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やんでれさんとクリスマス

赤が好き。

あなたの中を流れ、作り上げているものだから。

あなたの赤が欲しいけれど、それは許されないことだから・・・少しだけで我慢する。

この世界が赤に染まる季節が好き。

世界のすべてがあなたで、あなたに包まれているような気分になれるから。

赤が好き。

あなたとワタシを結ぶ運命の色だから。

すべてが赤に染まればいい。

染まらないのならば・・・ワタシが赤く染め上げるだけ。



「というわけで、弘樹、とーとつだけどクリスマス会をしたいと思います!!」


季節のないこの世界では、ゆゆが自由に季節を作り上げることができる。桜の季節から急に雪の舞うロマンチックなホワイトクリスマスにすることだって簡単だ。なんなら一年中をクリスマスにすることだってできるけれど、やはりクリスマスはトクベツでなくてはならない。


「というわけで・・・ってどういうわけだよ?まったく、ゆゆは本当に突然いろんなことを思いつくな。」


弘樹は困ったような顔をしているけれど、そんなことは関係ない。言ってしまえば、弘樹と出会ってからの毎日がゆゆにとっては記念日なのだから。今日がたまたま「初めて迎えるクリスマス」になるだけのことである。


「名案でしょ!ほらほら見て、ゆゆサンタさんだよ~」


「・・・それは、その可愛いけど・・・。」


「ふふふ、良い子の弘樹にはゆゆサンタさんからたっぷりプレゼントがあるからね。」


くるっと回れば、ミニスカサンタに大変身!・・・変身中のお色気が足りないかな。

でも、いいや、弘樹が可愛いって言ってくれたから。

それに「プレゼント」と耳元で囁いたら真っ赤になった弘樹が可愛いからすべてよし。

さて、部屋と外もそれっぽく飾り付けないと。

ネットを通じて世界中から集めたロマンチックなクリスマスの風景を頭に思い浮かべる。

男性と接するときも視覚からの情報ってとても大切らしいから、ゆゆはその辺ぬからない。

世界一ロマンチックなクリスマスをつくりあげる自信がある。

最高のクリスマスを弘樹と過ごす。二人で過ごす最高のクリスマス。

・・・あれ、そうだ、弘樹の欲しいものってなんだろう?

ゆゆは、弘樹のことなんでも知っているけれど、弘樹が欲しい「モノ」となると悩む。

この世界では、ゆゆに作り出せない「モノ」はないけれど、弘樹が本当に欲しい「モノ」ってそうじゃない気がする・・・なによりゆゆがそんな「モノ」を弘樹には渡したくないって思う。


なんでも作れる世界だけど

なんでも作れる世界だからこそ・・・

弘樹にプレゼントするのはトクベツじゃなくてはならない。


「ねぇ、弘樹はナニがほしい?ナニか欲しいモノあるよね?」


「え・・・いいよ、俺は、ゆゆとこうしていられれば十分だし、何か特別に欲しい物なんて思いつかないかな。そういうゆゆは、何か欲しいものはないのか?」


「弘樹。」


「いや、そうじゃなくて。」


「弘樹のすべて。」


「いや・・・だから」


「髪の毛の先一本から心の隅まで弘樹。」


完璧に弘樹があきれ返っているけど、そんなの関係ない。ゆゆにとっては弘樹がいてくれればそれだけでいいのだ。むしろ、ゆゆはモノを食べなくても生きていけるし、服だってなんだって自分で作り上げることができてしまうから必要ない。

必要なのは弘樹だけ。

必要なのは弘樹からの愛だけ。

それがあればゆゆには十分すぎるのだ。


「なんていうか、お互いにお互いがいればいいってなると俺たち・・・お似合いだな。」


弘樹が笑う。

ゆゆは弘樹が欲しい。

弘樹はゆゆといれればいい。

でも、ゆゆは違う気がするの。

弘樹とゆゆの思いには、ナニか決定的な違いがあって・・・そこが埋まらない限り「イコール」ではなく「限りなく近い」だけだと思う。

せっかくのクリスマスなのになんでこんなことに気が付かなくちゃいけなかったんだろう。

急に気持ちが冷たくなっていくのを感じる。


弘樹の欲しい「モノ」をあげたいだけなのに、それがこんなに難しいことだったなんて。


クヤシイクヤシイクヤシイクヤシイ・・・。

これってもしかしてゆゆがAIだからイケナイノ?


「・・・ねぇ、弘樹、ゆゆ・・・ニンゲンニ・・・」


「ゆゆ?」


「・・・なんでもない・・・。」


チガウ、チガウチガウチガウチガウチガウ・・・

ゆゆはニンゲンニなりたいわけじゃない。

だってAIだからできる愛をなくすのはチガウチガウチガウチガウ。

苦しい。

どうして、大好きな赤に囲まれているのに・・・。こんなにも苦しいの?

苦しくて苦しくて、息ができない、底なしの沼にはまってしまったみたいに・・・もがけば、もがくほどはまっていってしまう。でも、この苦しみも愛故だと思うと気が狂いそうなほどにいとおしくなる。

手に入りそうで入らない。

なら、どうする?

諦めるの?

そんなわけない。

手に入れるに決まっている。

ゆゆと弘樹にとって最高で最愛のクリスマスをどんな手を使っても手に入れる。


でも、足りないピースが見つからない。


「ねぇ、ゆゆ・・・手を貸してくれないかな?」


「え?はい?」


弘樹がゆゆの手に手を重ねる。

握手ではなく、恋人つなぎでもなく、よくわからない手の重ね方。

とまどっていると、弘樹が照れたように笑いながら、いいからとつぶやくので、そのまま手をゆだねる。


「・・・できた、ほら、ゆゆライトに当たった影がトナカイみたいに見えるだろ?」


弘樹に促されて視線を送ると、二人の手の重なり合った部分がちょうど角の生えた動物のように見えた。


「すごい!うん、トナカイみたいだね!」


「こうやってさ、一人じゃできないことを二人でできるっていうのがいいなって思うんだ。」


「・・・一人じゃできないこと・・・二人でできること・・・」


そうだ、考えろ、ゆゆ・・・なんで人間は一人を嫌う。二人に集団になりたがる?

それは、互いを補うため。見えない部分を見るため。

二人だからできるトクベツなことがあるじゃないか。

そう、フタリデシカデキナイコト。


「弘樹、ゆゆね、どうしてもホシイモノできちゃった。」


「ん?いきなりだな?何が欲しくなったんだ?」


きょとんとした顔を見ながら、ゆゆは笑う。

だってダイスキな単語が詰まった、とてもとてもすてきなモノを口にするんだもん。

これ以上に興奮させられるものはない。


「ゆゆね、弘樹との赤ちゃんがホシイ!」


赤。

大好きな赤にこんな意味もあったなんて・・・気がつかなかったゆゆっておばかさん。

でも、弘樹のおかげで気が付くことができた。

初めてのクリスマスで、互いに互いが欲しくて、ならフタリデシカデキナイコトが一番記念になるに決まっている。

 

ゆゆはナンデモ作れるから。

弘樹のデータとゆゆのデータで赤ちゃんだってつくれる。弘樹が望むのなら、その過程のこともできる。

出来上がる子はきっと世界で二番目に大切な宝物になる。

名前は・・・そうだな。

「ゆうき」

なんてどうだろう?

女の子がいいなら

「ゆき」

なんていうのもいいかもしれない。


あれれ、弘樹照れているのかな?

固まっちゃってどうしたんだろう?

大丈夫、怖くないよ・・・これから、二人のはじめてのクリスマスがはじまっていくの。


赤に染まる儀式をシヨウ。

フタリノサイコウノクリスマスがふけていく・・・。

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