。

本当にこのまま、二人きりの閉じた世界で生きていってしまっていいのだろうかとゆゆは考える。

初めは、二人きりの世界以上に幸せなものはないと信じ込んでいたが、あずさやみどりそれに会社の人たちと接点が増えるたびに、傍観者のいない幸せの物足りなさを感じ始めていた。

悪く言えば、弘樹以外の人間から認められたいという欲求が生じたのだ。なぜなら、周囲の人たちが自分への評価を高めるということは、自分の価値があがるということであり、価値のある人間の方が弘樹にふさわしく、より弘樹の欲求を満たすことができる。

ゆゆの中身は何も変化してはいない。変わりなくすべては「弘樹」が中心で回ってはいるが、そこに他人からの評価というものが加わったのだ。

柊ゆゆは「金野弘美」として社会的価値を手に入れたい、そのことによってもっともっと弘樹が自分に依存してくれる。自分なしでは生きていけなくなってくれると微笑を浮かべている。


…このいつか見た空間で、甘えているだけじゃ、ゆゆのシアワセは手に入らない…。-


三者三様の思いは渦巻いて、窒息しそうな空間を生み出しながら、それでも止まることなく回り続ける。それが動き出してしまった歯車に課せられた役目だから。

一度動き出した歯車は、簡単に止まることを許されない。

止まるのは、おのれの役目を終えたときか…完璧に壊れてしまった時だけだから…。

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