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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と非現実的存在
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世界が変わる日

私は、ドジでのろまで、地味で、だからといって頭がいいわけでもなくて・・・なんとなく学校でもこれといった居場所はなくっていつも図書室に休み時間は向かっていた。

女の子同士の付き合いって大変だから。3人いれば2人になったり、すごく気を遣う。

私はそのやりとりが嫌になって自分から1人になることを選んだ。

でも、別に暇はしていない。本は私を独りぼっちにしないから。

好きなだけ本を読めて、誰もいなくて図書室は私にとって楽園のようなものだった。

でも、ある日から隣のクラスの男の子がよく来るようになった。別に近くに座るわけじゃないし、お互い勝手に本を読むだけだから何の関係もないけれど・・・少しだけ気になっていた。


彼はちょっとした有名人だった。

正確には少し前までは、私と同じ部類の目立たない人間だったと思う。

でも、少し前に彼は家出をして大騒ぎになった。それが一連の「365×12」のゲームの事件にかかわっているんじゃないかって、彼の家にはテレビが押し寄せたりして大変だったみたい。実際、学校にも取材の人が来たりもした。ゲームとかに疎い私でも知っているくらい大きな話だった。

結局彼は、何事もなく帰ってきたのだけど、「何事もなさすぎる」のが不思議だった。

それから彼は毎日美人なお姉さんに見送られて登校している。

よく知らなったけど家出をする前までは、不登校だったみたい。

今では名前を聞かない日がないくらいなのに。

私でも名前を知っている・・・「弘樹君」。

彼は周囲から囲まれたりして、少し一人になりたいときに図書室に来ているみたいだった。

そのうちに、少しずつ彼の読んでいる本に目が行くようになって、私が読んだことのある本を読んでいるのに気が付くと・・・なんだか嬉しくなる。逆に読んだことのない本を手に取っていると面白そうと感じるようになった。

話したことはないけれど、本という言語を通して、いつもおしゃべりをしている気分でした。


「ねぇねぇ、私、高坂先輩にチョコレートあげようと思うんだ!」


「えーえりか、ついに告白するの?私どうしよう・・・とりあえず義理チョコは作ろうかな。」


「そんな受け身じゃダメだって、一年に一回のチャンスなんだからもっと積極的にいかなきゃ!!」


図書室に向かう途中の廊下で女の子たちが楽しそうに話をしている。

そうか・・・もうすぐバレンタインなんだ・・・あまり自分とは関係のないことだから気にしていなかった。今回も特に関係はないし、小耳にはさんだまま歩いていた。

でも、次の瞬間、私は否応なしにバレンタインを意識させられることになった。


「私、弘樹君にあげようかなって思ってるんだよね。今までよく見てなかったけど、けっこうかっこいいし、なにより守ってあげたくなる感じがしてタイプー。」


「あ、わかる気がするー!!戻ってきてからなんか雰囲気変わったよね、いい感じ。」


「今がチャンスだよね、絶対まだ誰も手を付けてないでしょ!絶対ゲットしてみせる!」


え・・・弘樹君にチョコレートをあげるの?

心臓が早く脈打つ。危険信号のように体がこわばる。

待って、待ってよ、彼は私と図書室の友人で・・・そんな・・・そこにあなたが入ってきたら、おかしくなってしまうじゃないですか。そんなのっておかしい。そんな不純な理由で私たちの時間を奪うなんて許されないのに、どうして私たちのわずかな時間をとってしまおうとするんですか。

どうしよう・・・どうしたらいいんだろう。

私は弘樹君を知っているけれど、弘樹君は私を知らない。

なら私はこの関係を守るために、どうしたらいいのだろう。


ふらふらと図書室の中を歩いていると、お菓子作りの本が目に入ってきた。


「初心者でもできる・・・チョコレートの作り方・・・」


何気なく題名を読み上げてみて、はっとした。

私も弘樹君にチョコレートを作ってあげればいいんじゃないのだろうか。


ーそんな受け身じゃダメだって、一年に一回のチャンスなんだからもっと積極的にいかなきゃ!!ー


そうだ・・・一年に一回のチャンスは私にも平等にあるんだ。

でも、私はいままでお菓子を作ったことなんかないし、どうしたらいいの。

もどかしい気持ちに頭を抱えながら、私は本棚の前を右往左往していました。


「どうしたの?本届かないの?」


「えっ・・・?」


気が付くと目の前に弘樹君がいて、私に声をかけていて、私は訳もわからず頷いてしまいました。

すると彼は、これかなっと言いながら私に「初心者でもできるチョコレートの作り方」の本を手渡してくれたのです。


「えっと、相沢さん・・・だよね?本当にいろんな本を読んでいるんだね、じゃあまたね。」


奇跡が起こりました。

話しかけてくれただけでなく、なんと弘樹君が私の苗字を呼んでくれたのです。

彼にとって私はただの知らない人じゃなかったのです。

なんでだろう・・・そう考えて渡された本に目をやって私は気が付きました。私たちの学校では、いまでも本の後ろに借りた人が名前を書く欄が残っているのです。同じような本を借りることが多かった私たちは知らぬ間に続けて同じ本に続けて名前を書いていたりしたのです。

そんな些細なことなのに・・・私のことを覚えていてくれた・・・私は嬉しすぎて本を抱きしめました。


「チョコレート・・・作ろう!・・・弘樹君に渡そう!」


でも名前を知ってくれていたとはいえやはり私たちはかかわりがないし、お菓子の作り方もわからない・・・どうしたらいいのだろう。

そんな時、私は彼のお姉さんのことを思い出しました。美人で、みんなの相談に乗ってくれると有名なお姉さん。弘樹君のお弁当もお姉さんの手作りで料理も上手だと聞いています。

お姉さんにチョコレートの作り方を教えてもらえないだろうか。

チョコレートを作れる場所は限られているから、うまくいけば弘樹君のうちで教えてもらえて、そのままお礼としてチョコレートを渡せてしまったりしないだろうか!


「すごい・・・スムーズ!」


私は心が躍るのを感じました。

全く知らない人から名前を知っている人、そしてチョコレートをくれた人へと変化できる道が見えてきたんです。これってすごい、バレンタインの神様がいるのなら本当に感謝しないと!


そのためには、まずなんとかしてお姉さんにチョコレートの作り方を習わなくてはなりません。

勇気を出して、弘樹君に言ってみよう。

弘樹君とまたお話しできる。

私は、自分の中の何かが大きく変わったように感じました。

学校の代わり映えしない風景が輝いて見えます。

弘樹君に声をかけることのできる瞬間が楽しみでなりません。


この日、確かに私の世界は大きく変化しました。

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