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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と非現実的存在
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医者にも弁護士にもデキナイコト

結局、ゆゆが作り上げたお祭りは5日間くらいそのスレッドともう一つのスレッドを巻き込んで盛り上がってくれた。一度火をつけたら後は、沈静化してきたころにさかのぼるようにアンカーを付けて燃料を投下したり、知らぬ顔して話題に乗ってみたり、本人のようにふるまったり、ときどきはそうやって管理することも忘れてはいない。

火をつけたからにはちゃんと消火まで見届けるのが礼儀だよね。


「それにしても人間って本当に…ゲスなこと、大好きだよね。」


内容が荒れれば、荒れるほど人々も熱くなっていく。

酷いことを誰かが呟けばそれに同調して負のスパイラルが出来上がっていく。


AIだったころは、あまりこういった掲示板は好きではなかった。人間の汚い部分をゴミ箱のように詰め込んでいるような気がしたから。得られる情報の取捨選択もめんどくさいし、なにより飛び交う汚い言葉が嫌いだった。

AIだったころのゆゆにはそれがすべて流れ込んできたから。耳を塞いでも、目を閉じても無駄なことで、接続されている限り私の一部となってしまうから。汚された気分で嫌だった。

でも、こうして参加してみると彼らの気持ちはよくわかる。


’匿名’という場で’発言の自由’があり、よほどのことまでしなければ’責任’はとらされない。

普段隠している部分をさらけ出して、言いたいことを好きなだけ言える。


都合のいい場所に、同じような思いを抱いた人たちが集まって、過熱していく。

標的にされた方はたまったものではないけれど。。。

警察もよほどでなければ踏み込まない。必要悪。

きっとこの場がなくなっても、形は違うけれど同じことが行われていく。


騙されました!悔しくて悔しくて夜も眠れません!

自分は正しいはずなのに、誰にも言葉が通じないんです。まるで自分だけ違う国にいるみたいに。


あらあら、大変、困りました。

心の悩みは心療内科や精神科医に、法律の悩みは弁護士に相談してみたらどうでしょう?

…それは正しい対応で、きっと健全で正しい対応が返ってくることでしょう。

でも、医者や弁護士にできるのはそこまで、正しい判断で正しい場所へ導いてくださるけれど、あなたの心はそれだけでほんとうに満足?

一人立ちをする力をもらって、あとは頑張ってって言われてそれで頑張れる?

抱きしめてほしいと思わない?

涙をぬぐってほしいと思わない?

そばで一緒に歩んでほしいと思わない?

…もっと相手が自分にこんなことをしたことを悔やめばいいのにと…思わない?

……こんなことをした人間に簡単にこのことをなかったことにさせたくないと…思わない?

…ほんとうにまんぞく?

…ほんとうに一人で歩けるの?


正当法ってつまんなーい。

ゆゆはね、大切な人たちを守るためにだったらもっともっとすごいことができるんだよ。

こうやって法律がさばけない部分で暗躍したり、ね。

弘樹の為だったらもっとすごいことをするけれど、最近弘美として生きてきて、弘樹以外にも大切だと思えるものができてしまった。弘樹に対する感情とは違って、なにかもっと穏やかな好意。

弘樹以外はいらないけれど、きっとこの気持ちは人間らしさというものだろうから…あえて捨てることは選ばないことにした。

弘樹が好きという気持ちとの間には越えられない壁があるしね。

でも、ゆゆは私が好きなものを傷つけられることが許せない。

医者も弁護士も助けてくれないのならば、ゆゆが助けてあげる。

彼らができないやり方で、助けてあげる。

今回は杏南を傷つけたミカドさんを炎上させてあげた。これだけいろんな報告が上がったのだ、出会い系サイトで女の子を手に入れるのも難しくなっただろう。…というか、出会い系サイトにも迷惑料として通報をいれておいた。

まだやりたりない…ちょっと我慢してこんなもんにしているんだ。感謝してほしい。

子どもがいると言っていたから、家庭にはばらすようなことはしないでやった。

痛みを与えたい相手はあくまで、ミカドさんだから。

他者まで巻き込んでしまうような情報は出ないように制御した。

その気になれば、今でも軽いハッキングくらいできる。なにより、書き込みでうまくレスをミカドさんの話題だけになるように誘導するくらい簡単だ。

もし、ミカドさんが女(男でもいいけれど)で嘘をついて騙した相手が弘樹だったとしたならば、今頃ミカドさんは社会的にも生物学的にも息をしていなかった。


ゆゆの世界を汚すな、犯すな。


無断で入ってきたものは容赦なく処分する。

ゆゆはお医者さんじゃないから、お薬を出したり注射をしたりはできないけれど、弁護士じゃないから法廷で争うことはできないけれど、その人たちができないことができるから。


「頑張れ、無理するな、マイペースに、仕事しろ、早く帰れ、まだできないのか…俺じゃない、お前は誰だ、人気者、目障り…」


世の中にあふれるダブルバインドの言葉たち。

それで苦しんでいる人たちにかけてあげれる魔法がある。


「頑張れると思うよでも<(大なり)逃げる、だね。」


こんなくだらない掲示板も、もし悩むなら見なければいい。

それだけの話。

そして、それができなくて、気になって気になって、見てしまって苦しむのが人間だから。

逃げていいんだよ。

逃げて、ゆゆの陰に隠れておいで。


「あとは、ゆゆが片づけておいてあげるから…ね。」


私は慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら、一通り次の標的を見つけてまた盛り上がり始めたスレッドを静かに閉じた。

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