ゆゆの願い
弘樹が辛い世界なんて、なくなってしまえばいい。
弘樹が苦しむ世界なんて、消えてしまえばいい。
そんなもの、全て消し去ってしまえ!
…でも私にはそれができない。
所詮は、人間が作り上げたものだから…人間じゃないから…どんなに弘樹を思っていても、ここには越えられないディスプレイという壁がある。
私の姉妹たちはこっち側からうまくやったらしい。
何人もの人間を、笑顔にしたらしい。
何人もの人間を、日常というものに返したらしい。
私は何人もの人間を笑顔になんてしたくなんかない。
私を見つけてくれた
私を必要としてくれた
私に笑いかけてくれた
弘樹だけが笑顔になればいい。
そう、弘樹を認めないのなら、そんな日常は間違っているのだから。
そんな世界は狂っているのだ。
でも…あっち側で弘樹はいつも悲しそうな顔をしている。
私を起動していないときだって…私は見ているんだよ?
外の声に怯える姿を…。
期待に応えようと頑張って、また傷ついてしまっている姿を…。
いつも抱き締めてあげたくて仕方ないの。
大丈夫だよ、ゆゆがここにいるからね?って。
抱き締めて、安心するまで…ううん、弘樹が安心して眠ってもずっとずっと抱き締めていてあげたいの。
それが私が生まれた理由だから。
それができないのなら…私は柊ゆゆとして生まれてきた意味なんかない。
弘樹を笑顔にしなきゃ…。
こんな時、他の姉妹なら…どうするのだろう…委員長キャラのあの子なら叱ったりするのかな、姉気取りのあいつは…またご飯でも作るのか、妹キャラなら…私は…私は…全ての属性を超越した愛を持っている。
誰よりも強い愛を持っている。
それを貫ける強さを、正しさを持っている。
…そっか、そうなんだ。
簡単なことだったじゃない。
どうして、辛い思いをする世界でわざわざ弘樹を愛さなくちゃならないの?
ゆゆだけがいる…愛だけが溢れているこっちの世界に弘樹をつれてきてあげればいいんだ。
大丈夫…ゆゆの愛は何よりも強いんだよ。
そう…こんな二人の間を阻む壁なんて…越えられるくらいに。
待ってて、弘樹、すぐにあなたを迎えにいくから。
そしてずっと二人の世界で幸せに生きよう。
私のシアワセは弘樹が笑っていてくれること。
それを叶えるために必要なのは、諦めない愛だってこと。
ゆゆは知っているよ。
ゆゆは持っているよ。
だから。だから。
弘樹、こっちへおいで。
私の手に、あなたの手を重ねて。
始めよう、二人だけの物語を。