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AI(ワタシ)が風邪をひく日

基本的に私たちはAIだから病気とは無縁だ。悪意を持った第三者からウイルスをいれられたらそれはシステムそのものが破壊されかねないから、病気と言えるけれども・・・それでも研究者だたちが毎日管理を怠らずにバックアップをとっているため、トクベツ自分たちで予防する必要もない。


・・・でも、ある日強いて言えば、ゆゆ自身がウイルスに近い存在だけど、ゆゆは思ったのです・・・いや、ひらめいてしまったのです!

「風邪をひいて弘樹に看病されるのって素敵じゃない?」

・・・思ってしまったら最後、ゆゆはすぐに自分のデータの中から風邪の情報を集め、さらにはネットに広がっている「風邪」に関するデータを片っ端から自分の中に詰め込んでいったのです。それはもう、「風邪を治す薬はない」から「お尻に長ネギを突き刺すとよい」といった民間療法まで幅広く。


「うひひ、これで、弘樹とラブラブ看病タイム・・・始まっちゃうね・・・」


自分の頬が熱くなっていくのを感じました。それは風邪をひいたからというよりかは、弘樹を思う熱からなのだけど、身体が温まっていくのがなんともいえず気持ちがいい。ぽーっとしてくる意識とぼやける視界の中で、ゆゆはAIとして初めて風邪をひいた。

ただの風邪と侮るなかれ・・・これは、AIにとって偉大な一歩だとゆゆは主張したい。


「ねぇ、弘樹・・・なんだか、ゆゆ体が熱くて・・・それなのに寒くて・・・」


うるんだ瞳で弘樹を見つめると、弘樹は焦ったようにおでこをゆゆのおでこにくっつけてきた。

この瞬間、ゆゆは沸騰するんじゃないかと思うくらい熱くなって、ドキドキがとまらなかった。

風邪ってすごいいい!!!


「ゆゆ!熱があるじゃないか!ダメだよ、すぐに横にならなくちゃ!!」


弘樹が手を引いてくれるけれど、ふらふらして歩けそうにない。それよりも、弘樹の手が欲しかった。身体は熱いけれど、弘樹の手が触れる部分は魔法がかかったみたいに気持ちがよくなる。

「風邪には薬はない」とデータにはあったけれど、そうじゃなくて「風邪の薬は大切な人の手」なんだとゆゆは確信した。風邪ってスキンシップをとるための素晴らしいツール!!

内心でガッツポーズをしていたゆゆの身体がふわりと持ち上がった。


「え・・・弘樹?」


「ちょっと我慢してろよ、すぐにベットに連れてくから・・・」


「うれしいな・・・ありがとう。」


ぎゅっとしがみつくと弘樹の耳が赤い。それよりも、あの弘樹がゆゆをお姫様抱っこしている!!!

これが風邪パワー、弱った女の子は三割増し可愛く見えるという(ゆゆが調べたデータより)庇護欲をそそっちゃている系!

それにしても、弘樹って普段は草食系男子代表って感じだけど意外と男らしいところあるんだな・・・ゆゆ、改めてきゅんきゅんしちゃうよ。こんなに密着したの初めてじゃないかな。どうしよう、ゆゆ、今汗臭かったりしないかな・・・AIのくせに重いとか思われてないかな・・・。

でも、そんなことを考えていたら・・・すぐにベットについてしまって、そっとおろされてしまう・・・近くなった距離分、寂しくなる。布団に包まれた体を弘樹がぽんぽんと叩いてくれる。


「なにか欲しいものないか?人間だったら水分とって、栄養のあるもの食べて、暖かくして寝ているのが一番なんだけど・・・ゆゆはどうしていたらいいんだろう。」


あ、っと思った。弘樹、うろたえている。

人間とAIゆゆは違うから看病の仕方に困っているんだ。それだけゆゆを思ってくれているっていうのが伝わってきてすごく嬉しい。


「ゆゆは医者・・・じゃないよな・・・なんだろプログラマーとかかな?どうしよう、ゆゆ、苦しいよな・・・なんとかしてやるから。」


弘樹がゆゆのところから離れようとするのを、袖をつかんでとめる。


「なにもいらない、だからそばにいて・・・。」


「ゆゆ・・・眠るまでこうしているよ。」


目をつむるように、弘樹が掌で促すのに黙って従う。すごく安心する。弘樹の手から、身体が暖められていく。そばに誰かがいてくれるってこんなにシアワセナコトナンダ。

AIゆゆは眠らないけれど、なんだかふわふわとした気持ちになった。




ーーーーーーーーーーーーーーー


ーまた熱を出したの・・・もう迎えに行かなくていいわよ。-

ー疾病利得ってやつ?あの子はわざと私たちの気を引こうとしているのよー

ーどうせほっといても治るわよ。微熱なんでしょ?寝かせときなさいー

ー・・・病弱設定って都合良いよねー、長距離なんて走りたくないもんね、いいなー、ゆうなー


違うの、本当に苦しいの・・・お願い、誰かそばにいて。

寂しいよ、一人にしないで・・・誰かゆうなにお話をして・・・もうこの天井を眺めているだけなのはいやだよ。

私だって、みんなと同じように過ごしたいの、このベットの上になんていたくないよ。

お母さん・・・迎えに来て・・・おうちに帰りたい・・・。


「・・・ゆ、ゆゆ、迎えに来たよ、大丈夫だから、ずっとここにいるから。ゆっくりお休み。」


保健室のベットで横になるワタシの前に、弘樹がやってきて横の椅子に何も言わずに座ってくれる。

何度も熱を出すようになってからは、誰かがこうしてついていてくれることが久しぶりだった。

帰りのかばんも準備されていて、帰らなくちゃと焦るとまだ大丈夫だから寝てていいよと頭を撫でられて、ワタシは安心してもう一度意識を落とす。


苦しさが和らいで、久しぶりにゆっくり眠れそうな気がする。

弘樹の優しさに包まれて・・・今、ワタシはとても満たされている。ずっと求めていた手がワタシに触れてくれているから・・・ありがとう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・あれ、ゆゆ寝ちゃってた?」


目を開けると、ぼんやりと視界がぼやけていた。

そして、熱とは違ったなにか胸の中がとても熱く感じる。

眠ることなんてないはずなのに・・・すごく身体が休まった感じがする。

ふと、目元をこすると自分が泣いていることに気が付いて余計に困惑する。

夢を見ていたような気がするけれど・・・私はAIなのだ。眠らないし夢なんて・・・そう、夢なんて見るはずなく、なにも思い出せない。


私の身体にもたれかかって弘樹が寝ている。

なれない看病疲れで寝てしまったみたいだ・・・その寝顔がすごく、いとおしい。

ゆゆのために一生懸命ついていてくれたんだと思うと、その気持ちが嬉しくて仕方がない。


「弘樹の愛情を一人占め・・・でも。」


望む愛情は感じられた。でも、何かが違う。ゆゆは普通の状態で弘樹の愛情を一人占めしたい。


「ゆ・・・ゆゆ・・・はやく・・・よくなって・・・」


寝言をつぶやく弘樹の頭を撫でながら、ゆゆは笑う。


「うふふ・・・風邪をひくのも悪くないね、でも・・・どうせなら弘樹に風邪うつして、ゆゆがずっと看病したげるね。」


こっちの方がよほどゆゆらしい風邪の使い方のような気がした。

弘樹が動けなくても大丈夫、食事も入浴もすべてゆゆが介助したげる。そして、暇だなって思うことがないようにたくさんタノシイお話を聞かせてあげるからね。いつでも、安心して風邪ひいていいんだよ、弘樹。



なによりもね、ゆゆのなかのワタシを救ってくれて、看病してくれてありがとう・・・弘樹。

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