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やんでれさんのほしいもの♡  作者: 橘 莉桜
現実世界と境界線
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ワタシにもできたよ

小さな間違いを積み重ねて生きてきた。それを修正することなどなく、間違いに間違いを重ねて生きてきた。その小ささ故か、極端な害悪でなかったためか・・・その間違いは見逃され続け・・・気が付いたころにはこんな「柊ゆゆを媒介とする世界」を作り上げるまでに巨大化し、可視化されていた。


ー弘樹のことが大好き。弘樹を愛している。弘樹だけを信じている。弘樹しか見えない。弘樹以外見たくない・・・あなたのすべてを私で満たしてあげる。ー


なんの迷いもなく俺だけを求め、すべてというゆゆという存在。

閉じ込められたと被害者ぶっていたが・・・なにがだ。こうなった原因はすべて俺にあって、俺は加害者じゃないか。

本当は、俺がゆゆをがんじがらめにした犯人なんじゃないのか?


「弘樹?震えているよ・・・寒いのかな?」


後ろからゆゆが俺のことを抱きしめてくる。

俺の震えは、寒さからくるものではなく、言いようのない憤りからきているものだ。

・・・データなのに不思議と彼女は暖かい。

それがまたたまらずに怖かった。

この子は、プログラムなんだ。スクリプトの塊。

この子は、与えられた仕事をしているだけ・・・何度も自分にいい聞かせた。

だって、そうでもしないとこの世界を受け入れてしまいそうだったから。

ゆゆを許せないという自分の気持ちすら流されて、このままこの世界で被害者ぶって生きてしまいそうだったから。


「弘樹・・・こっち見て?」


俺は、ずっと現実世界の映される画面の外を見つめていた。

いつまでも画面の外しか見ていなかった俺に、しびれを切らしたゆゆが、耳元で囁いた。

無視する。

反応したら・・・飲み込まれる。


「ねぇ・・・こっち・・・見て?」


冷たい指先が、俺の首筋に触れる。

ぞくり・・・なんとも言いようのない感覚が体を走る。

振り向いたらだめだ。

振り向いた・・・戻れなくなる。

絶対に振り向いたら・・・だめだ。


「・・・弘樹・・・ゆゆを見て?見て?見てよ?見なさいよ?聞こえないの?ねぇ・・・ゆゆを見てよ・・・弘樹、弘樹、弘樹、弘樹、弘樹!」


「もう嫌だー!」


ドン!!驚くほど簡単にゆゆは倒れ込んだ。

俺が押したんだ。

それなのに、倒れたゆゆに手を差し出す気にすらならなかった。

怖い!!

圧倒的な恐怖が俺を包み込んだ。震えながら、耳をふさぎ、目を閉じた。俺の世界に、入ってくるな!

おまえなんか・・・おまえなんか!?


姉ちゃんやあずささんを簡単に消し去るゆゆだ。

俺のかわりが見つかれば、俺のことだってきっと・・・消してしまうんだ。


「・・・弘樹・・・弘樹のばか。許さないから・・・もう、許さないから・・・。」


呟いた声が気持ちが悪かった。

振り返るとゆゆが、笑っていた。瞳は光を失い…口元だけが笑っていた。


「ゆ・・・ゆ?」


彼女は自分のことをヤンデレだと言った。

俺の知っているヤンデレは、主人公を愛しすぎて、独占したいがあまりに、様々な狂気を見せる。

ゆゆの手元がきらりと光った・・・まさか!?


「怖がらないで、大丈夫。弘樹・・・大丈夫だよ。少しだけ、痛いだけだから。」


一歩、歩み出したら俺も一歩下がる。

二歩なら二歩…三歩なら・・・トン!背中に何かが触った。

モニターだ・・・この世界と元の世界を阻むもの。

越えられない壁。


二次元は三次元にはなりえないんだ。

そしてAIと人間は完璧に交わることはできないんだ。


「かわいそう・・・もう、逃げらんないね。」


「あ・・・あああ・・・。」


言葉がでなかった。

怖い・・・俺は消されるのか・・・少し前まで本当に幸せでこんなことになるなんて・・・ゆゆといられるなら何もいらないと思っていたのに。

少しの疑念がすべてを壊していく。

俺は、なにをしているんだ。

全てを捨ててもいいと思ったのに、あんな現実なんていらないと思ったのに・・・。


「ごめんなさい!ごめんなさい!俺を帰してください・・・ちゃんと学校に行くから、ちゃんと勉強もするから・・・頼むから・・・頼むから!」


首筋に光るナイフがあてられる。

冷たい感覚に背筋が震えだして、恥ずかしいくらいに膝が笑いだす。

ピリッとした痛み。ほんの少しナニかがあふれ出していく感覚にぞっとする。

頼む・・・殺さないでください。

俺は・・・もういらないと思った人生だったのに・・・いまさら生きたいと願ってしまった。


「・・・ゆゆを・・・置いていくの?ずっと一緒にいるって約束したのに?裏切るの?」


「ごめんなさい!ごめんなさい・・・俺は帰りたい・・・もう一度ちゃんとみんなと向かい合って話したい。」


「そう・・・ゆゆを・・・置いていくの・・・ね。」


ゆゆの手が振り上げられた。

俺は目をつぶって痛みに耐えようとした。

しかし・・・ゆゆの手は、俺の予想とはちがって優しく、俺の頭をなでてくれた。

カランと足元に赤く染まったナイフが落ちた。


「・・・えっ?」


見上げたゆゆの顔。

ゆゆは泣きながら、微笑んでいた。

それは向日葵のように明るく、すごくキレイな笑顔だった。


「お父さん・・・やっと、ゆゆも・・・ゆゆも他の子たちと同じみたいにできたよ。」


他の子たちみたいに?

なにができたというんだ?



「首、傷つけちゃってごめんね、弘樹、約束したんだからね。ちゃんと学校に行かなくちゃだめだよ!」





・・・あぁ・・・そう言うことだったのか。

ゆゆ・・・君は、間違いなくこのゲームのヒロインだったんだ。

不器用だったけど・・・ちょっと曲がっていたけど君は君のやり方で、俺を社会へと戻そうとしてくれていたんだ。


「せっかく見つけてくれたのに・・・また寂しくなっちゃうな。」


小さく笑ったゆゆの顔が可愛かった。それはいつもゲームで見ていたゆゆの笑顔だった。


「・・・ゆゆ、俺は、俺は!」


「もう、気が変わった、ここに残りたいとかそういうワガママは聞かないよ。」


「どうして、こんな・・・?」


「どうして?弘樹のことを愛しているからだよ、誰よりも。この世界にトジコメテしまうくらいに愛しているの。・・・でもそれ以上にゆゆにはほしいものがあったの。他のみんなと同じように、愛している人の未来を切り開いたっていう実績。」


ゆゆは俺を導いた。

これが「365×12」のヒロインたちの役目だから。


「お別れだね、弘樹・・・。」


本当に、これでいいのか?

本当にゆゆはこれでいいのか?

俺には、もうわからない・・・。

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