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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と非現実的存在
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ブラッティ・バレンタイン

弘美の弟弘樹は可愛い。

つまり今、弘美となったゆゆの弟、弘樹は世界一といっていいほどかわいい。

そして、ゆゆは確信している。現実世界に戻ってきて、ゆゆとの生活を経て順調に成長した弘樹は、人づきあいがうまくなっただけではなく、女の子の母性本能をくすぐる天才であると!

正直、ゆゆは困っている。人間になったのはいいけれども、人間というのは想像以上に制約の多い生き物だったから。

弘樹の生活を守って、愛してあげなくてはならないのに、宏美としての生活もこなさなくてはならない。

以前みたいに四六時中弘樹を見つめていることが・・・できない。

美味しそうにご飯を食べる弘樹を見つめておなか一杯になっていたら、貧血を起こして倒れたこともあった。この時は疾病利得というやつで弘樹が看病してくれたので結果的にOKだったけれど、一晩中寝顔を見ていたくても自分も寝なくてはならないというなんとももどかしい機能がついてしまった。

とにかく、弘樹との時間を長くしたくて、私は「弘美」としての立場を有効活用することにした。

姉弟だけあって、弘美も顔立ちは整っている。ただし服装は地味だ。

なのでゆゆはAI時代に学んだ知識を総動員して、綺麗なお姉さん系のファッションを取り入れ、このポテンシャルを最大限に活かすことに成功したのだ。今では、街でも大学でもよくナンパされるようになったけど、弘樹以外はいらないから基本的に無視。

見た目だけじゃだめ。

もう一つの武器として心理学部という立場を利用しつつAI時代に集めまくった様々な知識を駆使して、悩める高校生たちにアドバイスをするカリスマとしての立場をめでたく樹立した。

これで、弘樹も私を話題として仲間に入れてもらいやすくなるし、いじめとか悪い虫とかをチェックできるから一石二鳥!

たまに嫌になるような相談もあるけれど、すべては弘樹の為と思えば、笑顔で対応できる。


でも、今日ついに危惧していた問題が起こった。


「姉ちゃんにチョコレートの作り方を教えてほしいんだって。」


弘樹の帰りが遅いから昇降口で待っていた時に、階段という性質上弘樹が女の子と話している声が聞こえてきたけど、内容はわからなかったから探ろうと思っていたら・・・自分から話してくれた。

弘樹はいい子、お姉ちゃんに隠し事なんてしないもんね。

でも、私にチョコレートの作り方を習いたい?私に?

それは本当なのかな?

確かにゆゆは、毎日弘樹のお弁当を作ったり、他の女の子の入る余地がないように完璧にしておいたのだけど、まさかそれが裏目に出るなんて思わなかった。


しかも、弘樹はその子を可愛いと言った。

可愛い・・・可愛い、可愛い可愛い!!

ゆゆはお姉ちゃんになってから「姉ちゃん、綺麗だねってみんな言ってるよ」って言われることはあっても「可愛い」って言われてことはないのに!!

嫉妬ともどかしさで頭が沸騰してしまいそうだ。

でも、いけない。高校生のカリスマ的お姉ちゃんでいなくてはならないのだ。

落ち着いて、大人の対応をしながら・・・排除しなくちゃ。


「姉ちゃん、今日は何買うの?」


弘樹が私を振り返る。

お買い物のときは、はぐれないように二人で手を繋ぐ。初めは恥ずかしがっていたけれど、今そんな感じのアニメが始まってくれたおかげでうまくまるめこむことができた。


「そうね、今日は・・・そのお友達と作るチョコレートの材料を買っておこうか。」


「姉ちゃんすごいよな、みんなの相談乗ってくれてさ・・・でも、なんか嫌なこととかあったら俺に気にせず断っていいんだからな。」


「うふふふ、弘樹は本当に良い子。」


お姉ちゃんのことを心配してくれている姿が可愛くて仕方がない。

今すぐ抱きしめてあげたいけれど、今はそれどころじゃないから・・・家で思いっきり愛でよう。

私はチョコレートを細かくするための道具を次々と手に取る。

そうそう、桐なんかも穴をあけるには役立つし、やすりもチョコを細かく削ぐには役立つ。


「チョコレートって作るのにこんなものが必要なんだ。」


弘樹が驚いて、目を見開いている。


「そうだよ、美味しいチョコレートを作るには・・・細かい作業が必要なんだよ、何事にも、ね。」


「へぇ、なんかわかんないけど女の子って大変だね。」


「好きな人を思って作るのは大変じゃなくてシアワセなことなんだよ、弘樹。」


そう、これからくる子にも教えてあげなくちゃいけない。

チョコレートを作るうえで大切なこと。


「・・・血を流してでも作るくらいの覚悟がなきゃ・・・弘樹に対してのチョコレートにはならないよ。」


「?姉ちゃん、呼んだ?」


すごく小さくつぶやいたのにいちいち過敏に反応する弘樹、本当に可愛い。

・・・チョコレートにして食べてしまいたいくらい。


でも、削ぐのは違うもの。

砕くのは、弘樹へ向けての邪魔な恋心。

溶かすのは、甘い憧れの心。

固めるのは、失恋という形で・・・絶望をトッピングして二度と弘樹に近寄れなくしてあげる。


「チョコレート作り、楽しみね。」


あぁ、本当にタノシミ。

弘樹に近寄ろうとしたことの意味を、身体に教え込むのが。


もともとバレンタインは愛する者たちを隠れて結婚させていたキリスト教司祭であるバレンティヌスが処刑された日。

血塗られた日には血塗られた時と思いを捧げなきゃ。

チョコレートみたいにあまいあまい思いができると思ったら、オオマチガイダヨ、ネ。


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