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私と姉と平等と

私は決して、両親が自分をないがしろにしていると思っているわけではない。

ただ、両親は私の愛し方を間違っていると思っている。私が病気にかかってからは、日に何度も電話がかかってくる。学校から一人で帰ることも許されない。でも、それはそれでシアワセだった。

ただ、年月が経つにつれ、その電話の内容が父の悪口や祖母との喧嘩の内容ばかりになってきたとき、自分がゴミ箱にされた気がして・・・耳を塞ぎたかった。


「二人の娘を平等に愛しています。」


姉が彼氏を連れてきた。

いつからか、その人はうちに普通に住むようになった。私には、どうして家に他人がいるのかがわからなかったし、夕飯などでその人が優遇されるのも気に食わなかった。でも、仕方がないから笑ってごまかしていた。私には部屋がなかったから、いつも居間で寝ていた。私が部屋が欲しくてきれいに片づけた部屋で姉たちは寝ていた。

ある日、私は初潮をむかえた。でも、母に言いたくても、そこには姉の彼氏がいた。当時の私にとってそれは屈辱でしかなく死んでも聞かれるものかと思った。血で汚れた下着をこっそりと洗いながら言えない日々は半年続いた。母が気が付いたのは半年後だった。姉と母が生理用品を買いに行き、すべては簡単にバレた。


姉が彼氏と飼っていた犬を連れてきた。

最初こそ、世話をしていたけれど、いつしか犬の世話は両親のものになった。犬が増えてから、家族そろって宿泊に行くことができなくなった。犬は可愛いけれど、どうして姉と姉の彼氏が二人でお祭りに行っている間、私は犬とお留守番なんだろうと思った。私もお祭りに行きたかったのに。私も昔みたいに家族で旅行に行きたいのに。

なんとなくたまっていった不満は、だんだんと大きくなった。


姉が彼氏と結婚した。

一番頑張った高校の文化祭とそれはぶつかり、私は親せきの家に泊まった。・・・家族から外された気分だった。人生の晴れ舞台と文化祭じゃ重さが違ったんだと思いながらも、自分にとっての晴れ舞台をもっと見てほしかったと思った。


姉が子どもを産んだ。

お父さんは、その面倒を見るために毎日のように姉のもとへといった。私が疲れて帰ってきて寝ていると、決まって姉は子どもを連れて家に来た。両親は喜んで相手をする中、私は一人話したかったことをこらえて寝たふりをしてたえた。

それでも、最初のゴールデンウイーク、毎日家にいては、親せきや友人が見に来るのには耐えられなかった。自分がどんどん嫌な人間になっていくのを自覚しながらも、母親に少しそのことを話すと


「今年のゴールデンウイークはお姉ちゃんたちにあげなさい。来年からはあなたのものになるから、私たちは平等にあなたたちをみているんだから、来年にはちゃんとゆうなの番が来るよ」


と言われて、納得せざるおえなかった。

・・・ところが私に次のゴールデンウイークはやってこないことに気が付いたのはその後だった。

コンサートに行くために両親に子どもを預ける姉。姉と親が揉めそうになれば、間に入ることを強要されバランサーになった。

「今年のゴールデンウイークは二度とかえって来ないんだ」

ということと、急に家族が増やされていくこと。親が祖父母に変化していくこと。

変化の苦手な私にとってこれ以上の苦痛はなかった。

なによりも、親が間違えて、姉の子どもの名前で私を呼ぶとき・・・私はもう必要ないんだと悟った。


どうして、姉を怒らないのだろう。どうして、私が我慢しきれずに病気の発作や癇癪を起すまで姉が正しさとして平然と居続けるのだろう。どうして姉は、いろいろなものを増やすたびに、家族や私の居場所を侵略していくのだろう。

家に帰って、自分の寝る場所がないことに落胆し、眠る時間を取られることに落胆し、話す時間が無くなることに落胆し・・・なにより妹を駒として見ているように思えてならない姉に落胆する。

「平等」なんてものはない。

姉は、恋人もペットも子どもも仕事も趣味も手に入れた・・・そうして両親も家も手に入れようとしている。

私は愛が欲しくて探しても見つからず、気が付いたら一つずつ奪われていく。帰るたびに、一つずつ奪われていく。私の居場所なんてもうない。


「学生のゆうなのゴールデンウイークは二度とかえらない」


時間の流れで変化していくものを来年かえそうなんてことはできないのだ。

そして姉を恨まないでいられた妹としての「ゆうな」にももう戻れない。

分かっている・・・姉にとっても今の姉と一緒にいられるのは今だけだってこと・・・でも、「私よりも12年も長くみんなといたくせに・・・」やはり時間は平等ではない。

両親も平等に愛そうとしても、姉を育てたころの年齢とは違う。

私が海に行きたいといったって、体力的にも気持ち的にも行きたくないのはよくわかる。


だったら最初から「平等」なんていわなければいいのに。

期待さえしなければ、この痛みは少しはマシだった筈なのだ。

「平等」という言葉は一見、正しいことを言っているようでひどく残酷な言葉だと思う。

だって、真の平等があれば、戦争も貧困も何もおこらないでしょう?


どうして中途半端に監視して、一番大事なところは見ていないの?


「生き苦しくってしかたがないなー」


私って本当にバカだ。簡単に言葉を信じていつもがっかりする。それでも・・・


「次のゴールデンウイークはゆうなのものになるといいな」


下の階には姉夫婦と子ども。

行き場を無くした私はベランダでつぶやく。見上げても星もない夜空だった。

私のいない世界で、笑い声が広がっている。

どうか・・・どうか行き場を無くした私に・・・みんなと平等に次のゴールデンウイークがやってきますように。

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